「ご飯を食べ終わったらきちんと薬を飲んで安静にしていてね」

しっかりとパンを咀嚼する蒼に言い聞かせた咲姫は、後のことを宗像に任せ家を出た。

あの日、雨にうたれしっとりと濡れていた蒼の身体は風呂にいれたものの、既に手遅れだったらしく、発熱はしていないが咳とくしゃみを繰り返していた。

出来ることならば看病していたかったのだが、学校を休むわけにはいかず……。

「おはよう咲姫」

「コタロー、おはよう」

「………」

「だから諦めなって」

どこからか現れ出た美春は、やれやれと肩を竦めて宥めるように小太郎の肩をポンポンと軽く叩いた。

「おはよう、美春ちゃん」

「おはよう」

朝日を背に浴びて微笑む美春から仄かに自分や蒼と同じ気配が漂って来る。しかしそれはほんの少し人間と違うだけで、注意を払わなければまったく感じとることのできないような巧妙に隠されていたものだった。

「あ、そう言えば。私達のクラスにまた転校生が」

「はぁ? またかよ。
つーか美春もどこからんな情報仕入れてくるんだよ?」

「それは企業秘密なのだ〜」





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