めんどくさい | |
髪を解かすために櫛を手に取り鏡と向き合うといつも思う事がある。 ああ人って何でこうも見た目を整えなきゃいけないのだろうか…めんどくさいなぁ。と、 パラパラと櫛からこぼれ落ちていく髪の毛を撫でてそしていつものように鏡に写る自分に溜め息を吐いた。相変わらず"気持ち悪い" 「私ってこんなだっけ?」 鏡を見るたびに思うことはその一言である。それに気づいたのは自我が生まれた時だ。 大体,3〜4歳位の頃、自分の手が肌色なのに違和感を感じたことが始まりだった気がする。『人間』なのだから肌の色なのは当たり前……だがなぜか私は自分の肌が『水色』では無いことにとても違和感を感じたのだ。 次は確か……そう、その次は歯。 確かこれは5歳位の時、抜けたあとにすぐに歯が生えないことがおかしいと思った。『昔』は抜けるとすぐに新しい歯が生えていた気がしたのだ。そんな"人間"いるはずないのに。 そして最後に髪の色。これは、最近12歳になって感じた違和感だ。 なんだか『色違いの自分』を見ている気がするのだ。ちなみに私の髪の色は水色だ。透き通ったクリスタルの用な色はみんなに羨ましがられるが私からしたら微妙な色だと思う…… あと、気持ち悪いとか、髪の色に文句を言ったあとに言うのはおかしいが……私は鏡が大好きだ。鏡、というか鏡に写る自分に違和感はある。だが愛おしいという謎の感情を感じていた。 ナルシスト、そういうことばがあるがそれとはまた違う気がする私は『自分』が嫌い、なんだか『違う気がする』からだ だが鏡に写る『姿』は何故か愛しいと思う。それはとても矛盾している。私はどこかおかしいのだろう。 櫛が水色の髪をするすると通り抜けてキレイになっていく姿を鏡を通して見てうっとりする。 (ああ―――今日も"マスター"はキレイだなぁ) 鏡をなんどもなぞるが触れない。とてももどかしい感覚に眉間に皺が寄るのを感じたが一階から母の大きな声が聞こえて慌てて髪を整えていた櫛を片付ける。 「ミズキ!来たわよー!!」 鏡から目を反らして再び溜め息を吐いた。 そうそう、姿を整えていたのは母に言われたからだった。今行くー、と適当に返答を投げるとドレッサーと合わせて作られた椅子から立ち上がった。 ああ、ちなみに私の名前「ミズキ」 となっているが実はこの名前も違和感。何だか私の名前じゃないみたいに感じてしまう……それにどちらかと言えば……そう、雨。レインとかそういう名前の方が何故かしっくり来そうだ。 「ミズキ!何をしているの!?早く降りてきなさい!」 母の声に苛立ちが混じり始めていた。 ああ、そういえば今日は『こんやくしゃ』に会うんだった。母に急かされ一階に降りると豪華な玄関に一人の男と、少年が待っていた。 「ツワブキダイゴさんよ、ミズキ、ほら挨拶して」 そう言って背中を押され、前に出される。 隣にいる男(多分、父親だろう)と同じく鋼タイプを連想させる髪の色にキチッとした子供用の黒色のスーツを着て白い清潔感のあるスカーフを巻いている姿は正しく「お坊っちゃん」 そんな「こんやくしゃ」にため息を吐きたくなるが親の手前、引っ込める。 そして他所行きようの張り付けた笑顔を作って可愛らしい女の子を演じる。 「はじめましてダイゴさん、私はミズキといいます」 「うん、よろしくねミズキちゃん」 なんだこの人間いきなり「ちゃん」呼びか?私の目付きが少し細くなる、が、いかんいかん。親の手前親の手前………そう自分に言い聞かせて張り付けた笑顔を持続する。 そんな私たちの様子を見た母達は「あらあら」と満足そうな顔をして二人で遊んできなさいと行ってツワブキ父とリビングへ戻った。 え、ちょっ母さん こいつと二人っきりとかマジですか? 人間同士の関わりは苦手なんだよ…!? だって"僕"はマスター以外の人間はそんなに関わったことがないんだ…! っと、なんか今変なこと考えた。 貼り付けた笑顔を改めてツワブキダイゴに向けると「とりあえずお庭に行きませんか?」と震える声で絞り出したので褒めて欲しい。 |