32災難だったね
「災難だったね、祐季ちゃん。大丈夫?」 「はい。いい経験になりました」 「THE・いい子の答えをありがとう。本音は?」 「トラウマじゃボケェェェェ!!」 「うん、実に清々しいね!」 「あはは、いやぁでも冗談です。そこまで思ってないですよ」 「そう?ならいいんだけどさ。今日はゆっくり休みなよ。早めにお風呂入る?」 「んー、そうですね。じゃあいただこうかな」 「なら女中の人に頼んでくるね。支度して部屋で待ってて」 「あいえ、そんな悪いですよ山口さん」 「流石に今日は手間かけさせないし名前間違えてても怒らないであげるよ。でももう一回言ったら怒鳴る」 「山内さん!」 「怒鳴らせたいのォォォ!?」
山崎さんは律儀に怒ってくれました。 それから重ねて御礼を言って、言葉に甘えてゆっくりと支度をする。 ふと、部屋にある小さな作業台が目に付く。
「…あ」
そうだ。 土方さんに宿題の報告書でも書こーっと。 適当に紙とペンを拝借し、したためる。 丁寧に封をし、「土万さんへ」と文字ならではのボケをかまし(超面白い)、一人ニヤニヤとしていると、山崎さんに呼ばれた。
「用意できたって。ごゆっくりどうぞ。あと使用中の札、忘れないようにね。昨日うっかり脱衣所で鉢合わせちゃったし」 「ですねー。山崎さん服着終わった後だから良かったですけど、もし違ったら私今こうして山崎さんと話してませんよ」 「結構な確執を残すところだったね!まぁでも逆があったらホントにやばいから、気をつけてね?」 「そこで『気をつけて』という辺り、山崎さんですよね〜」 「どういう意味?」 「敢えて注意を促さず、偶然のフリして覗くとかするのが主人公でしょう」 「俺にそんな度胸があると思う?」 「いいえ。だからその辺り安定の山崎さんですね」 「褒め言葉として受け取っておくよ」
じゃ、ごゆっくりーと山崎さんは手を振って自室へと戻っていった。 最初から感じていたことだけれど、山崎さんは特に私のことを異性として見ていない気がする。
昨日鉢合わせた時だって、「あー!ごめんごめん」って言うだけで露骨な反応はしていなかったし。 多分山崎さんからしたら私は妹とかそういう感じなんだろうけどさ。 逆ハー描いたときに名前挙げちゃった私としては何だか恥ずかしいじゃないかこんにゃろう。
風呂から出た足で、土方さんの部屋を訪れた。 さっきの宿題を提出しに、だ。
部屋に明かりはついている。よし、今居るな。 そっと隙間から覗くと、土方さんはなにやら書類を真面目に処理しているところだった。 …なんだか忍びないな。 終わるまで待とう。
廊下に腰かけると、障子の一部の色が変わっているのに気づいた。 よく見ると、白いテープが貼ってある。おおかた破れたから塞いだ、というところだろうか。 そのテープの端っこがいい具合にペロっとしていた。
こ、れ、は…! ここつまんで捲れと、そういうことじゃね!? 勝手に盛り上がってきた。 慎重にペロっとした取っ手をつまみ、少し引いてみる。ん、意外と粘着力が強い。当たり前か、障子に貼ってるんだしな。 慎重に、慎重に。破れないようにめくり続けてみる。まぁ剥がしたから何だ、って話なんだけれど、こういうの見ると無性に剥がしたくなるよね!
―って
「あ…っ!」
やっべ、ビリビリしてきた!うわ、結構余分なとこ破いてる、どうしようこれ、戻す、あー、修正…できないぃぃ! 気づけばかなり破いていた。これ見つかったら相当怒られるフラグだ。やっべええええ! と、とにかく手ごろなもので塞いで、えーと、何か何か…!
…あ、報告書。 これ白いし、置いとけば暫くはバレないかな!土方さんはそこまでアホだと信じよう!うん! 破れた箇所を隠すように立てかけた報告書に合掌し、その場を去ろうと立ち上がる。
さて、見つからないうちに帰―――
「……んで?どこ行く気だオラ」 「うわあああああひひひひひひ土方さんんん!!いっいつからそこに!?ていうかいつの間に!?」 「祐季が部屋を覗いてきた辺りから」 「最初っからじゃないですかあああ!!」 「っていうかテメェ破いてんじゃねェェェェェ!!」 「御免なさいいいいい!」
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