42こほんこほんっ
『こほんこほんっ。えー、あー。あー。マイクテストマイクテスト』 『…ぃよし。えーと。こんにちは沖田さん!祐季です』
『皆さんの作戦が失敗して、私の作戦が成功したら、多分これを聞いているんだと思います。 えっとですね。どのタイミングで携帯を見つけるのかちょっと分からないんで、ネタバレになったら困るんですけど。 皆さんの持ち物が一部無くなってると思います。探してみてくださいな。
…全部わかりました?はい、そうです。時計、携帯、靴下、靴。それから後でブレーカー落として、テレビのコンセントは切る予定です。 流石に切っちゃうのはちょっと悪いかなーと思ったんですけど、でもあれコンセントだけ買い換えればいいかなって。あとテレビ古いんでそろそろ買い替え時でしょ。 あ、でも安心してください。盗ったものは全部同じとこ入れときました。靴下と靴も奥の方にありますよ。
こんなことしたのは勿論、皆さんが約束の時間にあの場所に行けなくするためです。 そしてこれを録音したのは、沖田さんにも言いましたよね。未練です。
私ね。 土方さんに守りたい奴作れって言われて。 その次の日に襲われて。 あーあ、このまま、生きる意味を作らないまま、死ぬのかなって思ったんです。 そんな時にねぇ、沖田さんが来てくれて。 一緒に戦わせてくれて。 私、この人を守りたいなぁって、思いました。 この人を守れるほど強く。 この人を守ると誓いながら、この世界で生きていけたらって。
でもま、それは無理なんですけどね。 私は帰らなきゃいけないし。 祐季さんを戻せるのは多分、私だけです。 私が向こうへ追いやったから。
私……。
…いえ、やっぱやめときます。 ここで全部洗いざらい話したら、フラグ立って失敗しそうなので。うふ。
あー…、でも。 いっこだけ、いいですか? 今までのお礼も込めて。 沖田さんに祐季からこの言葉をあげます』
『総悟、大好きだよ』
『…あーやべ恥ずかしー…!』 『んでっ、これは私からの言葉です』
『沖田さん、大好きでした!』
『それじゃあサヨナラです、沖田さん。 今まで何度も守ってくれて、本当にありがとうございました。 貴方達のことは忘れません。幸せな時間を、ありがとうございました。 皆さんにもよろしくお伝え下さい。 ではでは! バイビー☆』
『…んっ、これ切るとこどこだ。…これか?…ってあ、この声入っちゃう、やっべ超ダセぇ、あー、えー、どれー!?あっこれ』
録音されていたのは、それだけだった。
「……アホですねィ」 「…あァ、全くだ」 「前の祐季ちゃんでも、最後失敗したら撮り直してますよ、きっと」 「こいつァ失敗したとこ聞いて寧ろ面白いんじゃねって思うタチでさァ」 「ほんっとに、アホだな」
アホすぎんでィ、バカ祐季。 オメーにとっては『大好きでした』でも、俺にとっちゃあ――
「『大好き』なんでィ…っ!」
その時、突然俺の携帯に着信が入った。 ディスプレイには、「山崎」の文字。
「え?俺、携帯まだ見つかってない…」 「祐季か…?」
とにかく通話ボタンを押し、耳に当てる。 そこから聞こえてきた声は、意外なものだった。
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