Helianthus Annuus | ナノ
隠し部屋と人魚の■■ [ 98/156 ]

ギデオンがどんな人物か、そんな話をしていたら等々出口……というか地上に繋がっている梯子を見つけた。


「ここが離宮に繋がっているのかしら」

「さあな出たらわかる」


今度は前線のロクロウとアイゼンが先に梯子を上がっていくと特に戦いの音は聞こえない。「おーいきてみろよー」とロクロウの声が頭上から聞こえてきた為でていきなり敵に囲まれているということは無かったのだろう。

エリアス達も梯子を上りあとに続くと、目の前に広がっていたのは、書物がぎっしり詰められた本棚がいくつも並べられた天井の高い部屋だった。


「…図書室?こんなところに出るなんて」


そうつぶやいてベルベットは不思議そうにあたりを見回している。
確かに、地下水道がある所が図書室に繋がっているとは誰も思わなかっただろう。沢山の本の山にライフィセットは思わず感嘆の声をあげる。

エリアスも釣られる用に本棚の近くに寄っていく。
本は好きだ。人の知識が広がっていく。並んだ本の背表紙を見る限り、どれも今まで読んだことのないような古い書物ばかりだ。

この中には、どんな世界が広がっているのだろう。



「ううむ、どっちを向いても難しそうな本ばかりだ。だんだん目眩がしてきたぞ」

「見たところ、現代の言葉で書かれていない本も多いようだ。ライフィセットの様に確かにこれはグッとくるものがある……」


ロクロウやアイゼンが感想を漏らしている中、ライフィセットとエリアスは無意識に目の前に並んでいる本の背表紙をチェックしていた。
アイゼンの一言うとおり、見たこともない文字で書かれている背表紙も多いが中には自分でも読める本もたくさんあった。

ローグレスの歴史に関するものや聖寮の教本などに混ざって、昆虫や植物の図鑑もいくつか見つかった。ライフィセットはそれらにキラキラした目を向ける。エリアスは食品について書かれた本だ。どちらも知的好奇心が疼くらしい。


「さすがは王城の書庫じゃ。珍本が揃っておるのう」


それぞれが思い思いの行動をしている中、マギルゥが本棚に近づき、中の本を一冊、なんの気なしに抜き取った。


「ややっ!?」


本を握ったまま、マギルウはその場に固まった。
抜き取られた本棚が低い音を立てて左にスライドし、後ろに別の本棚が現れたのだ。


「おおっ、こりゃビックリ!隠し本棚じゃ」
「ホントだっ!」


ライフィセットは隠れていた本棚の前に素早く駆け寄った。一見して貴重なものらしいと感じる背表紙の本が、びっしりと収められている。
わざわざこんなところに隠しているのだから、きっと大事な物に違いない。アイゼンもその価値に気づいたのか隣で感嘆のため息を漏らしている。


「これは………。出すところに出せばアイフリード海賊団を大艦隊にできるほどの価値があるかも知れないな」

「そうなのか?俺にはただの古い本にしか見えんが……」


すっかり圧倒されているアイゼンの横で、ロクロウがしきりに首をひねる。
その本たちの中に、ひときわ目を引く1冊をライフィセットは見つけた。


「これって……」


本棚から引き抜き、手に取ってみる。。
赤い背表紙のその本には、大きくて不思議な形の紋章が描かれていた。


「ほほう、これはカノヌシの紋章じゃな」

「カノヌシ……」


アルトリウスが復活させようとしているという聖寮の神の名前だ。

古代語で書かれているらしいソレはロクロウが「子供の落書きみたいな字だな!」と苦笑いするがライフィセットはその本がどうしても気になるらしい。


「読めるのか?」

「ううん…でも僕……」



ライフィセットがもじもじと下を向く。本当はすごく興味があるのだろう。植物や昆虫の本なんかより、ずっと。
そんな様子を見ていたベルベットが「暗殺には必要ないものね」と吐き捨てるように言った。そしてベルベットがその本を手に取る。


「あ……」


ライフィセットが小さく非難の声を上げた時だった。ベルベットはその手に取った本をライフィセットに押し付けた。


「欲しいのなら持っていけばいい」

「いいの……?」

「いいこぶっても仕方が無いわよ。業魔に協力してるんだから」



ライフィセットは渡されたその本を抱きしめて「ありがとう…!」とベルベットに笑顔を向けた。ロクロウは呆れ顔で素直に優しくしてやれよ、とベルベットを宥めるが取り付く島もない。


「そんなボロでいいのかー?もっと高そうな本もあるぞ〜?」

「ううん、これがいいんだ」

「なら、さっさと行くわよ」


話がまとまったらしいのでエリアスもちゃっかり食品のレシピ本を1冊だけ手に取る。図書室から出ようとしているベルベット達対して何故かピタリと止まったマギルゥはとある本棚をじっと見つめたまま動かなくなった。

ライフィセットが抱えてる本もマギルゥが「たまたま」触った仕掛けが発動して隠し本棚の中にあった本だ。
だからまだ何か仕掛けがあるのだろうか?とライフィセットがそこをのぞき込むが歴史の本が並んでいるだけで特に怪しいところはない。


「マギルゥ?」

「ん?ああ、坊や。そこの本をとってもらえぬか?」


どの本?とマギルゥに尋ねると坊にしか見えない本じゃよ。とよく分からない返答が返ってきた。


「僕にしか見えない本……?」

「うむ!儂のカンじゃがここにはお宝的なものをビシバシと感じる。古文書で書かれたレア書物を置いてある所じゃしな〜仕掛けがあると見たが儂から見てもわからん。ならば聖隷から見てビビっとくるものはないかえ?」

「おいおいこじつけにも程があるだろ…」

「ちょっとマギルゥ、あんたね……」


早く行くわよ、って言葉が分かっているのか?とベルベットがマギルゥを睨むが本人はなんてこと無いように視線を躱した。
ライフィセットはマギルゥの言われた言葉が気になり、本当に自分にしか見えない本があるのかと、手当たり次第にマギルゥが指定した本棚の本を取っていく。


「ライフィセット、この魔女の言うことを本気にするな」

「うん…でも、なんだか気になって……」


だが急いでいるのも事実だ。アイゼンやベルベットを待たせない為にも一先ず手に取れるだけの本だけをライフィセットが抜いていくととある本を本棚から抜いた時、カチリと静かな音が聞こえたきがした。


「今……」

「おーっと坊が思わず手に取った本で仕掛けが空いてしまったようじゃのう。魔女のカンも馬鹿にならんじゃろ?」

「本当にあったのかよ……」


ゴゴゴゴ、床が擦れる音が部屋に響くと壁際にあった本棚が左右に開いていき、奥へと続く道が出来た。あれは、隠し部屋か。とアイゼンが書庫にあったランプで道を照らす。


「闇ギルドはここについては知らなかったのね。それとも特に必要な事ではない、か」

「丁度いい、まだ明け方まで多少は時間はある。情報を売るためにも聖寮の"秘密"とやらを見てみよう」

「ぉぉー怖い怖い。儂はカンで当てただけじゃぞ〜」

「なんで"秘密"って分かるの……?」

「隠し部屋、なんて大層な場所に入れている地点で"秘密"でしかない。聖寮が何をしているのかその一部を垣間見ることが出来るかもしれないしな」



アイゼンがニヤリと笑った。ランプを持った彼に続いてライフィセット達が後ろから着いていくとがさり、ベルベットと何かを踏んだ。よく見ると何かの資料が足元に散らばっているのがわかった。


なんだか、ザワザワするこの部屋。



「なにこれ……「霊応力の増加について」…?」

「埃を被っているな……当分誰も入らなかったのか、もしくは捨てられた研究所って所か」

「えっとこっちには……「人魚の、血肉」ってある」

「なんだと…?」


ライフィセットが拾い上げた資料をアイゼンが奪うように見る。
そこには確かに人魚の血肉について記されてあった。


「私の……こと?」

「……所々滲んで読めなくなっているが、お前達の種族のことについて書いてあるのには間違いなさそうだ」


「……見せて。私が、私のことを知らないのは、嫌なの」

「…わかった」


アイゼンは持っていた資料を渡してくれた。人の言葉には慣れてきたはずなので読むのに苦戦はしなかったが確かにインク滲みが酷すぎて読みづらい。
ロクロウ達も内容が気になる、と言っていたので読める範囲で読み上げることにした。

「『人魚というのは元々霊応力が非常識に高い■■が災厄を祓う為に水の聖主アメノチに■■として■■■られて■■したものだ。人魚は霊応力に優れており、■■であった故か他者にその血肉を与える事で他者の霊応力を上げることが可能な貴重な種族である』……アメノチ、様」


ずきり、背中に刻まれた紋章がじわじわと痛むきがした。
読み上げた内容にアイゼンが「そうか、なるほどな……」と納得したように声を出した。

殆ど読めていなかったが何かわかったことがあるのだろうか?気になってアイゼンの袖を引くと、ああ。と呟いて彼の見解を話してくれた。


「不老不死の伝承だ。霊応力が上がるということは聖隷が見えるようになる。聖隷が見えるようになるほどの霊応力を持ったということは「誓約」を行うことが出来る。それで寿命を伸ばすことが可能なはずだ」

「なるほどの〜霊応力がない他者から見たら確かに不老、不死。に見えたのじゃろうなぁ」

「誓約、で寿命を」


じゃああの時港で助けた血を飲ませた女性は不老不死、になったわけじゃないのだろう。それに少しほっとする。一人取り残される、というのは悲しい、事だからだ。


「他に何か書いてあるの?」

「ううん、これ以上下は滲んで読めない……」

「まるで1度濡れたみたいね」


こんな所に水……?
他に何かないか、とアイゼンが部屋を照らすと部屋の奥の方に、ガラスの大きな筒が見えた。


ざわり


それを見た途端、酷く悪寒が走る。


「なんだろうこれ……」

「人が一人分入れそうだな。これは……外側から壊されている」

「もしかしてここに人魚が捕まってたんじゃないの?」



ベルベットのその言葉に私の体の震えが止まらなくなった。

そして頭に走っていく記憶。

沢山の、人魚の資料。
捕まっていた、人魚。
見覚えのある、聖寮のマーク。



そうだ、無くした記憶が叫ぶ。
ここで、ここで私は




「あ、……」

















「姉さん」








そうだ、助けてくれたんだ。アレを割ってくれて、泣きながら。ごめんなさいって、
優しくて、可愛いあの子、が、ここで、








「っ、」

「おいエリアス…!!?」

「ちょっと…!」


ズキズキと痛む頭と、耳と、体に、
視界が暗くなっていくのを感じた。
















「ねえ貴女、名前はなんて言うの?
ここは退屈なんだー。話し相手になってくれない?
とりあえず、名前を教えて!ねーってばー!


えっ長いちょっ、ちょっともっかいゆっくりいって!
めちゃくちゃ長くて言いづらい!

怒んないでよ!あっほら私が言いやすい名前考えて上げるからさ!ねっ?





××××

どう、いい名前でしょ?」




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