第五夜 「春うららかな日の」




「宵の桜祭り?」

少女は自然な動作で首を傾けようとしたのだ、くん、と髪を引っ張られぎこちなく、その微妙な体勢のままその場に留まることとなった。

「咲姫ちゃん、動いちゃだめー」

「あ、ごめんなさい」

最初は周りが呆れるほどはしゃぎ、妙なほど小太郎に絡んでいた美春だがさすがに長い間車に揺られ続けているのにも飽きたらしく手慰みに咲姫の髪を編み込んでいるようで、先程から小さく動く度叱られてしまっている。

慎重に僅かな動作で首を傾げると、運転席との間から顔を出している助手席に座った蛍がうんうんと頷く。

「夜にしか咲かない摩訶不思議な桜の木がその地方にはあってね。そのライトアップがこの時期に催されるんだ」

まるで月下美人みたいだよね。

まったく同じことを考えていた咲姫は蛍のその意見に大きく頷いた。

「物珍しい所為かやっぱり混むみたいでさ。だからょっと融通効かせてもらおうか」

「融通?」

「これから行く旅館ってその桜の木のある神社と親交が深いんだよ。だからお願いすればいい場所が取れちゃったりするの」

「本当?」

思わず身を乗り出しそうになったが、再び髪を引っ張られそして注意されてすっかり咲姫は小さくなった。

それを見て蛍が笑う。


春休みも残すところ数日。咲姫達は紫苑の提案により少し遠くまで旅行をすることになったのである。





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