願いを込めて [ 33/156 ]
私の記憶はアイゼンに泣きついて思う限りを吐露した所までしかなく、泣き疲れて寝てしまっていて起きた時アイゼンのシャツを握りしめて寝ていた事に気が付き慌てて手を離した。
「ごごご、ご、ごめん!!!」
「気にするな。妹も良くやっていた」
「…へー…そー………、」
めちゃくちゃ恥ずかしい……顔もなんか潮浴びたみたいにベチャベチャしてるし……
天響術を唱えて水を生み出すとその中に顔を突っ込んでばちゃばちゃと顔を無理矢理洗い適当に顔を降って水を落とすと恥ずかしさに気を取られていて気が付かなかったが遠くに立派な帆が微かに見える。予想通り船が到着したのだろう。
「……アイゼンは行っちゃうんだよね……?」
「……ああ、やるべき事がある」
キンッ、甲高い金属音が鳴る。
アイゼンがコインを弾いた音だ。パッとコインをキャッチしたアイゼンが手を開くとやはり「裏」、魔王ダオスが笑っていた。
……アイゼンはこの呪いを解くために、妹さんの為に航海しているのだ。
私に止める権利は、ない。
「……お前を乗せるわけにはいかない」
「う、ん」
そう。だからここでお別れだ。これ以上あの船に近づいてしまうと人間達に姿を見られてしまう。
私は聖隷と……アイゼンと違って人間には見られては"いけない"
「これを…お前にやる」
また泣きそうになるのを堪えているとアイゼンが拳を差し出して渡してきたのは私たちが何度も賭事をしたお互いに表と裏、極端に結果を出した、
「……カーラーン金貨……」
「物というのは魂が宿ると言われている。ソレは穢れのない純粋な金だ。……お前の思いを込めていればいつかまた会えるだろう」
私はそっとアイゼンの手から金貨を受け取るとぎゅっと両手で包み込んだ。
思いを、込めていれば、願いが叶う。
「……アイゼン人間みたいな事言うね」
「…お前は最初俺を人間と間違えた。人間と聖隷は異なる種族だが根本的な所は変わらない。強ち間違ってはない」
「ふふっ……何その理論」
ようやく笑えた私をぐしゃぐしゃといつもみたいに頭を無雑作に撫でたアイゼンも少し笑みを浮かべて
「"また"なエリアス」
そう言ってそっとその手を離した。
「…あ……」
離れちゃう、行ってしまう。また独りに……、
いや、……違う。そうじゃない。
私は持っていたコインを高らかに上げると力の限り叫んだ。
「"また"ね!!アイゼン!」
思いがあれば、"また"会える。そう信じて私は涙でぐちゃぐちゃだけど、笑顔で彼を見送る。
そんな私を見てアイゼンは穏やかに笑って遠くの船に向かって歩き始めた。
「今度は落ちないでね〜〜!!」
そう叫ぶと手を軽く振り返してくれた。
アイゼン。初めての地上のお友達。
あんなにお話出来たの初めてだった。
また会えるといいな。
そう願ってコインを握りしめて遠くなる大きな背中を見つめた。
アイゼンは1000歳だって言っていた。
人魚だってすごく長生きする。
なら…少しくらい寄り道してもいいよね?