▼16ゲット まっ記憶はまだしも何でかは考えたって(私のアタマじゃ)わかんないし、今はこの人間の手だからこそ上手く持ててるコレ、ぶっ飛ばさないよーに集中しないと!まだまだキレイさが足りない! 今の私は青髪で、おしごと中なのだから! 「あっ、手すべっ…」 「店長!お皿洗い名前、終わりました!」 「おっ相変わらず早い事。水仕事は名前に任せるに限るねえ。まだ水も冷たいってのに、よくやるよ」 「えへへ、お水は(時と場合によっては)お友達ですから!」 「友達?…アハハ!名前は相変わらず面白いねえ!こないだも女にはキツい荷物運びもラクラクこなしたかと思えば『生まれつき…ううんそれは違うかな、三年経ったら急に筋肉モリ男になったの!』とか言ったんだろ?聞いたよ皆に。あたしゃそれ聞いて思わず茶ァ噴いちまったよ」 「ハハハハ…」 いつものとは違う茶色い着物。三角巾にたすき掛け。まだまだ成長期途中な私は頭一つ分は違うその人を見上げていざ敬礼。そして過去のお口滑り台に拝礼。 私の本分を忘れてはならない。忘れていた訳でもない。 お祭りお祭り言ってたけどそれは合間の話であって、私は本来ある程度街を観光したら即就活するつもりだったのだから! そんなこんなで私が頼ったのは、かつて首無お兄さんについての情報を沢山恵んで下さったあのお店。化猫屋は近いけどその彼が直接来る訳じゃなしましてや頻度は減ってるって話だったし、お店のスタッフの雰囲気が良かったのは身を以て知ってるのだからアタックするならまずはここ!と内心決めていたのだ。 あれから半年とまでは行かなくても結構な月日は流れてるから自信なかったけど、ここのおねーさん方は私を覚えていてくれた。それもその筈。 別にそんなセコイ考えじゃなかったんだけど(ていうか頭回んない。…エヘッ)、情けは人の為ならずとでも言おうか。あの時親切にされて嬉しかった私は、あれから人と会話になる度「いいお店といえば!」ってな話題ではここを推しまくってたからだ。で、お店に来るお客さんはお客さんで店員さんに「毛色の変わった嬢ちゃんに勧められた」と人によっては話してくれてこれまた話題になり、結果、お店の皆さんの印象に残ったらしかった。 …うん、確かにある意味(ていうか文字通り)毛色変わってますからァァ! しかも私は若いのもあってスッピンでもベッピン(韻その2。…3?)さん。流石お母さん顔! 自分で言うなって感じだけど、そんなのもあって私はどうやら印象に残りやすいらしい。 でもまっ所詮私は中身ポケモンだしね!この顔はお母さんのであって「私の顔!」ってのとはちょっと違うからてらいも何もない気がするのだけど。だってやっぱり私にとっての私の顔はイーブイとその進化形だし。 まあでも確かにポケモンの中でもかわいかったりカッコよかったりすると印象に残りやすいもんね。…でも、やっぱ一番は強さな気がしてたけどね!木の実モグモグしながら周りの仲間達を眺めたもんですよ、うん。そーいえばいつだったか知らずに辛い実食べちゃってえらい目に遭ったりしたっけなー懐かしいや(…リアルかえんほうしゃ!)。 私にゃポケモンの美程ヒトの美には頓着はないしお母さんの事だって最初前世で培った基準で頑張って計っただけだった。 でも、みんなが褒めてくれるからそういう事なんだろう。お母さん、改めてそっくりに産んでくれてありがとう! …あと、一応お父さんにも感謝しとく。きっとブッサイクー!なら今の私はなさげな気がするし。 「それじゃあ名前、今日はもうあがっていいよ」 「あっはい、ありがとうございます!お疲れ様でした!」 「帰り道気を付けるんだよ」とありがたいお言葉を背に受けて、私は裏口から裏山へと帰宅する。 心の中で「大丈夫です、逃げ足は金髪なら自信モリ男ですから。」と返しながら。 そして今更だがモリじょ(女)のが良かっただろうかと後悔気味。いやモリ子か? あと訳わかんないけど秘密兵器もあるし。あのなんか透明人間にでもなったみたいな感覚の……今度お母さんに言ってみようかな、だけどさてどう説明したものやら。 何故なら未だに私はこのアルバイトは疎か街に繰り出してる事もお母さんに黙ったまま。よくバレないなーと思う。…でもそろそろ限界かなーとも思ってる。流石に美味しいモノ買って帰った日にゃ質問攻めだったもんねかつての少年にお礼として貰ったノをリピート状態のラジカセの如くゴリ押ししといたけど。ごめん少年。 それから事あるごとに少年からのおみやげだのお裾分けだのその使い勝手の良さからテキトーなコト言ってたから、今じゃ彼はどこぞのおぼっちゃまだ。 それはさておき『お母さん助けたいけど黙って出てきてる』って話、つまり事情は店長や皆には話してあるから早めに(前世で言うなら5時くらい。冬終わりらへんから春手前のまだ明るい感じの空からして)帰してもらえるし、お店の人達は皆良い人だし。恵まれてるなーって思う。 あっそうそう、お店で最初に話しかけたおねーさん、実はあれ妖だったの!私は仲間だからって教えてくれたんだけど皆は知らないんだって。そんなだから彼女は最初から私の正体に気づいてたみたい。違う色の髪でたのもー!ってヤツ?をやってどなたはん?ってなったら困るから最初と同じシャワーズの擬人化で行ったんだけど、そういえば外と違ってそんな真っ青ーなアタマで突撃しても最初からお店の人達の視線の温度が冷えるなんてなかった。だって彼女が既にお世辞にも黒や茶色とは言えなかったんだもんね。そんなのもあってすんなり仲間に入れて貰えたって訳。 妖だから、同じく妖である首無お兄さんが最近足遠のき気味なの、唯一知ってたんだね。うーん納得! それで、帰り道だけど。 店長は帰る時いつもああ言ってくれるんだけど、時間からして実質そんなに危ない事は……、 「…っ」 なくも、ない。 …全く、お店のとは別の大きめな布持ち歩いて頭に乗っけるという…ある意味せつらさんから逃げた時よりヤバイくらいヘンテコな被り方までしてるってのに、中身を知られてるせいかそれでもこうなっちゃう。お店を出る直前にこうするのが最近日課になりつつある訳なのだけど、効果が表れるどころか段々悪い方悪い方へと転がってってる気すらする。 とりあえず、今私は金髪にしてでも秘密兵器を用いてでも猛ダッシュするしかなさそうだ。まあもう慣れっこっちゃ慣れっこなんだけど。最悪な事に。 いくら私が人間にとってそういう顔をしてるからなんだってわかっても、こればっかりは受け入れられる事じゃない。 当初、首無お兄さんみたいな素敵な人を一瞬期待した事もあったけど、思い浮かべた瞬間それはそれは自嘲したものだ。 「あっ…」 だけど、目についた角を曲がったのは失敗だった。 袋小路―― 何故なら私の進化レパートリーに、まだ飛行タイプはない。 |