山吹さんちのイーブイさん※奴良さんじゃない所がミソ…かもしれない | ナノ


▼6ゲット


「うーん、多分こいつぁ13、4歳ってとこかね…あれだね、心…本来の歳に合った!って感じ?キリよくプラス10って訳だ」


出窓やショーウィンドウ、…なーんて素敵なフリーミラーを見つけられなかった私は、仕方ないのでその辺の、しかし人様の邪魔にならん所へ適当に水溜まりを作っていた。「えいっ!」って感じに人差し指を伸ばして手を振ったらその指先からピューとかいって出せた。わお。少年の時もだが、一瞬これで食べていけそうな気がした私は間違ってなさげと思われるんだけどどうだろう?

覗き込んで結論づける。髪も極端に伸びてしまったため屈んだ拍子に水にビチャアしてしまわないよう片手で纏めながら。いや何、私はお母さんと違って下の方を結わえていないからね。だからこそ煙に遊ばれる。だっていくらお揃いになりたいといってもハント中だとか暴れてる間にポロッとかいって無くしちゃいそうなんだもん。だからこればっかりは初めからつけてない。
しかし、ならば下ろした髪は邪魔にはならないのか?って点は、単に「その方が可愛い」ってお母さんに言われたから。私はお母さんが好きだから、お母さんが気に入ってると言うのならそれでいい。それがいい。


「…えへへ」


瞳だけ、は紫がかってはいるもののお母さんの色に近づいたからそれは嬉しい。

…嬉しい、んだけど。




プチ問題が発生したのは大通りに戻ってすぐの事だった。


「どうせならさっきのお兄さん見つかんないかなァー。…一方的に言いたい事言ってあまつさえそそくさと逃げ出してきたのは私だけど」


まあ、デタラメに逃げたのはいい。
今江戸は江戸でもどの辺にいんのかなんてマジでさっぱりだけど、最終的には家は匂いで追おうと思えば追えるから迷子にはなりそうでなってないし。イーブイ…じゃなかったもう違うんだった、シャワーズの嗅覚をなめるなよ!


「えーっと、……これ、どーしたもんかなー……まあ今日は我慢なんだけど、さ」


ただそれよりも今、私はお兄さん以外のところで、困るとまではいかないものの微妙ーに居心地の悪い思いをしていた。多分探偵として動くなら自身の中で最も強力な武器であろうそれを駆使してさっきぶりのお店の香りを辿る足も自然と速くなる。

くそっ、風呂敷なんて便利アイテムなんざそう都合良く持ってるかってんだ!


「…まあ皆、お母さん色(しょく)が基本みたいだもんねえ……あーっと、次はこっち曲がって…っと」


ちくしょー、あんなに望んだ進化がまさかこんなところに弊害が出るとは…と端から見ればわがまま極まりないであろう文句をぶちぶち垂れながら曲がり角を曲がる。
別にさっきのあいつらみたいにやましい事をしてる訳じゃないんだから隠れる必要なんてない筈なのに、そこがたまたま立ち並ぶ店の間だったおかげでそう人目に触れる事もなく、なんだかホッとしてしまった。

何て事はない、無作為の進化を経てしまった今、この姿は無駄に目立つのだ。
…主に頭が。

前の世界では特に珍しくもないこの頭もここ江戸ではレア中のレアらしい。いや出来損ない中の出来損ないとかになってしまうのだろうか?
道行く人達の微妙な目が言っている。…「何あの髪」、的な?

私、人っぽい姿とかいうと人里に一度も出た事がなかったおかげでお母さんしか知らなかったから、知らなかったよ…。


「さっきまで茶髪(明るめ)だったから、ぎりぎりセーフだったんですね…!」


…ここ江戸が、真っ黒な髪の人ばかりなんだって事を!
ついでに瞳も大体そんな感じだった。

夜空の中に一部青空、で目立たない筈がなかったのだ。まじ何で私シャワーズなんかになっちゃったんだろう。ブラッキーなら顔を覗き込まれない限りいらん視線頂戴する事なんざなかっただろうに。だって黒髪赤目だよ予想だけど。
リーフィアは茶髪ならさっきまでの私みたいにアリな気がしないでもないが、どちらかといえば緑になりそうだから却下だ。

風呂敷を望んだのは単純にそれを頭に被ればまだマシだろうから。ただ被り方を間違えるとコソドロというか、私の世界のどこかにいるという火事場泥棒さんになりかねないけども。

即席鏡で自身の容姿を確認した後私はどうせぶらつくなら、とお兄さんのヒントを得がてら大通りを制覇する事にしていた。しかしながら数分も経たない内にチラチラ向けられる一回では済まない視線の数に、復活した筈のうきうきした気持ちは、まるで膨らませたばかりの風船が空気を抜かれるが如くまたもしぼまされてしまったのである。

ポケモンなせいか妖になったせいか。鋭い感覚は否応無しで向けられる含んだような視線は全て拾ってしまうらしかった。…何この究極の自意識過剰。
――なんて、ふざけていられればどんなに良かった事か。多分この視線の意味は、間違ってない。

私としては我ながら中々いけてる色じゃあないか!とほんの、正直に言えばほんの少ーし思ったりしたのだけれども、世の中そう甘くはないらしい。
あの少年が気にしてなかったのは子供だったからなのだと、別にそんな夢を壊すような事知りたくもなかったってのに再確認させられるのと同時に理解したよ。


「…ま、次からは何か被って来ればいいんだし。それより…」


しかし完全に落ち込む事はない。ヒントを得がてらと言ったが元手は一応ゼロではないのだ。
今は思うように楽しめずとも目的を果たす事くらいは出来る。

お兄さんは『うちの店』と言った。





「いらっしゃいませー!」

「すみませんおねーえさん!ちょっとお聞きしたい事があるんですが、」

「はい、何でしょう?」

「ええと、このお店に――用心棒みたいなお兄さん、いませんか!?」


化猫屋の近くまで難なく戻った私。
私の作戦はこうだ。名付けて…、


『うちの店の近くってゆってたんだから化猫屋の近くのお店のどれかで働いてる可能性大のお兄さんを探すならいっそ付近のお店片っ端から聞き込みすればよいではないか大作戦…!(一息)(うーん、まんまだ!)』


あんなに強いのだ、きっとこの界隈じゃ有名な筈!と閃いた私は、マジ探偵か?って勢いで聞き込みを開始する事にしたのだ。

そこでまず一軒目にというか店番のお姉さんに突撃してみた、のだけれど。


「ああそれなら多分、化猫屋にたまに来る首無君ではないでしょうか」


何と、一発ビンゴだったのだ!


「くびなし?くん?」

「そうですよ、別に用心棒という訳ではないみたいなんですけど、でもあそこでケンカとかあるといつの間にか解決しちゃったりなんかして…おまけに顔もイイんですよ!」

「…は、はあ」

「あら何、首無君の話?」

「あっ店長!そうなんです、どうやらこの子が探しているみたいで…」

「まああの人ったら、こんな若い子まで…!罪な男だねえ…」

「!!?」


なんか、盛大に勘違いされてる気がする!


「まあいいわ。それで首無君の事だけど、あの人来たと思えば人相書を手に人探しかまたは『うおあああ!りはーん!!』とか叫んでるから。見つけようと思えば案外簡単にいけるんじゃないかね?」

「あ、それあたしも見た事ありますー!」

「わたしもわたしも!よくあさっての方に向かって叫んでましたよねー」


しかしほっとけばこの分だと更なる情報が得られそうだと(…な、な何を言われようとも…!)傍観を決意。
何やら女性に人気のある人なのか気づけばわらわらと群がる店員店員店員(♀)。すげえ何だこれ、メロメロ?(技)。

でもわかる気がするよ。
だってあんなピンチに颯爽と登場しちゃう正義のヒーローだもん。しかも強い。世の女性がほっとかない!ってやつなのかも。


「でも…」


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