PM3時の白昼夢5


強引に連れてきたからか、観念したように話し出した祐季は、やがて落ち着いたように礼を述べた。

そういや昔から、どれだけ言い争いをしても礼と謝罪は欠かさない奴だった。一つ筋があるというか。

本人は土方に依存していたかのような口ぶりでいたが、俺から見れば祐季は祐季で、土方教信者ではあれど人形では無かった。

俺は一体いつから、そんな風にこいつを見ていたのか。
それこそ見当も覚えも無く、首を捻るばかりで。

いつもの調子も戻り、祐季はまったくもうアンタって奴はと文句を言いながら立ち上がった。しかししばらく地べたに正座であった為足が痺れたのか、がくんと身体が揺れた。

「っうあ、!?」
「なっ――に、してんでェバカ」

咄嗟に受け止める形となり、少し身体が触れる。
いつもの甘い匂いがして、肩を掴む手に力が入った。


ありがとう。
少しだけ微笑んでそう言う先刻の祐季がフラッシュバックする。

あんな顔を見たのはいつ振りだろうか、もしかして初めてかも知れない。


……ああ、クソ。こんな妙な宗教にハマった女のことなんざ、どうでも。


そう思うのに。




「――すきだ」





不意に言葉がこぼれ落ちて、すぐにそれが自分のものであると気付く。
サッと一瞬で血の気が引いた。


あ?俺いま何を、何を口走っ、え、オイいや待てなんで、待っ――




「ん?ああ、土産?」

思考も言い訳も纏まらぬ内に、祐季はそう言って傍らの土産を手に取ってこちらに渡してきた。
その間、僅かの戸惑いも狼狽も一切無い。まるで告白などとは毛程も思わぬようで、

「ちょうど良かった。隊長甘いもの好きでしたっけ」

なんて言いながら呑気に賞味期限などチェックしている。
暫く声も出なかったものの、我に返ると一気に怒りが沸いてきた。



―― こ ん の ク ソ ア マ … !!



「そんな保たないんで気を付けて……って何痛い痛い痛い痛いって痛いっつーのバカ!!!離せ!!肩痛い肩!!」
「あーーーオメェがどんだけバカでアホなのか思い知ったぜィクソアマァ死んで詫びろ」
「ハァ!?何急にキレて意味わかんない情緒不安定かよ!」
「さっきまで底辺だった奴が何言ってやがんでェとにかく1回死んでこい」
「そう簡単に人に向かって死ね死ね言うなやガキかアンタは!」

あーーもうほんとに腹立つなァこの女。
何で俺が、こんな奴に。クソ、しかもこいつにそんな考えなど微塵も無いのがまた腹が立つ。

この怒りを鎮める方法なんざ、一つしか無ェ。

「おいテメェ、前言ったこと覚えてるよなァ?」
「は?どれ?何の話?つかいい加減肩離せ」
「土方教。今回のことで宗教は解散だな」
「え?……ああなんか言ってたっけ、宗教乗っ取るだとか」
「その後でェ馬鹿」

ぐっと肩を引き寄せ、後頭部に手を回し顔をきっちり固定する。

は、と開けたその口に、勢いのまま唇を重ねた。


「―――ッッ!!?!?」
「惚れさせるっつったろーが、阿呆が」


前回のように寸止めでは無く、今度はしっかりと唇を合わせてやった。
顔を離すと、耳まで真っ赤に染まって固まる祐季の表情がよく見え、ようやく胸がすく。

「いつまで固まってんでェ。もう一回すんぞ」
「ッ!?〜〜〜さ、いて、最低、最低最低最低バカバカバカァァーーーッ!!!」


ああそうだ、オメェはいつも俺に振り回されてなきゃなァ。
振り回されるなんざ、御免だ。

真っ赤なまま喚く祐季を軽くあしらって部屋から追い出す。
祐季は最後まで大声で怒り狂っていたが、さして気には留めない。


怒りに任せてついやっちまったなァ。けどまあ、後悔はしてない。
明日からもそう変わらないやり取りが続くんだろう、その内のからかう要素が一つ増えただけだ。


その中で時折祐季がああやって顔を真っ赤にするなら。


しばらくはそれを暇潰しとして楽しむだけでさァ。








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