山吹さんちのイーブイさん※奴良さんじゃない所がミソ…かもしれない | ナノ


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あれからお祭りには、行っていない。


◆◆◆


「どうでもいいけど、皆下の名前呼びすぎよ」


……ぬらりひょんの前じゃないから、いいけど。

最後は口にせず、フンと鼻を鳴らす。視界の端で氷壁もどきの中もがいていち早く復活しかけていた男がビクリとした。どうも唯一原因を免れていたらしいそいつのみ、現在生身のようなものなのである。
だって全員そうしたんじゃ話が聞けないからね。
それでもタテ半分は固まってたけど。それくらいの加減妾には朝飯前だもの。

ええそう、他は皆氷像にしてやったわ。ふん、折角の手がかりを逃すから悪いのよ。当然の報いだわ。
全く、何でこうも男ってやり口が乱暴なのかしら。あれくらいの少女子じゃあ、泣くかびびって逃げちゃうに決まってるのに。両方だったけど(…尚更悪いじゃない!)。


「あ、あのー…せつ……いや、雪女、さん?」

「別に今更良いわよ言い直さなくて。何?」


男は恐る恐る、何というか、予想通りの名を呟いた。溜め息を禁じ得なかった。


「名前ちゃんに逃げられちゃったの、そんなにマズかったんすか…?」

「マズいも何も、大マズよ。…まあ、あんたに『名前が来てたなら何で早く教えなかったのよ!』って言ったって、そりゃ流石に無理があるだろうって妾もわかってるから、いいわ」

「は、はあ…」


しかしながら、いくら痛恨の失とはいえ今言ったように、この男に当たるのはお門違いというものだった。
この男、氷像いっ……ではなく、荒鷲一家の一員なのだけれども、比較的新顔な上に妖の中では外見通りの年若であるがために彼女の事をそこまで知らなかった。男女の差あれど一見見た目ではそう変わらなそうに見えても妾とは違う。あの少女を見て何かを気づけという方が無理な話。
なら古株連中はどうなのか、という話だが、それもまた微妙なところであった。

何故なら彼女、乙女ちゃんはこんなとこまで来なかった。普段は本家、それ以外は寺子屋で働いていたのだから。
それに聞けば名前は最近手伝いに入ったのだという。しかもあんな被り物をしていたのでは気づかれにくいだろう。…あ、でも彼さっきつっこんでたけど。普段は違ったみたいね。
だけど髪がそれこそ乙女ちゃんみたいに長くって……結局、顔は隠されて確認しづらかったのだろう。


「うおっ、何じゃあこりゃあ!?」


そういえば像達、人目引いちゃってるけど。人間のじいさんが驚いて引っくり返ってるわ。
とりあえず、氷の見せ物だと思う事にする。

隣から「ちょ、どうすんですかコレ!?」みたいな焦ったような視線が来たけど、ぷーいと顔を逸らした。
そして、経緯を話す。

乙女ちゃんの事。
名前の顔立ちが異常な程に、血の繋がりを疑わない訳にはいかない程に、彼女に似ているのだという事。
手がかりは目下、その子にしかないのが現状である事――


「…だからね、次見かけた時は何が何でも引き止めておいてほしいのよ」

「あー…なーんかどっかで見たような気ィしてたんすよね、そっか、そういう事だったのか…」

「ちょっと、気づいてたの!?」

「ギャア!雪麗さん雪ッ雪ィ!冷たい!」


どこか納得した風のそいつに詰め寄ると、男は慌てて訳を話し始めた。
初対面の時、名前の顔に何となく覚えがあるような気はしないでもなかったものの、結局思い出せずそのまま片付けてしまったらしい。
…まあそれも仕方ない、か。きっと以前夫婦が一緒にいたのを見たか見ないか程度でしかなかったのだろう。


「…ま、過ぎた事を言っても仕方ないわね」

「スンマセン……でも、そういう事なら俺…いや、俺達全員で探してみますよ。事情は後で皆に言っときますんで」

「そうしてくれると助かるわ。任せたわよ」

「了解ッス!あ、それとですね、名前ちゃん祭りずきみたいですからこうなりゃ片っ端から当たってみますよ!」

「あらそうなの。貴重な情報ありがとう」

「いえ、元はと言えばウチの失態ですからね、当然っスよ」

「…あんた、まだしたっぱなんでしょ。氷、溶けきってないとはいえ聞かれたらどやされるわよ」

「ゲッ!……この事は是非ともご内密に」

「はいはい。じゃあ妾はもう行くわ。ここら一帯の様子も見られた事だし」


「早く伝えないといけない人物がいるから」と最後に言い置いて、妾は踵を返した。
真っ先に伝えるべき人物を思い浮かべながら。

けれど、その前にまずは最初に話を持ってきたのを目指す事にする。川辺にでもいてくれると話が早くて助かるわ。
ここを任されている妖として様子を見に来た訳だけど、逃げられてしまったとはいえ思わぬ収穫とはまさにこの事。

妾の独断で動く訳にもいかないし、大体、本当は真っ先に伝えるべき、伝えてやりたい息子の方は今日も捕まらないでしょうしね。


「…って言っても、ぬらりひょんも大概ふらふらしてるけどね…」




しかし幼い割に用心深かったのか何なのか。どうも相当に警戒させてしまったらしかった。
何故なら、折角の助言も空しくこの後少女の姿を祭りで見かける事など、なかったのだから。
あの青兎も。

…ううん違うわね、全く見なかった訳じゃない。荒鷲一家からもそれらしい姿を見たと、報告すらあった。
だけど不思議な事に、声をかけようとしても気配を察知された途端、瞬きした次の瞬間には消えているらしい。

結局、ぬらりひょんと相談の上、ただでさえ妻が見つからず途方に暮れているというのにぬか喜びさせるに忍びないと、この話は未だ鯉伴にまではいかずそれこそ、妾の季節が終わりそうになっている今も妾達二人の胸にしまわれたまま。肝を取られた事とは別に、ぬらりひょんが一気に老け込んだように見えた。彼もまた、息子共々相も変わらず飄々としているように見えるが、その実酷く気落ちしている息子に痛ましそうな顔をする事が増えているから。
…昔はそんな顔しなかった。そう、独り身の時は。
ずっと見ていたからわかる。

こんな時、珱姫が生きていたのなら多少は違ったのだろうかと、今日も今日とて不発に終わった祭りの帰り、恐らく妖なのだろうたまたま目に入った桃色頭の少女の後ろ姿を視界に納めながら、何となく思った。


◆◆◆


ただし、人間バージョンではですけど。


「あーあ…おにーさんに遭遇しないとも言いきれないし、お祭りももう行けないなあ…」


ばびゅんとウチに戻って早数日。
お母さんの見てないとこでさみしー…、とまで呟いたとこで「…って、おい!」と思わず自分にノリツッコミ。

原型って手があるじゃないの何うっかり忘れかけてんの私!(おいポケモン!)。

とりあえず、冒頭でのセリフはさっきの言葉が前提。原型バッチコイ。
ああ、グレイシアはやめてるけどね超意図的に。




そして気づいたからにはちみっちゃく上手いコト犬かなんかと勘違いされやすい(お母さんもしょっぱなそうだったしね!…何でや!)イーブイ姿でお祭りやらそのへんやらに出没してはきゃっきゃしてた私だけど、別に黒髪薄水色髪金髪を除く人型ならぶっちゃけはっちゃけ(韻)ても良いんじゃね?ってコトで時たまソレで遊びにレッツらゴーして今度は早数週間。
そろそろ雪はその生涯を閉じ、春が舞い降りる。太陽を糧とするエーフィやリーフィアには嬉しい季節だ。

んで人型は人型でもその髪を持つ種、つまりはブラッキーグレイシアサンダース以外でお祭りに興じてた訳だけど……あーっと、あとは赤毛とか緑髪も除いてたかな。おにーさんは知ってるから。
だけど最近ではもー面倒ジャー!ってコトでどのような過去事情思惑があるにしろやっぱり一番ここ江戸において目立ちにくい黒髪で統一しちゃってマス。お祭りの傍を通過する時等、何となーく不安な時は髪を結わえて布でも被れば何のその。目は夕日の極みみたいでアレだが、これはもう気にしたら負けである(しかもお母さん譲りでデカい!から無駄に目立…嗚呼)。

ただ、それはその辺をふらつく時の装備であって。
…ただ、結構危なかった事もあったんだけど、何故か『逃げたい!』と思った次の瞬間には相手は私の姿を見失いでもしてくれるのか、私は悉く逃げ切れているのだけど。んー…、前にどっかでこんな事があった気がするんだけど、はてどこでだっけ…。


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