Helianthus Annuus | ナノ
監獄で起きた事 [ 89/156 ]

話がひと段落着いた所で二階の部屋に案内をされる。ひとまずは旅の荷物を置いてこようとカウンターから立ち上がると残りのマーボーカレーを食べていたライフィセットとエリアスが首をかしげる。


「荷物を置いてくる。お前達はまだ食べていろ」

「……私も、手伝う……」

「マーボーカレーが冷めるぞー。冷めたマーボーカレーほど邪道なものは無いからな!」

「そう……なの?」

「……いいからアンタとライフィセットは食べてなさい」



ぶっきらぼうにベルベットがそう告げると先に2階に上がっていくと、ロクロウもそれに続いた。
「何かあったら呼べ」とだけエリアスに伝えるとロクロウが階段を上がりながら呟いた。


「優しそうな顔して、したたかなばあさんだな」

そう老女への感想を漏らすロクロウに、ベルベットも頷いた。

「奇術団のことも、あたしのことも知ってた……情報網は本物のようね」
「情報だけじゃない。偽造と言っていたが、通行手形も本物だ」

見間違うはずもない。これは偽装ではなく「本物」の手形だ。 渡された通行手形を凝視しながらそう言うと、ロクロウが唸った。

「王国内にも仲間を潜り込ませてるってわけか」


ベルベットに刃を向けられても、老女はまったくひるむことはなかった。その後の交渉でも対等に渡り合う姿には一種異様な凄みがあった。街で普通に暮らしている人間達とは明らかに違う。

闇の中で生きてきた者ということだろうか、少なくとも聖寮の支配に従っていないのは間違いない。それだけでもこの王都では貴重な存在だ。


「先代のバスカヴィルは、反権力の塊のような男だと噂に聞いたことはあるが……処刑されていたとはな」

「カリスマを失っても組織は揺らいでない……底が知れない連中だな」

キィン、弾いたコインが静かに回転する。「ひとまず休憩だ」とロクロウが先に部屋に入ろうとするとベルベットが業魔の左手を強く握りしめた。

「……それくらいの連中でなきゃ、聖寮とは渡り合えない。情報を手に入れるためにも依頼を成功させないと」

「応!旨い心水を、もう一杯呑むためにもな!」

「……気が合うな。この店はいい心水を出す」

飲み直すか!と嬉嬉としてまた一階へ降りていくロクロウに「飲みすぎないでよ」と体力を温存する為か、先に休息を取ろうとしてるベルベットはため息を吐いた。


「所で……エリアスは置いていく気?」

「……水辺がなければ戦力にはならんだろう」

「ふぅん……まあ足でまといが着いてくるよりはいいわ。どっちにしろ依頼をこなすまでは、ここにいるんだから」


老女から渡された非合法の依頼は3つ
・失踪者の捜索
・物資の破壊
・襲撃者の排除

失踪者の捜索はともかく、他二つは確実に犯罪に手を染める事になる。人間の闇社会に態々付き合わせる必要はない。
ベルベットはその事を察したのかこの件に関してはそのまま何も言わずに「先に寝るわ」とだけ呟いてその部屋の扉を閉めた。


やがてマーボーカレーを食べ終わったライフィセットとエリアスも、人の生活に慣れたせいか、目を擦りながら二階に上がってくると、そのまま眠りに着いたのを見届けて一階に降りる。

ロクロウは先に心水盛りを始めていたらしく、少し顔が赤くなっていた。
そんなロクロウを通り過ぎ、カウンターで料理を作る老女に向かって琥珀心水を頼む。

「ロックで頼む……それと、」

「アイフリード船長の捜索…かしら?」

「……なるほど、お見通しってわけか」


琥珀心水を棚から取り出した老女は二つグラスを出すと「船長には借りがあるの」と話を続けた。

「この件に関しては情報が入ったら無条件で教えるわ」

「頼む。あいつが失踪した現場にはペンデュラムが落ちていた……それに、どうやら特等対魔師のメルキオルも絡んでいるようだ」

そう伝えると老女は少し険しげに表情を変えると無言で頷いた。
交渉が成立し、酒瓶を持って先に席に着いていたロクロウの隣に何も言わずにに座るとニヒルに笑った。


「大変そうだな。俺たちに付き合ってる場合じゃないんじゃないか?」

「……お前こそ、なんでベルベットに付き合っているんだ」

「ん?だから恩返しだよ。刀の在処を教えて貰った恩があってだな───」

義理堅い、とは本人も言っていたがそれだけでここまで着いてくるほどの物なのかと半ば呆れながらソレをロクロウに投げた。

「業魔が恩だと?笑わせる」

「おっと。海賊をやっている聖隷の方が冗談だろ?」


投げ渡したソレを……エリアスが使っていた赤い飾り紐を受け取ったロクロウはああこれか、と言いたげな顔で嫌味を返す。


その後はお互いに思う所を肴に心水を煽り合うとロクロウがふと思い出したかのように口を開いた。


「なあリアは元々"ああ"なのか?」

「……何が言いたい」


ロクロウから受け取った芋焼酎の心水を飲み進めているとエリアスの事を尋ねられるが訝しげに眉間に皺を寄せる事しかできない。監獄塔で何があったか、など詳しくは聞けていないからだ。

「ライフィセットは感情が封じられてたろ?リアもなのか?」

「……似たようなものだ。あいつの血肉を狙った連中にやられたと見ているが俺にも詳しいことはわからん。……だがああなる前のアイツはコロコロと感情が変わるヤツだった」





「そうなのか?いやぁ業魔に襲われようが胸を揉まれようが悲鳴のひとつもあげないもんでなぁ……封じられてたなら納得………」


「待て……胸を……なんだと?」

「あ」











後に夜叉の業魔は語った。
酒は飲んでも飲まれるな……と







「……ロクロウなんか顔腫れてる?」

「応……飲みすぎ……てな」


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