Helianthus Annuus | ナノ
海賊の休息 [ 53/156 ]

船について、シャワーを浴びて身体は綺麗になった。
だけど心のベタベタまでは洗い流せた気はしない。

風呂から出てかめにんに作ってもらった予備の分の服に袖を通すと近くに掛けていたアイゼンのコートが目に入る。

「…………」

それを手に取って、内側に入っているペンダントを出して先ほどの様に開いた。

何度見ても中身は変わらない。可愛らしい絵の女の子がこっちをみて笑っていた。何度かそのガラスの表面を撫でたあとそっと閉じて鏡を見る。

「に」

鏡に歯を見せて"笑う"。
でも全然出来ない。これは笑顔ではないのは何となく分かった。

「んぃ」

アイフリードが先程やったように頬を引っ張ってみる。でもそれでもこれは笑顔じゃない。
私はどうやって笑っていたのだろう。


どうやったらこの絵の彼女の様に笑えるのだろうか。



笑ったらアイゼンは喜んでくれるのだろうか?









ベタベタベタベタ。心というものは面倒臭いものだ。




「……早く返さなきゃ」

髪を拭かないとアイゼンがうるさいから適当にゴシゴシと拭いてタオル越しに無くなった右耳に触れた。

「……、残って、ない」

こんな気持ちになるなら、
耳と一緒に心も完全に無くなってしまえばよかったのに




🌻




アイゼンのコートを抱えて船から降りると大分日が沈んできていた。オレンジ色の夕日が砂浜を照らして朝の日差しと比べると海も何処か静かに感じたがそれと反比例して船の男達のテンションは上がって来ているのか日が登っているうちに集めていたらしい食料を囲んで盛り上がっていた。

「アイ、ゼン」

「ん?ああ。ありがとうな」

コートを渡すとアイゼンはそのまま羽織る。心水臭くないだろうか?

「船長!大方探索は終わりました!このまま停泊しますか?」

「そうだな。リアも慣れねぇ船旅に疲れてるだろ。今日はここに泊まるか」

「?、私疲れてないよ」

「気持ちはそうだろうな。だが感じてないだけで体は疲れてるもんだ」

さっきは悪かったな、伸ばされた大きな手でわしゃわしゃと頭を撫で回された。
アイフリードは私の頭を撫でるのが好きなのかな?
その姿をじっ、と見つめていると少し頬が腫れている。どうやら本当にアイゼンに殴られたようだ。

「よっしゃあ!!船長からもOKが出たことだし……!!」

「ああ!!やるか!!!!」






集まっていた船員たちは何処から出したのか各々切り倒された大きい木を積み木のように
砂浜に積み始め、それと集めた食材たちを調理し始める。何が始まるのかとはしゃぐベンウィックを呼び止めるとキラキラした笑顔で答えてくれた。


「キャンプファイヤーだ!!」

「キャンプ、フ……ァイア?」


「そうだぜ!海賊といえばキャンプファイヤー。海賊は敵地だろうが航海士に止められようが狼が現れようがキャンプファイヤーを楽しんだんだ。俺達もその童心を忘れちゃいけねぇ。」

「う、うん。」

やけに例が具体的だがベンウィック曰く、それは男のロマンだそうだ。……?この言葉どこかで聞いたことある気がする

積み上げられた木に火がともされる。日が沈み始めた辺りがすごく明るくなったが火は怖いので遠くで見ていようと盛り上がっている船員たちを尻目に少し下がっていくと同じく離れた場所にいたアイゼンが何やら難しい顔で紙と睨めっこしていた。

「……なにしてるの?」

「地図を書いてる。異界の地図を完成させた奴はいない…この地図を埋めることは男のロマンだ」

「ベンウィックも同じこと言ってた……栗?」

「それはマロンだ」


ぽすん、
アイゼンの隣に座る。彼といると何故か落ち着くのだ。
昼にかかった甘い心水の香りがして思わずコートを引っ張るとアイゼンは少し笑って私の肩にその返したばかりのコートを被せた。

「……借りたかったわけじゃないよ?」

「だがもう夜だ。羽織っとけ。人魚はどうだか知らんが聖隷は暑いのも寒いのも平気だ」

「……ありがとう、?」

ペンを走らせていた手を止めて明るく照らされた地図をなぞったアイゼンが呟いた。



「ここからだと……ディオメル島がちけぇな」



「ディオメル……島?」

「双子の島……別名兄妹の島だな」





「きょう、だい……」



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某海賊→少年漫画で有名な海賊達

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