別れの時 [ 30/156 ]
「表!!これで100回目の表だよアイゼン!」
キィンッ
いい音がなり、弾かれた金貨は空中で回転すると私の手に戻ってくる。
ぱっと掴んで手を開くとやはり結果は見慣れた女神の面だった。
「……俺は100回目の裏だな」
「極端だね〜……」
死神の聖隷と幸運の人魚。なんだか二つなみたいでカッコイイんじゃないかな!!?
何度やっても裏の死神の面しかでないアイゼンはダセェ名だな、もう少し捻ろ。そう言って諦めの悪い101回目のコイントスをした。
「…………裏」
「そのコインすごい空気読むね……」
この金貨はこの間アイゼンが見つけたカーラーン金貨だ。裏が魔王ダオス。表が女神マーテルというコイントス向きの金貨。これで食料調達の役割を決めようってなったのはいいがかれこれ1週間。私は表、アイゼンは裏しかでない事を察してきた私達は第1回コイントス大会(?)を開いていた。
「人魚は幸運の存在っていうのは嘘じゃねぇみたいだな」
「そんな人魚をこんなにもマジマジとみれるアイゼンの呪いはもう無くなってもおかしくない…はず!」
「それで解ければいいんだがな…そんな簡単なもんじゃねぇよ」
確かにそれはそうだ。結局このコイントスは不公平ということになったので各々得意分野に別れた。
お互いに食事は取らなくてもいい種族と分かったのだがやはり1度味覚を覚えてしまうと何かを食べたいというのが現状だ。だから表なら海で、裏ならジャングルで食材探し……と決めて居たのだが流石に1週間同じことをしていると飽きてきてしまっていたので今日は私が素潜り(?)で貝を、アイゼンが釣りということになった。
「あっついでに漂流物ないか近海の海を見てくるよ」
「気をつけろよ」
「アイゼンがね」
いつものセリフを交わすと私はコインをアイゼンに渡して、アイゼンから借りていた大きなコートを脱ぐと海水へ潜った。
1週間前にアイゼンに正体がバレてからはこうして堂々と海に入っていた。でももう逃げるなんて考えはない…アイゼンがこの島にいる限りは私も最後まで一緒にいると約束したからだ。
……、でも船が来たらアイゼン、帰っちゃうんだよね…
「い、いや!!それよりも集中しなきゃ…!貝〜、貝ー!!あっこれ食べれるやつ。ウニもある!」
ポイポイと、持ってきたバナナの葉で編んだ籠に取った貝を入れていく。
前にも言ったが魚は食べれないのであくまでメインは貝の収集だった。すると海底に近づくにつれたくさんの魚達が集まってきた。
「人魚だ」
「人魚がいるね」
「珍しいなぁ」「こんにちは!今は貝を探しているの」
「人みたいな事をする」
「食べちゃうの?」
「人魚のくせに」
「海の物を食べるんだ」人魚はある程度だが、魚の言葉が分かる。
ブスブスと刺さる言葉の棘に私はははは、とただ笑って聞かないフリをするが魚達はまだ私の周りをウロウロと泳ぐ。
「はぐれた人魚」
「可哀想に」
「ひとりの人魚」
「人間の真似事」
「だからはぐれたんだ」いたい痛い。言葉の棘がウニみたいにたくさんブスブス私の心を抉ってくる。前の私ならその言葉にきっと泣いていたのだろう。
でも、今は違う
「そうよ、人の真似事。一緒にいたい人がいるの。それにひとりじゃないもの。友達を待たせてるの邪魔をしないで」
「騙されてる」
「血肉を食われてしまうよ」
「恐ろしい恐ろしい」
「人は魚を食べるんだ」
「人魚も食べられてしまうよ」
「可哀想な人魚」「アイゼンはそんなことしないッ!!!!邪魔だって言ってるでしょ!!」
私はこれ以上小さい者達のその言葉を聞いてられなくて水を操り波を起こして小魚達を退けた。
怖い人魚だ、逃げろ、と散々人をからかっていたのに一斉に散り散りに逃げていった。
「……アイゼンは、違うもん……」
私が波を起こした影響で穏やかだった海が少し荒々しくなる。すると海上の方から微かにだが何やら声が聞こえてきた。
「…………人、の声…?」
貝が入った籠を抱え直すと私は尾ビレを翻して海上へ浮上した。
ちゃぷん、と音をたてて海上に顔を出すとそっとバレないように辺りを見渡す。そして少し離れた所に大きな、立派な帆の船が見えた。
「でっけェ波がくるぞおお!!舵をとれぇ!!」
「おい無人島があるぞ!あそこで食料調達出来るじゃないか?」
「あ…………、」
そしてその大きな立派な船は私達のいる無人島へ向かっていた。
「船が来たら帰ってしまう」「…………アイゼン、に知らせなきゃ。」
一人ぼっちの人魚。小魚達のその声が頭の中で反響した気がした。