山吹さんちのイーブイさん※奴良さんじゃない所がミソ…かもしれない | ナノ


▼6ゲット


その時だった。
初めてあまり明るいとは言えない情報が出たのは。

最初に話しかけた店員さんからだった。


「最近それも見られなくなりましたよね。隠れた名物でしたのに…もう三年、いえもうすぐで四年になりますか。この辺りにも以前程いらっしゃらなくなったように思います」


私の年齢とほぼ同じじゃんと思うと同時に、つまりは手っ取り早い手段はアテになりそうにもないのだと気づいて、落胆した。

声は覚えているのだ、どこかでそうやって騒いでくれれば見つけやすかったのに、と。


「そう、なんですね……ありがとうございました」


沢山の情報を無償でくれた親切な店員さん達にお辞儀をし、駄目元で化猫屋に向かう事にした。

今日はほんとのほんとに、運が良かっただけなのかもしれない。
昔程この辺に現れないというのに、そんな人に助けて貰えたのだから。


***


しかし、この世界の神は容姿の事で地味に落としつつも、そこから上げてくれる優しさがあるらしい。
そういえば、初めからここの神様は私に優しかった。


「、君!」

「…はい?って……え、ええ!?」


案の定化猫屋でもさっきのお店と大体似たような話のみでそれ以上の情報を得られる訳もなく、もしかしたら今日はもう帰っちゃったかもしれないと、茜色に染まってきた空に街から遠ざかり始めた時だった。


「その声!」


背後から、何とあの声…あの人が、あっちからやってきてくれたのだ!

…って、


「…あの、随分息が上がってるみたいですが…大丈夫ですか?」

「あ、いや…気にしないでくれ…」

「は、はい」


ほんとに…?とおもいつつ本人がそう言うならスルーがいいのはチラチラ人間を見ていた私だから知ってはいる。だからただこの人をさっきの乙女達の噂もあってついつい観察しちゃったけど、人間世界で言うならきっとめちゃめちゃ美形な部類、それも上の方に余裕でランクインしそうな人だった。やべ噂は本当だ!
ここに来るまでに全力疾走でもしたのか肩を上下させてるのが気がかりだった訳だけど今の私なら冷水もやっぱ必要そうって言うならご用意出来るからそれはさておき。

だけどこの時、
喜びのあまり私は私を、忘れていた。


「あっていうか、あの……お兄さん!今日は助けてくれて本当にありがとうございました!それと、さっきは逃げちゃってごめんなさ――」

「は?」

「……、え?」


あれ?


「…あ、あの、もしかして…」


まさか人違いならぬ、声違い…!?と焦り始めたところで、あまりの偶然にのぼせた頭は次の言葉に、冷却された。


「あ、ああ悪い。そうか、やっぱり君、今日の娘のお姉さんなんだな……って、大丈夫か!?」


お、ね、え、さ、ん。

衝撃の五文字。
岩なだれ(技)ばりに落ちてくる。ドスドスドスッと。脳天に。

サー…と青ざめた挙げ句思わずよろける。顔色も相まって貧血とかと勘違いされるのもやむなしか。
慌てて支えてくれたお兄さんは見ず知らずの子供を無条件に助けてくれるような人なのだ、真実優しい人なのだろう。しかし今の私には「ありがとうございます」すらも上手く返せたかどうか。

プラス10。ああ何故このタイミングだったのか。つまり、私は私と気づいてもらえない…!
バカすぎる、今気づいた。

さっきは三歳児な幼女だった私、今や優に13を越えるどちらかと言えば少女。
そんな私が気づいて貰える筈がなかったのだ!

光の向きにより私からは見えなくともお兄さんからは私の顔は見えていたからこその姉発言だろう。そりゃそうだ、だって同一人物だし。

ただ、サイズと色が違うってだけで。


「……そうだよな、こんな上のお姉さんがいるんだから……何より、あの人に限ってそんな訳――」

「お姉さん…あの人…」

「…いや、こっちの話だ。悪いな、忘れてくれ」

「そうなんですね…わかりました…」


立たせて貰いながらあまりのショックに上の空で復唱していた。


「は、はは…」


…諦めよう。お兄さんもお兄さんで何やら一人で納得してるし、これはいっそ明るく考えれば嫌な言い方だがお礼をしなくて済んだって事なんだから。
どうせお金はない。菓子折り一つも用意できはしない。

私達みたいな貧しい家にお礼になりそうな何が出来ると言えば、お家に招いてお母さんにお願いしておもてなしするくらいだろう。お母さんの料理は美味しいから。
だけど嘘ついて出てきた私に、それは……。


「……進化しなきゃ良かった」


一度進化したら前のポケモン、前の姿に戻る事はない。これは私の知る限り私の世界に於て万国共通。普遍のルール。
最近噂のメ…メガシンカ?とやらは、戦闘中のみの進化らしいからバトルが終わると元に戻るらしいけど。
まあでもそんな事はどうだっていい。

所詮私には当てはまりはしない。


「…そ、うでした。妹がお世話になりました。ありがとうございました」

「あ、いや…どういたしまして…」


もういいや。
ていうか、会えただけでもめっけもん。このお母さん曰く広い江戸、もしかしたらもう二度と会う事叶わなかったかもしれないんだし。

深く頭を下げて、踵を返した。

さようなら、命の恩人のお兄さん。
もうさっきの子供はいないけれど、私はあなたに助けられた事、絶対に忘れません。




二、三歩行ったところで、呟いた。


「……ちゃんとさっきの私でお礼、したかったなあ、そこまで考えてなかったなあ……たとえ、出来ないとはい」


ぼふん…。

…いや、今回もピッカー!だったかもしれない。

『出来ないとはいえ』。
また語尾を邪魔されてしまったいやそんな事は至極どうでもいいんだけど。


「なっ!?……は?」


真昼ならともかくあとは薄い夜の色に向かうばかりの今の明るさでは、私の光はまだそう遠くへ行っていなかったお兄さんにも確実に届いた。
見られた!と振り返るまでもなく、お兄さんの驚いた声が後ろから聞こえる。


「め、メガシンカ……モド、キ?」


駆け寄ってきたお兄さんの麗しのお顔が最初に会った時と同じく随分高い所に見える。


(2/2)
[back] [top]
- 8 -
×