寂しいくせに  





『えー、本日をもちまして、万事屋銀ちゃんは解散しまーす』




あれほど自分の発言に後悔した日はないんだろうな。
万事屋解散発言から2週間。
再び一人で万事屋をやっている俺は、ため息を吐いた。
一人になってから何回目だろ。
今日だけの回数を数えても両手じゃ足りない。
銀さん基本器用だからね。
家事も料理もなんだってできるよ。
今だってほら、こんなにうめぇ茶出して飲んでんだぜ。
なあんて誰がいるわけでもないのに自慢してまたため息を吐く。
・・・ダメだ。
いくら美味しく茶入れても、家事をこなしても、物足りないのだ。


「新八ィ・・・・なんでこんなにうめぇのに、物足りねえんだろうな」


分かっていて、わざとその名前を出す。
アイツが入れてくれた茶が飲みたい。
いつもならそろそろ新八が苦笑しながらおやつ出してくれる時間じゃねえか。
週に数回しかない楽しみ。
いつも神楽ととりあって、ギャーギャー騒いで、新八に怒られて。
不貞腐れて定春に抱きついてたらいつの間にか神楽に全部とられちまって。
怒って新撰組のやつらにおごってもらうからいいもんね、なんて言いながら出ていこうとすると、なぜか新八にまた怒られる。
あー・・・あの時アイツが怒ってた理由も気付いちまった。
今更気付いたって、遅いのになあ。


「新八・・・・・」


お前、俺の事好きだったんだなあ。
気付いてしまったら、もう手に負えない。
同時に自分の想いにも気付いてしまったから。
俺も、俺も・・・


「好きだったんだな」


会いたい、アイタイ、逢いたい・・・。
溢れて、許容範囲超えちまって。
愛しくて、切なくて。


「万事屋解散なんて、言わなきゃよかったなあ」


なんて苦笑してみるけど、震える方を抑えることはできなかった。
隠すように顔をうつむかせると、


「やっと気付いたんですか」


って聞きなれた声が・・・・って


「は?」

「全く、これだから銀さんはマダオなんですよ」

「新八の言う通りネ!情けなくないアルか!」

「え・・・は?」


勢いよく上げた視界に映るのは、間違いなくあいたいと思っていた奴らで。


「ワン!」

「定春も忘れんなヨ」


何かの間違いじゃないかと瞬きを繰り返す。
だって・・・・そんな・・・・。


「言っておきますけど、夢とかじゃないですから。現実ですからね」

「なん・・・で」

「銀ちゃんが解散だなんてバカなこと言うから、ちょっと意地悪しただけネ!私たちがそう簡単に銀ちゃんから離れると思ったら大間違いヨ!」

「そうですよ。僕らをなんだと思ってるんですか」

「ワン!」

「なんたって私たち銀ちゃんの・・・・」

「「「家族ですから(アルよ)(ワン!)」」」


なんてこった。
じゃあ俺はこいつらにハメられてたってことか・・・。


「銀さん、泣かないでください」

「泣いてねえし」

「私らになんか言うことはないアルか!」

「ごめんな」

「・・・僕には何か言うことないんですか」


ニヤニヤしながら聞いてくる新八に、こいつ聞いてたな、なんて冷静に思ったりして。


「・・・茶のみたい」

「オイイイイイ!!違うだろ!!そこは」

「愛してるよ」


新八の声をさえぎってつぶやく。
と、同時に新八の顔が真っ赤になった。
なんだこいつ。自分で言わせたくせに。
おかしくて笑ってると、


「野郎二人がなにやってるネ。気持ち悪い」


なんて神楽の冷たい視線が体に突き刺さる。


「まっ、神楽ちゃん。お母さんに向かってなんて言うことを言うのかしら!」

「黙れ糖尿寸前。張り倒されたくなかったら酢昆布よこすヨロシ」

「ワン!!!」


ああ、この感じ・・・懐かしいな。
こんな大切なもん自分から手放すなんて俺、バカだな。
そんなことを思っていると、2人と1匹の視線が俺に集中した。


「あ?」

「銀ちゃんは私らのそばでそうやって笑ってればいいアル」


「そうですよ。僕の横だけでもいいですけど」

「黙れ眼鏡。本体たたき割るぞ」

「がるるるるー」

「眼鏡が本体じゃないからアアアアアアア」

「はいはい、落ちつけって」

「でも・・・!」


新八と神楽の頭にぽん、と手を乗せ、そのまま撫でる。
精一杯気持ちを込めて。
そしてすうっとありったけの空気を吸い込んで、


「本日をもちまして、万事屋銀ちゃんは、このメンバーで再開しまーす」


歌舞伎町に響き渡るように叫んだ。
とたん、嬉しそうに抱きついてくる神楽と、


「銀さん!」


キスをしてくる新八・・・え?は?kiss?


「ちょっ何やってんのお前エエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」


せっかくいい気分で叫んだのに新八によってさらにデカイ不快な叫び声に塗りつぶされて、万事屋は再スタートを切った。



End



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