さいのう
あの「夢」から覚めて1ヶ月が経った。何事もない日常が過ぎていくが「夢」 は今はもう見ていない。

何だったんだろう、あの夢は……ふぅ、と溜息を吐いているとガキィン!!と金属同士がぶつかるような高い音が響いて現実に戻された。

「勝者!ツワブキダイゴ!」

「やったねダンバル!」
「ヴーーーー!!」



きゃーー!!女子たちの黄色声に混ざって勝利の声が嬉嬉として聞こえる方に目を向けるとポケモンスクールで行われていた子供向けに行われているポケモンバトルに優勝したダイゴが父親からもらったというダンバルを抱きしめてこちらに向かって手を振っていた。
一緒に来ていた母に急かされてお疲れ様、とタオルと水を渡しに行く。

「ありがとうアクア……僕の活躍見てくれた?」

「うん。ダイゴはバトルの才能もあるんだね」

「うーん、そう、なのかな?僕はバトルよりも石を眺めている方が好きなんだけどね!」

相変わらずブレないなぁ…。バトルに勝ったダンバルに傷薬を使いながらダイゴはまた石について語り始めた。
段々と慣れてきたが飽きないなコイツもと苦笑いしながら相槌をうつ。

「……でね!!ダンバルは磁力を持っているから僕の石の収集の手伝ってくれて……あ、そういえばアクアはポケモンを持たないの?」

「えっ……ええそうですね……」


急に石の話から私に振ってきた為曖昧な返事を返してしまったが後ろにいた母がそれをすかさずフォローする。

「この子ね、ポケモンを持ちたがらないの」

「えっでもアクアはもう12だよね?友達とかもみんなポケモン持っているんじゃないの?」

「いや、でも……」

確かにみんな最初のパートナーを選んでいる。親が捕まえてくれた、友達のポケモンを貰った、自分で捕まえた、色々な方法で相棒と呼べるポケモンを持っていた。

でも私はどうしても「自分」が「トレーナー」になれるとは思えなかった。

だって、



ポケモンがポケモンを持つなんておかしいじゃないか。

そう言いかけたが大人しく、口を閉じた。何を言おうとしているんだ私は…


「アクア?」

「……ううん、なんでもない。今は……まだいいかなって」

「もう、いつもそればかりじゃない」

母が苦笑を浮かべている。頑なにポケモンを持ちたがらない娘が心配なのだろう。でも、それでもやはり私の考えは変わらない。


「じゃあさ、アクアはどんなポケモンが好きなの?」

「えぇ……えー……」

ワニノコ、そのポケモンが真っ先に頭をよぎる。でもそれを言ってしまうとなんかナルシストな気がした。いや、本当に何故か。でも「ミズキ」にはワニノコって言ってほしい気が……何を意味のわからない事を言ってるんだ。
うーー、とかうーーんとか唸っているとダイゴが質問を変えてくれた。


「じゃあ好きなタイプは?……あっえっ、と!ぽ、ポケモンのね!!?」

「好きなタイプ……」


それなら、すんなり答えられる。
"ぼく"はいつだって雨が好きだった。それは今でも変わらない。

「水……かな。水タイプが好きだよ」

小さな声でだがはっきりとそう言うとダイゴは笑って私の手を握った。

「水タイプ……確かにアクアにぴったりだ!」

「そう、かな……うん。ありがとう」


興奮していたのか勢いで手を繋いだことにハッと、なって慌てて手を離された。どことなく顔が赤い。私も何故か顔に熱が集中するのを感じた。母の「あらあら」という声だけが私たちの間に落ちる。



「そう……水、タイプ……」

そういえば「スイクン」
あのポケモンも確か水タイプだった気がする。それを思い出すと何故かとても胸が締め付けられたがニコニコと笑うダイゴの前に無理矢理微笑みを作った。



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