15おかえり〜


「おかえり〜。ご飯いる?」
「山崎さん、ただいまです。あー、じゃあちょっとだけ」
「はいはい。じゃあ着替えたら食堂おいで」
「ワァ食べさせてくれるんですか?」
「なんで?」
「…真顔で聞き返すのやめてくださいよ…」
「言ってないで早く着替える着替える」
「はぁ〜い」

パタパタと屯所内を走る。
あー、流石にちょっと足が痛いなぁ。お風呂の中でマッサージしよう。
途中ですれ違った隊士の方とも挨拶を交わす。

「おかえり〜祐季ちゃん」
「ただいまで〜す」
「おかえり〜」
「は〜いただいま〜」

……真選組緩すぎじゃない?家路につく小学生に声かける近所のおじいちゃんみたいなんだけど。

「おかえり〜祐季」
「はいよ〜ただいま」
「はいよ〜じゃねーよ仕事終わらせろィ」
「うわああ沖田さん!何さらっと紛れてるんですかタメきくとこだったじゃないですか」
「今朝思いっきりタメきいてただろーが」
「すみませーん!着替えてご飯食べてからキッチリ残業はするんで」
「何言ってんでィ、今日中に提出する分もあるんで先に終わらせろ」
「ええっ、今日中って…あと1時間もないじゃないですか!」
「頑張れ祐季っ応援してやす☆」
「応援するくらいなら沖田さんが自分でやってくださいよおおお!!」

あああもう、沖田さんのせいで折角山崎さんが頼んでくれたのにご飯食べれなくなっちゃううう…!
とっとにかくいそいで着替えてやって土方さんに持っていかないとっ!







「副方さーん!」
「誰が副方だ誰が!副長か土方かまとめろ!」
「これ今日付けの提出分です」
「スルーかよ。…ったく…」

煙草を咥えたまま机仕事をしていた土方さんが、手を止めて受け取ってくれる。
この辺優しいなーとつくづく思う。でも邪魔しちゃいけないから早く引き上げないとね。
と思っていたら、その場でパラパラと確認してくれた。

「…ん、ここ、判ねぇぞ」
「え、マジですか。あー…!」

やっちまった。完全に不備じゃないかこれ。
ていうかここ沖田さんがやるとこでしょおお沖田さあああん!
という叫び声を心にしまい、すみません…とうなだれる。

「御免なさい土方さん。でもマヨネーズ一本でなんとか許してくれますよね」
「何でそれで許されると思ってんだ」
「許してくれないんですか!?」
「半殺しだアホ」

それってマヨネーズなかったら全殺しされてるってことっすかね!?
やべーあるかなマヨネーズ……。

「…はぁ、つーかコレは元々総悟の分だろ。あいつはどうした」
「え、っと、多分見回りでお疲れになって」
「今日は見回り当番じゃねェよ」
「あー…」
「…ったく。何でかばうんだお前も。どうせ押し付けられたんだろ?」
「……」

まぁ、そうなんだけど。
でも告げ口をするのはあまり好きじゃないと言うか、根っからのモブ根性だな私も。
流石に「沖田様のためです」と言えるほど雌豚根性はないけど。

「なーんかお前は、遠慮してないようで遠慮してるよな、微妙に」
「そ…そうですかね?」
「……」

本格的に手を休め、じーっと土方さんが私を見つめる。
…おうおうおうおうやめてくださいよ土方さんんんん、結構恥ずかしい、からぁっ!

「…どうした祐季」
「どどどどどうもしてないれす」
「呂律回ってねェぞ」
「そういう土方さんは眼球回してください」
「何だその気持ち悪い要求」
「視線逸らせってことです!」
「何でだよ」
「何でも何も!恥ずかしいでしょー見つめられたら!土方さんにとっては馴染み深いかもしれませんが、私にとっては――……あ…」

…やばい、自分で地雷踏んじゃった。
途端にさっきまでの威勢はどこへやら、声が萎んで俯きがちになる。
土方さん、切なそうな顔してたらどうしよう。実は祐季さんが好きだったら。

「お前にとっては、何だ?」
「……あの…土方さん」
「んだよ」
「土方さんって祐季さんのこと好きでした?」
「ガハッ」

土方さんが煙草を吹き出した。
ついでにゲホゲホと咳き込んでいる。
をををこの反応はまさかのビンゴ!?

「―アホか!誰があんな女惚れるか!」
「ええっちょっとちょっと姿形一緒なんですからそのまま私への悪口になりますよ!」
「外見じゃねェよ、中身だ中身」
「そんな酷い人だったんですか?」
「酷い、とかじゃなくてなァ。あいつは山崎のちょっと後くらいから道場に引き取られて…それからずっといるんだ。今更何の感情も持たねェっつーの」
「幼馴染、みたいな?」
「…まァ同じ道場ずっと通ってて、ここまできた訳だしな」

煙草の吸殻を灰皿に片付け、もう一本目を吸い始める。
私が20ってことは祐季さんも多分20だよね。煙草とか吸ってたのかな。



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