Helianthus Annuus | ナノ
贈り物 [ 91/156 ]

調理場は戦場だ、って船のコックが言ってたけど納得した。

紛れもない。ここは戦場である。




「ちゃわんむしとプリンとマーボーカレーちょうだい」
「お姉さんこっちはリゾットとラザニアと海鮮サラダくれ」
「あっこのグラス下げておいて」
「ちょっとー料理まだー?」
「僕はチーズスープで……」
「なんだよルカお前はもっと食えよ細いんだから!あっ姉ちゃん俺はマーボーカレーと食後にフルーツケーキで」
「これ頼んでたものと違うんだけど!!」
「ねぇ席空いてる?」
「おかわりちょうだーい!」
「お会計よろしく、ついでにこのボトルをキープで」



注文、注文、注文注文を厨房に届けたと思ったら注文、片付け、お会計、注文、片付け、…………人間の社会というのは何ともめんどくさい事だろうか。



「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………」

「ちょっとーリアちゃんー、ため息重たすぎよー」

「戦闘、よりも、きつい、かも」

「まあ休日はここは戦場だからね」

「おつかれさま。今ので最後のお客様だったわ。初日なのにすごい働きっぷりだったわね」


一緒、に注文などをとったウェイターの女の子はケロリとしている。人間は過度なロウドウに慣れすぎるとシャチクというものに進化すると何かの書物で読んだがもしかして彼女はシャチクだからこんなにも元気なのだろうか?人間すごい。


「ほら、賄いをどうぞ。あと今日のお給料よ。頑張ったわね」

「お給料、……これが……」

「初任給ね。こうして働くのは初めてだったのかしら?」

「う、ん………嬉し、い」


自分で、ためたお金。袋に入れられたガルドがジャラリと音を立てる。これでプリンパンが一体何個買えるのだろうか?……いやそうではなかった。アイゼンに何を買ってあげられるかな。


「副長へのお土産ならうちのお店にもねこにんが少し雑貨を置いてるから見てみるといいわ」

「ねこに………いや、うん、……見る……」

働いた後はご飯が美味しい。船員のみんなが言っていた言葉を思い出した。たしかにとても美味しく感じる。タバサに出された賄いを食べ終わると、ウェイターの子がこっちだよー、と雑貨の置いてる一角に案内をしてくれた。ねこにんは見当たらない。少しほっとする。


「アクセサリーとか服もあるのよ」

「ノルミン、?の着ぐるみ……?」

「そういうのもある」

「アイゼン……黒のノルミン似合いそう……」

「うーんリアちゃん初めてのプレゼントでそれはちょっとハードル高すぎだよ」


何故か雑貨、の所には普通の服の他にも着ぐるみ、とやらの大きな服(?)も置いてあり、様々だ。その中の黒いノルミンって言うものがアイゼンに似合いそうだと思ったがやんわりと止められたのでこれは今度にしよう。他には何かないかな、と見渡しているとソレが目に映った。

「なら、これは……?」

「おっいいんじゃない?そういうの着けてくれる人?」

「……わかんない。お宝は好き…らしいけど」

装飾品……は武器であるブレスレットくらいしか見たことない。なら付けないかもな…と思っていると後ろからガバッと誰かから急に抱きしめるような形に覆い被さられて驚きで言葉が出なかった。

「……っ?…」

「よー!!姉ちゃん!!そんな角っこにいないで俺らの酌してくれよー?なっ?」

「ちょっと、お客様困ります。その子そういうの慣れてないので……」


小声でごめんね、常連客なのだけどお酒入るとめんどくさくて……とウェイターの子が謝る。確かに少しおさけくさい。そう言えばさっき入ったお客さんの中で居たなぁ。
どうにか逃げ出せないものか、と体を捩るが離してくれそうになかった。

なんだか、「怖い」


「っアイゼ……」


じわりと目の奥から何かがこみ上げてくるのを感じた時、バキャっ!!!!、と何かが壊れる音が聞こえた。





「そのまま伏せてろ」

「……!」


耳に馴染んだ声が聞こえてすぐ、言われた通りに頭を下げると鈍い音と同時に先程私に絡んでいた男が床に倒れているのが見えた。


「ぐあっ!!!!」

「アイゼン……っ」

「覚悟は出来てるんだろうな?」

「ひ、!!…お、俺はお客様だぞ?!!金も払ってる!!店の中ではお客様は神様だ!!」

「そうか。だが神も殴ったら血が出るのには変わらねぇな?」

「ひ、ひぃ…!!!!」


男は悲鳴をあげながら逃げるように酒場から出ていくと、無意識にほ、と息を吐く。「大丈夫か?」そう言うって屈んでいた私にアイゼンは手をさし伸ばしてくれたのでその手を借りて起き上がる。

少し服が汚れているのを見ると依頼、とやらは終わって今帰ってきてくれたんだろうか?アイゼンの後ろからベルベットが「ドア壊してるわよ」と呆れた声を出していた。

「………後で店主に謝っておく」

「いいわよ、気にしないで。うちのお客様が迷惑をかけたのだからおあいこよ」

「タバサ」

「ごめんなさいね、怖かったでしょう?」

「……ううん、アイゼン、来てくれたし」

あっそういえばプレゼント、買えてない。
ちらりと先程見ていた物を見つめる。…また後で買おう。
そう思いながらみんなに「おかえり」と、ここ数時間で練習した笑顔、で言った。







「あれ……?ロクロウなんか顔腫れてる……?」

「応……飲みすぎ……てな」



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