愛する貴方へ
僕はもう行かなくちゃ、
狂ってしまった神祖竜ハイドラを倒し、白夜、暗夜は同盟を組み今後の透魔王国を支援する。という形で私が今後の透魔王国を指揮することになり、一先ず戦争は終わりを告げた。
国際結婚をしたサクラさん、ヒノカ姉さんはなんと暗夜に籍を落ち着かせ、
同じく国際結婚をしたエリーゼさんとカミラ姉さんは白夜に嫁いだ。
それと異世界から、お父様……ハイドラが救いの子として連れてきたというルーナさん、オーディンさん、ラズワルドさん。
ルーナさんはツバキさんと結婚した事により、故郷に帰るのは1度保留にするそうだ。同じくオーディンさんも白夜の忍であるカゲロウさんと結婚した事により、故郷には今はもどらないと言う。
だが、目の前にいる彼は……ラズワルドさんは「大切な人がいるから」と笑って、この世界から去っていこうとしていた。
もちろん、私はそれを止めるつもりは無い。
隣に佇む執事であり夫に、私はカチャカチャとお茶を混ぜながら遠くなるラズワルドさんの背中を見つめながらポツリ、と言葉を発した。
「ラズワルドさんの事は、愛してましたよ」
ぴくり、と隣で茶菓子の準備をする彼の手が止まった。
でも、
そう一度区切り、彼の横顔を見ると複雑そうな顔をしていた。まあ無理もない……、だがこれは聞いてほしい大切な話だ。
「元々竜という種族は「力のある者」に惹かれる、そう言われています。それが王族の繁栄に繋がりますから……でも私はジョーカーさんを好きになりました」
さて、と
混ぜていたスプーンを紅茶から取り出すと私はお茶を飲みながら彼と向き合った。
「では、ここからは憶測の話をしましょうか」
デデドン。こんなこともあろうかと作っておいたカムイとジョーカーさん人形を指に装着する。少々歪なのは目をつぶって下さい。一応カミラ姉さんに教わったのですが裁縫はまだ不慣れなんです。
「まず白夜の「私」です。「私」は自殺して大量にその血を流しましたよね?で、その時「私」は【もしもジョーカーさんを好きにならなければ】って思ったんです」
桜の髪飾りを着けた「私」の指人形をパタンっと倒すとここでようやく訝しげな顔をしていたジョーカーさんが口を開いた。
「竜の血が、その思いに答えたというのですか……?」
「竜の血や龍脈って壊れた物を直したり、崖を変動させたり、木々を生い茂たりする力ですよ?そんな竜の……神祖竜の娘ですからねぇ、可能なんじゃないですか?」
「そんな適当なところも好きですよ」
「ふふふ、ありがとうございます」
倒れた白夜の「私」の人形を横にジョーカーさんの人形を添わせる。
「はい。ではジョーカーさんは?あの時私の亡骸……いえ、"血"に何か思いましたか?もしくは願いましたか?」
「【カムイ様のお側に居れればそれだけでいい】と願いました」
「はい。ではその二人の願いが歪に叶った世界が暗夜です」
ジョーカーさんが選んでくれた黒いレースのコースターの上に新しい人形を出して新しい【私】の人形にバラの髪飾りを付けておく。
「白夜を選んだ私、暗夜を選んだ私……"あの"世界達は存在します。ただベクトルが違うだけです。
白夜でのタクミさんもいってました。「姉さんを殺す夢を見る」……と。最初は何物騒なこと言うんだこの弟はと思っていましたが彼も一応王族、竜の血が流れています。無意識に「もしも」の世界を見ていたのかも知れません。お母様の先読み……未来を知る能力も似たようなものだったのでしょう」
白夜でタクミさんに告白された際、用意周到に手紙まで残していたお母様。それは未来を知っていたから、だ。私にも使えたら便利だと思うが私はあくまで竜脈や竜の本能としての力の方が強いらしい。
だからこそ「ラズワルドさんが好きになった」のだ。
「……憶測ですが暗夜での世界のラズワルドさんは、恐らくですが竜の血が流れています。それが微かだろうが、強いのだろうが私の本当のお父様の「神祖竜の血」を飲んだことでその力が無意識のうちに強化されていったのでしょう」
私のお父様……ハイドラはこの世界に連れてきた異世界の戦士達……ラズワルドさん達に一時の力をさずける為に「神祖竜の血」を渡した、と透魔王国に残されていた手紙にあった。私の両親は大事なことを手紙に認めるのが好きなのか……いや、それは今はどうでもいい。
つまり元々竜の血が流れていたラズワルドさんがその血を飲んだ、という事実が大事なのだ。
「ではその言い方だとカムイさんは「竜の血が強い人」を本能的に求めてしまう……と?」
「私がやたらめったら浮気するみたいに言わないでくださいよ……でもあながち間違ってはないとは言えないですね。……あの時の私は彼が本当に好きだったと思います。本能で求めていたと言ってもいいでしょう」
「……それを止めるすべは?俺から離れる貴女はもう……見たくないですから」
確かに、また「次」があるかもしれない。
私としてはないと願いたいが、今までを考えると繰り返してもおかしくはないか、と溜息を吐いて彼の質問に答えた。
「……そうですねぇ……竜の血で求めてしまうなら竜の血を使って制するとか?でも貴方に私の血を流すような事が出来るんですか?」
これは純粋な疑問だ。彼は、私がとっっっても大切だ。自惚れではなく。血を流すような事が例え死体でも出来るとは思えなかったのだ。少し悩むのような顔をしたジョーカーさんは庭園の外で遊んでいる二人の息子たちを見た。
ディーア、私の愛しい子。その弟のカンナは最近生まれた、私たちの第二子だ。何方かと言えば私の血が濃く流れているのはカンナの方だが、ジョーカーさんはディーアを見つめている。
「……ディーアを使いましょうか。アレも一応竜の血が濃いらしいですし」
「カンナじゃなくてディーアの血を使う所が貴方らしいですね…………そんなに私がほかの人と結ばれるのが嫌なんですか?」
「……その台詞そのままお返しします」
確かにそれもそうか。一度ならず二度も彼を追ってしまってる。
そしてあっ、でも、と思い出したように言葉を続けた。
「でも多分ソレイユがいる以上はラズワルドさんとはまた出会えます」
「?、この世界にはいませんが」
「ええ。ですが既に産まれた、という事実は覆すことは出来ません。それはどの世界であれ、です。だからソレイユは未来へと繋いでくれる。そうですねぇ……ラズワルドさんの祖先、になるんじゃないんですか?」
過去に戻れて
未来は望めない、というのはおかしい話だ。
竜脈は、竜の力は万能だ。
「それも先読みで?」
「いえこれは感ですね……未来へ繋ぐ子になると、いいですでもまあ、来世の事なんて来世に任せましょう」
「適当ですね」
「そんな所が好きなのでしょう?」
「当然です」
「大丈夫ですよ、私はジョーカーさんが好きです」
「ええ、私も好きです。……ですが不安なのです。いつ、また離れていくか……」
彼が憂いているのはラズワルドさんのこと。記憶がなかったとはいえ、私がジョーカーさん以外に唯一愛した人。
ラズワルドさんは、もう、この世界から去ってしまったのだろうか。
「カムイまで……僕を置いていかないでよ……っ」「……私は彼が幸せなら、それでいいんですよ。だから今の私も幸せにならないと
それに、もしもの話なんて、誰にも分からないんですから。
……ああでもそうですねぇ……
未来で会えるなら後悔しない生き方をしてから会いたいですね」
未来の「私」に望むことはそれだけです。
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