悪戯に微笑を口に貼りつけて、なおも追求しようとする小太郎の手から軽やかな足取りで逃げ出した美春は戸口で誰かとぶつかる。

「教室内も走ってはいけませんよ、卯月さん」

「……どうもすいませんでした“先生”」

妙に先生の部分にアクセントをつけ、下から睨みつけるようにする美春と。なんとも言い難い笑みを浮かべる陰月。

「どうしたのかな」

「さぁな」

「皆さん、席に着いてくださいね」

その言葉に席へと着いた生徒達を見回し、うんと一つ頷いた彼は、扉の外にいる転校生を招き入れた。

彼が現れた瞬間、生徒が目を瞠りざわめき始める。

「水無月蒼くんです。仲良くしましょうね」


―――受難はより一層、身近に転がったのだった。




『†十字架†』 第二夜 fin.





-70-
[*←]|top|[→#]