はわぁ……ほんとに美青年なんて人、いたんだぁ。

見とれるようにうっとりしながら視線を彼で固定して動かしていると、肩で視線が止まった。

「血…」

一瞬触れることを躊躇う。神が創り出した完璧な“美”に触れてよいものかと迷うけれど、手当て手当てと誰かに言い訳して彼に触れる。

ぴくり、と彼が身じろぐ。

「痛い?あ、そっか。痛いよね」

腕から流れ出た鮮血は、手の平に溜まっている。
何か止血できるものを探して片手でごそごそとカバンを探る。

「あった」

運良くハンカチを発見して彼の腕に素早く巻きつける。
中2の保健体育でしか救急包帯法なんて習っていないから適当に。勘で彼の白くて長い腕に巻きつける。

「ごめんね、治療法なんてほとんど憶えてないから、不恰好だけど我慢してね」

彼からの返答がないのはわかっていた。
それでも話しかけずにはいられない。

まるで。
話しかけるのを止めたら、彼の存在は蜃気楼のように消えてしまうんじゃないかという恐れから。

「なぁ」

低くて、でも聞き取りやすい声が裏路地に響く。
最初は彼の声だなんてわからなくて、ぼーっとしてみたけど、もう一度同じ言葉をかけられて、慌てて応えた。

「あんた名前は」

ぱちぱちと瞬く。
このタイミングで訊くことですか、それ?

「新名、美月」

「美月……」

あなたの名前は?

そう口を開こうとして、彼に遮られた。

「悪いけど、俺のケータイで“ゼウス”って登録されてる奴に電話してくれ」

「う、うん」

ゼウス……?

「繋がったら、俺の耳に当てて」

わかった、と返事をして、あれ?と首を傾げる。
どこにケータイが?

そう思っていたら。手に軽い重みが乗っかった。

「ありがとう、、、えっ?」





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