最後の依頼 [ 92/156 ]
アイゼン達は2つの依頼を終わって、一先ず報告に戻ってきただけだったらしい。タイミングは良かったがな、とアイゼンは少し不機嫌そうに呟いていたがどういう意味だったかよく分からない。
でも、みっつ頼まれた中でふたつ。ならあとひとつの依頼が残っている、ということだ。
「……私も行く」
「ダメだ。連れては行かん。お前には別件でタバサに依頼があるだろう」
「戦場にまだおいて行くの………?」
「戦場…?ウェイトレスの仕事だ」
タバサは「副長は貴方を人間社会の"裏側"に関わらせたくないのよ」と言っていた。けど人に関わった以上もう裏も表も関係ない。だからついて行きたい、これは私の意思だ。……アイゼン、にはそれを見せなければ。
「…タバサ」
「何かしら?」
「…最初に謝っておくね……ごめんなさい」
先程、もらった制服を聖隷術で作った氷で引き裂いた。着心地のいい服だったが、これがあったら、まだ同じことをさせられる。ならば無くしてしまえばいい。アイゼンは少し目を見開くが何も言わなかった。
「これで、店出れない」
「……本気のようだな」
「うん、私は ぜったい いくから」
引き裂いた制服を拾い、タバサに先日貰った給料のガルドが入った袋、と一緒に返す。ごめんなさい、と再度謝るとタバサは「気にしなくていいわ」と柔らかく微笑んだ。
「お金はいいわ。元々代わりのある服だもの。それは貴方が初めて自分の力で稼いだお金…大切にしなさい」
「……ありがと、うございます」
「闇ギルドのボスも認めちまったしこれは連れていくしかないなぁアイゼン!」
「ふふ……孫がいたらこんな感じなのかしらとつい可愛がってしまうのよ」
「……コイツの方がだいぶ年上のはずだけどな」
タバサに結んでもらったお団子を解くとバレッタを元々付けていた位置に戻す。よし、と一息つくと日が沈み始めている中次の依頼に向かおうとしているベルベット達に着いていく。
「話はまとまったようね。ほらさっさと行くわよ」
「エリアス、改めてよろしくね」
「うん……頑張る…次に行くのは港、って聞いたから…手伝える……と思う」
「いやーそれにしても意外と大胆な事をするんだな」
お前には後で芋けんぴ分けてやろう、そういいながらロクロウが上機嫌に私の肩を叩くとアイゼンが舌打ちをしながらそれをやめさせる。だいたん、はよく分からないがアイゼンも「お前の思うままに行動すればいい」と言ってくれたのでいい言葉、って意味だろう。
ゼクソン港に向かう為王都から一旦ダーナ街道へ出る。通行手形がある為、入った時とは違いとてもあっさりと出入りができるものだな、と関心しているとしばらく進んだ先に白い制服を着た男達が見えた。
あれは、たしか……
「聖寮……」
「なんでこんな所にいるんだ?特に強い業魔はこの辺りにはいないよな」
仮面をしている為その表情は見えないがなにやら上機嫌には見える。
珍しい緑色の瓶を持っていて、こちら(王都の方)に確実に近づいてくる。隠れられる場所はなさそうなのでこのまま一般市民を装って通り過ぎるわよ。とベルベットが言うが検問同様嫌な予感がした。
(後にそれをフラグと言うとマギルゥに聞いた)
サクサク、みんなの足が芝生を踏みしめる音がやたら大きく聞こえた気がした。特に会話もないまま聖寮達の横を通り過ぎる、二人とも上機嫌なせいか声が大きく、聞き耳を立ててないのに会話が筒抜けに聞こえてきた。
「ラッキーだな!まさか裏切り者の家宅捜索でこんなものが手に入れられるとはな」
「これは相当な上物だ。お偉いさんたちには内緒で頂いちまおう」
(裏切り者、の家宅捜索…?)
(気にするな。聞こえないふりをしておけ)
アイゼンに耳打ちでそう言われたので気にすることもなくその場から速歩で去ろうとしたが「待て!!」と対魔士達に呼び止められてしまった、…ベルベットが
「お前……思い出したぞ!!ヘラヴィーサを襲ったやつだな…!?」
「はぁ……そのまま通り過ぎていればよかったものの……」
「なにぃ…!!貴様…!!俺たちはヘラヴィーサから王都に戻されて今じゃ下っ端だ!!貴様の、お前のせいだ!!!!」
「へぇそう。どうでもいいわ」
キンッ
アイゼンがコインを弾くのを久しぶりに見た。多分裏だろう。いや絶対に裏だ。こうなってしまっては、やることはひとつだろう。
「ぶっ、とばす?」
「……そうだな」
ロクロウはすでにやる気だ。小太刀構えているし。久しぶりの戦いに私もそっと聖隷術を唱えてフォローを開始した。