44ちょいと厠ァ
「ちょいと厠ァ」
席に着くなり銀さんはそう言って厠…つまりはトイレに行ってしまった。 …もしかしてトイレ行きたくてでもトイレ行きたいなんて言うの恥ずかしいから私を巻き込んだとかそんな…そんなまさかね!
とりあえず日本酒を一つ頼み、それから水を一杯貰い、銀さんの前に酒を、私の前に水を、間に酒瓶を置いた。 これで銀さんに呑んでないのもバレないだろう。 流石に決戦の前には呑めない。 ややあって、銀さんは戻ってきた。
「キレが悪くて」 「言うなうすらハゲ」 「だからハゲじゃねーよ!お前こそ何話前の話引きずってんだ!読者もわかんねーよ!」 「だって銀さんがセクハラするからー!」 「セクハラじゃねェ礼儀だ」 「そんな礼儀は淘汰してしまえ」 「ヘェヘェ悪かったよ。はい乾杯」 「かんぱーい」
コツンとグラスを交わし、一口。うん、超水。 枝豆を二人で一つ食べ、肴としてキチンと話せていなかった私のことについて話した。 トリップとか、そういうこと。
銀さんは特に茶々を入れることなく、全てに頷いてくれた。お陰で少ない時間で喋り切れる。 話を終えた頃、時間もいい具合になっていた。
「お前よォ」 「何です?」 「帰りてェのか?」 「んー…」
同じ質問をされ、今回も言葉に詰まる。 またはぐらかそうとすると、
「そんなにこっちの世界はつまらねぇか?俺達ァお前にとって、誰にも言わずパッと捨てられるようなモンなのかよ」 「え…銀さ、」 「お前の考えることなんざ銀さんにはお見通しだってーの。…帰るつもりなんだろ」 「……」
答えられない。 …まさか気付かれるなんてな。昨日ただ手伝ってもらっただけなのに。 やっぱすげーや、流石主人公さん。
「どうなんだよ?オイ」
ぐっと喉を鳴らす。 う、どうしよ、…っ…。
―と、そのとき、
――priiiiii!
「…っと」
銀さんの懐から着信音が聞こえた。 携帯だ。音の長さ的に電話かな。 悪ィと言って銀さんが取り出し、ディスプレイを確認する。
「あー?山下くんじゃねェか」 「え!?な、何で銀さんが山崎さんの電話…」 「知らねー番号から掛かってくる電話は山下くんだって決まってんだ」
山崎さんが勝手に調べた、ということか。 ってやばい!もしかしたら私を探して連絡したのかもしれないじゃないか!
「ぎっ銀さん、私の場所聞かれても黙っといて!」 「あ?何でだよ」 「とにかく今ここにいるってバレる訳にはいかないの!」 「あーあーわかったわかったうるせェな」 「あざます!」
そしてようやく電話を取る。 すると―向こう側から大きな声で話しているらしく、会話も聞こえてきた。
『万事屋の旦那!今どこです!?』 「何だよ山下くん騒々しいなァ。居酒屋だけど」 『詳しくは話せないんですけど、とにかく沖田さんが危なくて!』 「!?」「!?」
沖田さんが危ない…!? どういうこと!?
「…おいどういう意味だ。あいつァそんなヤワな奴じゃねェだろ」 『実は今真選組で大きなヤマに当たってまして…。沖田さんが単独行動したんですけど、GPSで見たら全く動いてなくて…!電話で聞くとどうも大人数に囲まれてるらしく、立ち回ってるとしたらちょこまか動くはずなんですけど…っ、かなりやばい状況で…!俺達も囲まれてて行けないんです、どうか旦那頼みます!場所は――』 「は?おま、ちょっ、待て待て!よくわかんねェよ、ちょっ――」
―――場所は、聞き取れた。 ここの、すぐ近くの路地裏。
計画?
知ったことか!!
「沖田さん…っ!!」
―私は貴方を守りたいんです。
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