Helianthus Annuus | ナノ
副長の葛藤 [ 57/156 ]


港に上陸する前にアイフリードを決闘の指定場所に送るためかなり遠回りした。元々は異界から近いタリエシン港に行く予定だったバンエルティア号はアイルガンド領へ直行し、カドニクス港着くと1人先に下りて奴は上機嫌に武器を構えた。


「船員は?いいのか、数名連れていけ」

「おいおい喧嘩っつーのはサシでやるものだ。まあ数日経ったら迎えに来い。立っているのは俺だけだろうがな」

「その結果でなきゃ殴るぞ」


止め刺す気かよと笑うアイフリードに頭痛がする。俺の目つきが悪い原因の一の原因になっている事に気づけないのかこの野郎は……


「お前は女に髪飾りの一つや二つ買ってやれよ。街、なんて始めてだろうしな」


ちょい、ちょいとアイフリードが指す方向には甲板から海を眺めていたエリアスが視線に気づいて手を振っていた。アイフリードはそれに笑顔で手を振り返す。


「……言われなくてもわかっている」

「死神にも春が来たりってか?船ではイチャつくなよ?」


ニヤニヤと笑う男に無性に腹が立ったので奴の腹に1発入れておくと冗談だってと軽く言ってそのまま港の奥へと姿を消した。
…奴のしたり顔がムカついたが確かに髪飾りを失くしたエリアスにあげるのは丁度いい。水色の髪を揺らしてアイフリードを見つめているエリアスを尻目に船員たちに上陸の命を出した。


🌻



ザワザワ、がやがや
いつ来ても騒がしい人間の集まる場所は思った通り穢も湧いていた。……聖隷と違って人魚にも穢の限度があるのだろうか?器を持たないエリアスにとって毒になる前にあまり長居は無用かと改めて「あまり離れるなよ」と念を押した。


「ここが、街……」

「…王都と比べると賑わいは大人しい方だ。物珍しいのは分かるがあまりうろつくな」


ベンウィック達には既に補給の指示をしてある。ボラードに停泊代を払っていると俺の後ろからキョロキョロと周りを見渡しているエリアスがポツリと呟いた。


「色んな、物があって、……楽しい?」

「…気になるところなあったら言え。連れていく」

「おやおや副長とあろうお方が女性にはやはり弱いんですね〜」

「あ"?」

「ヒィッ!?停泊代ありがとうございましたーーッ!!」


足早に去っていくボラードに舌打ちをするとくいっ、とコートを引かれる。後ろを向くとエリアスが(比較的)輝かせた目で「見てきてもいい?」と食べ物の屋台を指さしていた。


「何か食いたいのか?」

「人の、……食べ物、美味しい」


カドニクスは鉱山が近いため刀鍛冶の職人が多い他銀細工や宝飾に長けている職人の方が多い。そのため飲食の出店はそこまで出ていないがとても気になっているようだ。


「……わかった行くぞ。」

「ガルドは持った……」


先ほどベンウィック達が見つけた財宝を換金した金貨を与えていた事を思い出し甘やかすなと言いたい所だが今回だけは多めに見よう。


「わ……わたあめ……」

「……好きなものを食え」


夢中になって買い物を始めるエリアスの隣の屋台をふと見ると細かい装飾の金細工を置いていた。むしろこっちをメインに売っている店なんだろう。…髪飾りも置いている。だがいまのコイツから目を離すわけには……


「あっ副長!リア!丁度良かったー今日の補給は……」
「ベンウィック、いいタイミングだ」
「は?え?」


「エリアスを頼むぞ」有無を言わさないように短くそう告げて食べ物に夢中になっている内に宝飾店を回る。


まず先ほど見ていた隣にあった一店舗目。値段が高すぎる割に商品が見合っていない。
少し離れた位置の二店舗目。話にならんレベルだ。
宿屋隣の三店舗目。見た目だけで実用性がない。
四店舗目五店舗目…………ペースを早めて回るが中中これと言った物が見当たらなかった。


「あ……あの〜〜……」


そして十店舗目。エリアスからだいぶ離れてしまったがようやく納得の出来る店を見つけ、
色と緑が混じりあったあのふわふわと揺れ動く豊かな髪を思い浮かべる。アイツは水色や青といった寒色が似合うだろう。いや、だがあえてそうではなく他の色でも栄えるのではないか?そう考えると……


「そ、その〜〜〜……」


赤……は強すぎる。紫はアイフリードの色がチラつくので却下だ。あとは緑……いや緑のバレッタは装飾が地味すぎる。あいつの髪の艶やかさに負けてしまうだろうとなると……


「お、お客様〜…お、おお決まりですか〜?」

ピンク……女にピンクというのは軽率すぎる。ダメだな。エドナにも怒られた記憶がある。なら白……白もいいな。無垢なイメージが合う。だが掘られている刻印がユリだった。そんな高貴な感じではない……何方かと言えば……そう。向日葵だ。アイツによく合いそうな花は……。向日葵ということは自然と色は決まってくる


「…………その、黄色のバレッタを1つくれ。」

「ま、毎度あり!」


凝った細工はない。シンプルな黄色とオレンジが混ざったような色合いのバレッタだ。
その淡い色合いがどこかエドナを連想されるがあの水色の髪に黄色もきっと映えるだろう。包装は程々に頼むとそれを受け取る。


バレッタと同じ淡い黄色の包装で包まれたそれをみて
ふと、

「…………俺の色でもあるのか…」


……似合うと思って買ったがこれはいい意味で虫除けにもなりそうだと、エリアスが待っている場所へ足速に戻った。
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