第8譜

「…无の身体がどうかしましたか?」
「………」
平門の問いに療師は答えない
「何か重要な問題でも?」
「まあ、簡潔に言うとじゃな…」
ここで療師が一旦口を閉じる
「……人間ではない。動物なんじゃ」
「………」
平門の目がこれでもかと見開く
「驚くのも無理はない。ワシものう…」
「ぶっクク…なんてセンスのないいえいえ、ええと…」
「聞こえたぞっ」
小さな平門のつぶやきも療師には聞こえたようだ
「いや…お幾つになられても聡明な方だとは思っていましたが…ジョークのセンスにはやはり経年の衰えが…なんというか…言葉を選んでしまうな」
「選んどらんの」
動物…ハー、と眼鏡を取り眉間を押さえる平門に怒りを見せる療師



その頃、與儀達はー
「え〜と、療師は平門サンの所じゃないかと思うんだよね〜」
機嫌の悪い花礫を名前と與儀が療師のいる場所へ連れてきていた
「まったく馬鹿にしおって!」
しかし、平門の部屋のドアからは療師の怒鳴り声
『なんか、療師怒ってる…?』
「療……」
與儀がそぉっとドアを開けると……
「ええかっ、よく見ろ!摂取した細胞組織から導き出した結果が“无”がこれである可能性を非常に高く示しているんじゃっ」
動物図鑑を見せながら力説する療師の姿が
『え……動物ぅ〜!?』
………。
「うわ…ひでえセンス…」
「お前も言うかっ数値は嘘を吐かん!」
『りょ、療師。落ち着いてください、ね』
名前の言葉に少し落ち着いたようだ
「大体なぜここにおる」
「ア!无ちゃんが目を覚ましたって花礫くんが…」
「そうか!ちょっと様子を看て来ようの!」
そう言うと、療師は與儀に案内されて、无の様子を看に行った


部屋に戻ると、療師が與儀を投げた時に割れたガラスを羊たちが掃除していた
名前は、その羊たちにポンポンっと頭を叩きながら部屋に入る
中には、俯いている无と、无に付き添っているツクモが
「療師!」
ツクモが療師に気づいて声を掛ける
「どうじゃ具合は」
「悪くはないようですが…」
ツクモは言葉を濁らせる
「……!花礫!」
「……」
无が花礫を見つけて、呼ぶが花礫は返事をしない
「っ……」
そんな花礫を見て、また俯く无
『(やっぱり、花礫が出てくる前の会話が原因かな……)』
名前は、无と花礫の話を盗み聞きしたときを思い出していた
ツクモも、心配なのか花礫に聞いている。しかし、“別に”だの、いきなり顔が赤くなったり、挙げ句の果て“テメーさっさとどっか行けっ”と逆ギレする始末
『ねぇ、花礫。本当にどうしたの?やっぱあの時の会話が…「なんもねえっつってるだろ」
………やっぱり逆ギレ
「あぁ、でも………」
いきなり花礫が名前の腕を掴み引き寄せる
「あのときは悪かった」
『……ん?あのときって?』
「だーかーらー、お前が追いかけてきた時、思わず手振り払っちまったときだよ」
『へ……あぁ別にいいのにそれくらい』
名前がそう答えると花礫は無言でそっぽを向いてしまった



その後、名前と與儀は平門に呼ばれて艇の操作室に来ていた
「平門サン。目標、研案塔ですね?」
「あぁ。ああ見えてただのオモシロ老人じゃないからな療師は。手順を踏んだ検査をするべきだろう。朔に研案塔で合流するよう伝えておいてくれ」
『え、壱組全員?』
「イヤ、あいつだけだ。あぁ、それと名前は燭さんが検診したいと言っていたから无たちと同行するように」
『はーい』
「そういえば、无ちゃんの腕輪【ブレス】預かんないんですね。もしかして〜何か考えてたりとか…」
「特別なことじゃない」
心配そうに與儀が聞くが、平門があっさり言い放つ
「腕輪【ブレス】があの子に反応しないか見ていただけだ」
『え、だって腕輪【ブレス】は所有者本人にしか動かないじゃん』
「无ちゃんはお兄さんが落としたって…「だから」
平門が與儀を遮る
「それが嘘の場合だってあるだろう?」
『そんなっ』
「ウソつく理由なんてないですよっ」
「あの子が俺たちの追っている者の仲間だったらありえるだろう。実際、奴らに狙われた理由も不明だ」
「そりゃ身体のこととかビックリしましたけどっ絶対イイ子ですよ〜勘ですが……」
與儀がモジモジ言っていると、平門がふっと笑う
「え、ちょ…何笑ってるんすかっ」
「いやぁ?だからお前をつけたんだ」
『どういうこと?』
「お前は気を緩めさせるのが得意だからな」
『…そーゆーこと』
「気にするな。細かい疑いもすべて念のためだ


どっちに転がってもいいようにな」


それぞれの思惑を乗せた艇は研案塔へと向かうー




[*prev] [next#]


top back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -