学生服の魔法使い2


「もしかして白井さ、新羅のこと嫌い?」

折原君は何でも知ってるってよく噂で聞いた。
だから一瞬ドキッとした。
例えその問いが間違っていたとしても、何らかの事情があることが見抜かれたから。

勿論否定した。
嫌いじゃない。嫌いじゃない。
確かにさっきのは岸谷君を避けたからだけど。
それは嫌だからとかじゃなくて、

「白井さん」
「っ」

と、考えていると声を掛けられた。
振り向けば、なんと岸谷君で。

「報告書。お願いしてもいい?」
「え、…あ、うん。ありがとう」
「こっちこそ。評判気にしてくれたんでしょ?助かったよ、廃部になったら困るからさ」
「……」
「どうしたの?」

不思議そうに顔を覗き込まれ、慌ててなんでもない、と答える。

ただ、珍しかったから。
岸谷君が、クラスの人に自分から声をかけるなんて。クラスの人っていうか私だけど。

岸谷君は別に近寄りがたいって訳じゃないし、話しかければ普通に喋ってくれるし、いい人なのだけれど。
どこか浮世離れした雰囲気があるからか、岸谷君に話しかける人間は限られている。
その上岸谷君が自分から話したり、積極的に会話を続けるような人間となると、もっとだ。

このクラスじゃ、同じ生物部の折原君くらい。
私も生徒会という立場から、話すことはあるものの、数えるほどで。

つまりは。
嬉しかったのだ。

好きな人に話しかけられて。

「もしかして、臨也の奴に何か言われた?」
「イザヤ?」
「あ、ゴメン、折原臨也」
「ああ…」

そういえば折原君って珍しい名前だったっけ。イザヤって言うんだ。漢字も分からない。
何度聞いても到底そうだとは思えなくて、覚えられないのだ。

「んん、別にこれといって何も…」

まさか例の件を本人に言えるはずもなく。

「そっか。ならいいんだ」
「どうして?」
「いやー、臨也はね、変なこと言って周りを困惑させるのが好きな変態なんだ」
「えっ!?」

受け取った報告書をファイルにしまっている最中、唐突によく分からない冗談を言われ戸惑ってしまう。

ていうか、物凄く微妙な冗談…。笑うところなのかな…。
岸谷君のセンスが分からない。

「えっと…、それはどう受け取ればいいのかな」
「ん?僕なりの冗談のつもりだったんだけど」
「…だよね」
「出来はどう?こう、微妙に真実味があって笑えないあたりを狙ったんだけど」
「いやいや、そんな器用なことせず真っ向から笑い取りにきてよ…。反応し辛いよ」
「お?ってことは白井さんも臨也にそういう節があるって思ってるんだね?」
「えっ、あ、…あー…。今のはずるい」
「ずるくないよ。ていうかいいんじゃない?そういうこと本人に言っちゃえば。アイツ面白がるよ。それは事実だから」
「えー、やだよそんな」
「じゃ僕が言っちゃお。臨也ー!」
「わあああ岸谷君!」

岸谷君と話すのは楽しい。

実は小学校の頃、1年間だけ同じクラスになって。
当時の自己紹介が「カエルより人間のカイボウが好きです!」だったため、岸谷君はクラスから浮いていた。

だけど、理科の実験の時、慣れた手つきで薬品を色鮮やかに化学変化させてる姿が、私には魔法使いに見えて。
それからずっと、気になっていた。

今年やっと同じクラスになって、尊敬は恋心に変わって。
そのキッカケも、生物部のユニフォームなのか岸谷君が白衣を着ていてかっこよかったっていう安直なものだけれど。

私は岸谷君が好きだ。

だから、


「ね、岸谷君ってお兄さんか弟さんかいる?学ラン足りなくって、借りたいんだけど」
「御免、僕一人っ子だよ」
「あれ?自己紹介のとき、3人暮らしって」
「うん。僕と父さんと、僕の好きな人と暮らしてるんだ」
「…え!?え、っと、そ、それって同棲…」
「ううん、同居。居候してるんだけど、僕が勝手に好きになっただけ」
「…そ、そうなんだ。岸谷君、好きな人いるんだね」
「うん。白井さんにも紹介したいけどね、彼女恥ずかしがり屋だからなぁ」
「岸谷君ってなんだか浮世離れしてるから、そういうのちょっと意外」
「そうかな?普通に僕も恋愛するよ?小学校の頃は白井さんが好きだったし」
「…え!?」
「あはは、白井さんいい反応するね」
「……もしかしてからかった?」
「ううん、好きだったのは本当。白井さん、唯一僕のこと避けなかったし。彼女に会わなかったら、今でも好きだったんじゃないかなぁ。あ、御免、変なこと言ったね」
「…ううん、だいじょぶ。…あのね、私も、」
「ん?」
「私、……んん、いいや。なんでもない」
「そう?ならいいけど」
「うん、御免。…じゃあ」
「うん」


だから、思いは告げなかった。

きっと岸谷君は私の話を聞いてくれて、私の思いを綺麗に消してくれるんだろうけど。

私は、そうしなかった。

ただ。

「なに?新羅が女子と喋るなんて珍しい…と思ったら白井か。…ふうん、なるほどね」
「あ、そういえばさっき臨也、僕と白井さんが仲悪いみたいなこと言ってたけど、どう、誤解だって解った?」
「えっ、折原君、言ったの!?」
「あーうん、ゴメンゴメン」
「昨日も言ったけど、私、岸谷君嫌いじゃないよ」
「ああ、それは今解った。仲良いんだね、君達」
「もちろん。だって小学校も同じだったからね」
「そうなの?知らなかったな」
「まぁ言ってないしね」
「あ、チャイム鳴った」
「もうこんな時間?」
「帰ろっか」
「あ、私生徒会室に出しにいかなきゃ」
「報告書?」
「うん」
「なら一緒に行くよ。僕達の部活のだし」
「え、いいよ、私生徒会だし」
「いいからいいから」

こんな風に喋れたら、それでいいんだ。

fin



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