第四夜 「蠢く思惑と夜会」




寄せられる視線。

その中には敵意も親愛の情も含まれておらず、尚且つ忠誠心すらも感じられなかった。

逃げ出したくなる足を叱咤し添えられているだけの蒼の掌をぎゅっと握る。
力を込めればその分だけ彼も咲姫の小さな手に圧力をかけ、それを幾度か繰り返し、ようやく不躾な視線達に対峙するため顔を上げた。

ピエロのように仮面を被り、笑う。

「はじめまして、皆さん…」

脳裏で何度も紫苑の言葉がリフレインされる。

此処に来て“その先の世界”はどういうものなのか理解した。

蒼の心配そうな視線が上から突き刺さってくる。
目の前にいる老若男女とは大違いの視線に何だか笑いたくなってしまうのをどうにか抑え込み何事かを訊ねてくる者へと耳を傾けた。

「我らが盟主紫苑様の妹君。我々はまだお名前をご存知ないのです」

その言葉にビックリとして蒼を仰ぎ見れば、距離を詰められ耳打ちされた。

「兄上が、教えてもよいと判断したときのみ教えるようにと」

こくりと頷き一度逡巡する。

「咲姫です。よろしく」


―――此処は戦場であり、兄のチェスの盤の上である。

考えて行動せねば容赦なく喰らわれてしまう世界が咲姫が知ることを望んだものだったのだ。





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