今から約二週間くらい前の出来事だろうか、私の住んでいる地域で通り魔が現れた。
なんて恐ろしい、物騒だ、と近所の奥様方の囁きあう声が聞こえるたびに私は心の中で同意見だと頷いていた。
通り魔が現れたと言われた日から五日後くらいだろうか、負傷者が出たと新聞に取り上げられていた。
そして昨日、犠牲者が出たとテレビで報道され騒がれていた。
はっきり言おうじゃないですか。
私ナナシは今話題の通り魔事件を起こしていると思われる人物とエンカウントしてしまった。
だって、一般的善良市民がこんな真っ昼間に包丁を持って出歩いているわけがない。私アナタを刺します、と言わんばかりにこっちに包丁の刃を向けている人間が善良な市民であるわけがない。
「あ、ああ、どうしよう…」
じりじりとにじり寄ってくる通り魔に私は顔を青くする。
犯行時間は夕暮れ時ばかりと聞いていたため日が高いうちなら大丈夫、とたかをくくって一人で外出した結果がこれだ。これはあまりにもひどい。
ああどうしよう、どうやら相手は男性のようだ。
性別がわかったところで私には目の前にいる危険人物と張り合える力はない。なんたって相手は人一人を殺しているのだ。
「ありえない。こんな状況、ありえない」
私は口元が引きつらせながら一歩二歩と後退る。
大声を上げようにもこういう時に限って声が出ない。ぎゅっと握りしめていた拳も震えていた。
だが、足が竦んで動けないわけではない。動くことはできるんだ、思いきり走ればもしかしたら、もしかしたら−−そう思い勢いよく背を向け走りだそうと私は、
「背中を見せるのは良くないと思うなあ」
刺された。