Helianthus Annuus | ナノ
始めての上陸 [ 51/156 ]

居心地の悪い視線はあったが結局アイゼンと話せないまま嵐海を越えたバンエルティア号は魚達が言っていた「カイウス島」に無事到着した。


「本当に島があったな……上出来だリア」

「う、……うん。よかっ、た?」

上陸だー!!と騒がしく梯子を下ろして砂浜へ飛び出していく船員たちに続いて船から飛び降りる。そのまま砂浜を歩くとバリアーを張った素足が砂浜を踏みしめる不思議な感覚に慣れない。
サクサク、と音を鳴らして足跡を付けているとベンウィックに声をかけられる。

「リア!さっきはマジ助かった……!!ありがとな!」

「ううん。元はと言えば私のせいだし…もう大丈夫、なの?」

「おう!ご覧の通りピンピンしてる!」

死神の呪いで死にかけたのは久しぶりだけどな!何故か笑顔でそう言ったベンウィックは本当に元気そうだ。一緒に探索しようぜ!と腕を引くベンウィックになすがままにされているとガツ、とナニかが足にぶつかって盛大に転んでしまった。

「うおっ!!?だ、大丈夫か!?」

「いた、い。……?いや、痛くは、ない?」

「どっちだよ」

バリアーのお陰か、痛みはなかった。ベンウィックが笑いながらほら、と手を差し伸べてくれたが私はその手を取らずに踏んだ「何か」を砂浜から掘り起こす。
すると金色で縁取られた輪っかみたいなのが出てきた。

「……?、なに、これ?」


「んー…?お宝か!?」

興味津々に見つめるベンウィックに手渡すと「これ“ハーシェルの腕輪“だな!」と興奮気味に言われた。


「ハー……シェル?」

「ああ!エターニア外伝に出てくると言われている極光術の使い手の……」

「それは偽物だ。よく見ろ、模様がちがう」




後ろから不機嫌そうな声が聞こえた。
不思議と耳に馴染むその声の元に振り返ると声と同じく表情も不機嫌そうなアイゼンが黒いコートをはためかせてこちらに歩いてきた。


「えっコレ、ハーシェルの腕輪じゃないんですか?」

「装飾の細部が違う。……それよりもベンウィック、お前アイツらはいいのか?」

「はっ?あーーーーーーッ!!お前らぁぁ!!俺の隠していた心水をおおおおお!!リア!探検はまた今度な!」

ぽんぽん、と私の頭を撫でて器用に片目を閉じたベンウィックは心水の瓶を開けてご機嫌な船員たちの方へ駆けて行った。
そうすると自然とこの不機嫌そうな(?)アイゼンと2人きりになる。再び胸がモヤッ、としてきたので急いで何処かに移動しようとすると目の前に見慣れた手袋を着けた大きな手が差し伸べられた。

「……、あり、がとう?」

「……ああ」

その手をとって立ち上がる。でも会話、が続かない。
アイゼンの視線が居心地悪く感じたのでとりあえず手に持っていたハーシェルの腕輪(仮)を眺めて呟いた。

「コレは……もら、ってもいい?」

「……お前が見つけたんだ。…好きにしろ」


それもそうか。せっかくだ、そのまま付けてしまおうと二の腕を腕輪の空いた隙間から通そうとするが入らない。
どうやるんだろうとギリギリと腕輪を二の腕にくい込ませているとアイゼンが私の手を取ってため息を吐いた。

「……ちがう。手から入れて、二の腕まで持っていくんだ」

「?」

「……貸せ」

持っていたハーシェルの腕輪(仮)を取られると、私の手に潜らさせる。そしてぐいっ、とそのまま二の腕まで上へ
移動させられた。

「こう、付けるんだ。いいな」

「……ありがとう」

じっ、とアイゼンを見つめる。アイゼンはさっきまでピリピリしていたのに今はそれが無くなっている、気がした、から思い切って口を開く。


「……怒ってる?」

「何ににだ。俺は怒っていない」

「でも、さっき、まで……なんか、こう、イライラ?ピリピリ?よく分かんないけどそんな感じだった」

理解は出来ないけど、何となく「わかる」アイゼンは何処かおかしかった。だから話かけにくかったのだ。
反らすことなくアイゼンを見つめていると観念したのか、ポツリと呟いた。

「…………お前は」

「うん、なに?」

「…お前は人魚だ」

「……うん、」




「そんな簡単に、それをばらさないようにしろ」

「……?なん、で?」



人魚なのは、バレちゃダメ。それは「誰か」にいっぱい言われていたからわかる。でも船の皆は「大丈夫」と言ってくれたのはアイゼンだ。だからわからない。
アイゼンの綺麗な"青"を見つめていると彼はやがて口を開いた。






「お前が、心配だからだ」





「しん、ぱい」

「……そうだ。お前がまた"あんな"目に合うのを俺はもう見たくない。アイフリード海賊団にお前の事を悪用するような輩はいないと俺はハッキリと言える。…だが可能性はゼロとは限らないんだ。

だから、これ以上俺を心配させるな」




「う、うん」

アイゼンに見つめられて、「分かればいい」と、頭を撫でた大きな手にベンウィックと違って何故かドキドキした。

さっきまであった胸のズキズキはドキドキに変わっている。
忙しい体だなぁ、と他人事のように思った。

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