女神は高天原に舞い降りる




長々とした塾の授業を終えて暗く静まった世界を一人歩く。
こんな世界にいると、まるであたし以外のすべての生きとし生けるものがすべていなくなってしまったような錯覚を受ける。

うぅ、やっぱり怖いよぉ。

びくびく辺りを見回しながら歩く。
まさかのまさか、こんなブスで貧乳を誘拐するだなんてありえないし、もしも誘拐されてしまったらその人を眼科に連れて行ってあげるくらいの容姿なんだけれども。
もしかしてのもしかしてもあるかもしれないし。
ブスがすきだーとかいう酔狂な人かもしれないし、お金目的の人もいるかもしれない。
(可能性があるのは後者だけれど、生憎とうちは至って普通の一般家庭なのだ)

竦みあがりながらきょろきょろ視線を彷徨わせていると、、、視界の縁で何かを見つけた。

人と……大型犬?

街灯のあるこちらの道とは裏腹にその人がいる場所は裏通りと呼ばれる場所で街灯はもちろんのこと、小さな灯りすらない。

辺りを見回してみるけど、あたし以外には誰もいない。
(もちろんそれが当たり前なんだけど。じゃなきゃ、あたしは怖がったりしない)

「あの、大丈夫ですか?」

そろそろと近づくと彼が視線を上げた。

うわぁ…!

流れるさらさらの髪に。
闇のように深く昏い碧眼。
ピアニストみたいに長くて細い指。
均整の取れた身体は腰が細くて、華奢。

ビスクドールみたいに精緻で美麗な完成度の高い顔立ち。

まるで女の子のような容姿だけど、彼の鋭く尖った目が男の子だと告げている。

間違いなく、彼は美青年と呼ばれる部類の人だった。





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