土方は俺を抱き締めたまま何も言わない。
黙ってばっかじゃねぇか。


「なぁ、知ってる?バカな道化師の話」


そのまま俺も黙っとけば良いのに。
バカな俺はゆっくり口を開いた。


「愛してる男にこっぴどくフラれて、自分は遊ばれてたんだって気付いてもその男を待ち続けた馬鹿の話」

「知らねぇな」

「その馬鹿、最後はどうなったと思う?」


俺の問いに土方は、「何だかんだでハッピーエンド?」って答えた。
そんな土方に薄く笑う。


「その男の目の前で、自殺したよ」


土方が息を飲むのがわかった。
予想もしなかった結末ってか?
俺は結構ありきたりだと思うんだけどなぁ。


「な、馬鹿だろ?」


笑いながらそう聞くと、土方は顔をしかめた。


「それだけ、好きだったんだろ」


怒ったようにそう言う土方。
そうだよ。めちゃくちゃ好きだったわ。
でも、お前がそれを言うんだ?
何だかおかしくて思わず笑えば、土方は気に入らないと言うように此方を睨み付けてきた。
わりぃわりぃと言いながらも笑いは止まらない。
土方の機嫌が一気に悪くなった。


「なぁ、土方」

「・・・んだよ」

「この話、実は続編もあってよ」


でも、
そこで一旦区切って土方を見る。
土方もじっと此方を見ていた。


「そっちはまだ結末までいってないんだ」


「そうか」と少し残念そうに言う土方。


「お前次第だよ」


そういうと土方は「何がだよ」と聞いてきたが答えず。
ふと空を見上げて、目を細めた。

何もかも、お前次第だ。
前世なんかは俺の命すらお前次第だった。
きっと俺はこの先も土方のことが好きなんだろう。
そして、怖いと思いながらも土方が前世を思い出すのを待ち続けるんだ。
待ち続けた俺がどうなるかは、お前次第。
賭けでしかなかった。
もう一度死ぬ道をたどるやもしれない。
なあ土方。物語が前に進むにはお前が前世の記憶を呼び戻すのが必須条件だ。
だから、早く思い出してくれ。
もう、待てそうにないんだ。
俺は、胸元をギュッと掴んで深呼吸した。








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