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「まあ大変!こんな所に人が……!」
幕が上がってハリボテの(アイゼンのせいで壊れかけた)船が無くなると"聖寮役"のエレノアが倒れているアイゼンに駆け寄るシーンから始まった。
「大丈夫ですか!?しっかり!!……はっ、こんな時こそ聖寮で学んだじ、じ、人口呼吸を生かす時……!」
ここは、口付けをするフリだ!
そう、フリ!!
エレノアが自身へそう言い聞かせてアイゼンの顔に段々と距離を……
縮めようとした、のだが……
「やっぱり無理です……!!」
「ぐはぁっ!!」
エレノアの渾身の一撃が無防備なアイゼンの紙防御の鳩尾を襲う―――……!
裏方から「ブフォwww」「ナイスじゃエレノアwww」などの小声が聞こえてアイゼンは噎せ返る中後でドラゴニックを決意した。
「 え、っと【アイゼンはエレノアの口づ……渾身の一撃により意識を取り戻した。アイゼンは辺りを見渡す……そして】」
「お前が……ゴホッ……ゲホッ……助けてゴホゴホッ……!」
「…は、…はい……大丈夫ですか?」
「
大丈夫に見えるのか?ゴホッ!!、そ、そうかゲホッ……!!お前は、命の……恩人だな、ッゴホゴホ……ッグッ!!」
恩人所か致命傷じゃねぇか
客席からそんな野次が聞こえた気がするが物語は止まらない。幕は再び閉じて場面が切り替わり、今度は海を背景にした舞台に変わる。
「 【一方その頃、エリアスは魔女と会っていました―――……。】」
「ファッーフアッ!ヒャッヒヤッゲホッゴホッゴホッオエエエー!」
「……?大丈夫?」
訂正しよう。笑いが止まらず噎せ返るマギルゥにそっとエリアスが背中を撫でる中々シュールな場面に切り替わっていた。
「マギルゥうううう!!」
「ツボに入ったんだな…」だがそこで終わらせるわけにも行かないのがこの魔女マギルゥ。咳が治まると張り切ってセリフを読み始める
「ゲホッ、ヒーッヒッヒ!!儂は魔女のマギルゥじゃ!」
「うん、お願いがあって来たの……」
もう大丈夫?
そっとマギルゥの背中から離れたエリアスが「脚が欲しいの、」とマギルゥに懇願する。一応物語は進められそうだ。
「いいぞいいぞ!だがお前の望みを叶える代わりにお前の声を貰うぞえ?」
「うん、私……人間になりたいの……」
「ハマってんなぁ」
「1番ノリノリじゃないですか……」ナレーターのベルベットも頼むからそのまま進めてくれ、とマギルゥを睨むがそんな視線なぞ知らぬ、なマギルゥがニヤニヤと、口を開いた。
「うむむ……だが声は可哀想か?」
「おいアイツ脚本ねじ曲げてきたぞ」
「マギルゥーーーーー!!!!」ナレーターの災禍の顕主の睨みが人を射殺せるレベルまで跳ね上がった(気がした)。
だがマギルゥはアドリブを続け通す。
「そうじゃのう……では声ではなく、"言葉"貰おう!今ならオマケで、に、や、ん、を返却してやるぞ☆」
「……うんわかった。それでいいよ」
「そこまで来たらもう全部取れよ!!」ロクロウのそんな叫びは魔女に虚しくも届かない。
しかもそこでエリアスの天然が合わさり……
("に"……"や"…"んってことは……言えるのは……)
「…にやん…?」
「おおうそうじゃそうじゃ!いい感じじゃぞぉ!やは小さい「ゃ」だとなおよし!」
「にゃん?」
「これじゃーー!!人魚なのに猫!この矛盾がいいんじゃ!」
「マギルゥううううううううう!!!!!!?」
「アイツ絶対狙っているぞ!!」「これでリス派の男もイチコロで猫派に転がり落ちるぞ☆ただし……その約束を破ると……」
「破ると……?」
「泡になって消えてしまうぞ!!」
「そこで原作設定持ってきますか!!?」
「地味に嫌な呪いだな!」「さぁさあ脚をくれてやろう……!」
「にゃにゃに(ありがとう)」
猫語しか話せなくなったエリアスの尾鰭が人の脚へ変わる。
おお……っと歓声が上がるが魔法ではなく、単に海水が乾いただけだが演出的には完璧だった。
そうして幕は再び降り、エレノアとロクロウ、アイゼンの3人が舞台に上がる。
「何をしてるんですかマギルゥ!!」
「頑固なリス派男を猫派にするための試練じゃて〜」
「……おい幕が上がるぞ」
役を演じている間は殴るわけにも行かず、後で覚えていろよ、とマギルゥに睨みを効かせるが相変わらずなんのダメージにもなってないようだ。
舞台の背景は家の中へ切り替わり、ベルベットのナレーションの声が響き渡る。
「【言葉を話せなくなっ…………猫語しか話せなくなった人魚、エリアスは探していた海賊、アイゼンと再び出会い、共に行動をすることを懇願した。】」
「にゃーにゃー」
「……っっ!!!!」
「あー、猫語しか話せない呪いだと!?それは大変だな!!アイゼン、コイツも乗せて……」
「もち、っろんだッ!!」
ロクロウのアドリブのセリフが言い終わる前に、もち、ろんの間の葛藤がとても伝わる程間を含めて返事をしたアイゼンは顔を抑えて空を見上げていた。これが俗に言う「しんどい」……か、と。
「ま、まあ、アイゼンの許可も出たし、これから宜しくな!えーと……」
「にゃににゃに」
「んー?」
「にゃににゃに(エリアス)」
「ぐっっっ…………!!」
伝わらないので紙に『エリアス』と書いてアイゼンに渡してロクロウがそれを読み上げる。「エリアスって言うのか!じゃあリアだな!」「にゃん」そしてその会話に悶えるアイゼンというループは暫く続いた。
そんな様子を猫派になるのもあと少しじゃのー、マギルゥがニタニタと劇を裏方から眺めていたとか。
そんな中、エレノアが登場する。
「アイゼン、この方は……?」
「新しい……乗組員だ……」
「にゃ」
これが本当に出会いの場面ならなぜ猫語。なぜにゃん。というツッコミまみれだったが彼女もマギルゥのアドリブの犠牲者だ。エレノアはわざとらしく「猫語しか話せないのろいですってー!」
と叫ぶ。
「それは大変ですね。是非とも呪いをときに行きましょう!」
「にゃに、?(この方は?)」
観客にも見やすいように大きめの紙にそう書くと、ようやく本調子を取り戻しつつあるアイゼンがああ……、と絞り出すような声を出した。
「エレノア、だ。俺の命の恩人だ」
「応!見事なボディブロ「そーなんですよ!!たまたま見つけたアイゼンを助けて!今は訳ありでこちらの船に乗せてもらっているのです!!」
「恩」よりも「怨」があるがな……、小声でアイゼンが言うとすみません……と、エレノアも小声で謝罪した.
「【エリアスは自身のことを明かしたかった。本当は貴方を救ったのはこの私なのだ、と。だが猫語しか話せないエリアスの言葉なんていくら紙に書いても信じてもらえないだろう。でも、アイゼンへの気持ちを諦めきれなかったエリアスはただひたすらに共にいることだけを望んだ。】……
これ以上のアドリブは食らうからね……」
場面が四季折々に切り替わる。
裏方のみんなが背景を動かして時間の経過を表しているのだ。そこで一度幕は閉じ、エレノアとロクロウは舞台から降りる。場面は黄色いドレスを着たエリアスとアイゼンの2人になる。
「ん……にゃにゃにゃ……にゃん?(私は貴方といたいのです)」
一応紙にも書く。そして見せるがアイゼンは依然と固まったままだった。
「………………」
「にゃにに?(アイゼン?)」
「そろそろやばいぞ!アイゼンのアイゼンがドラグーンハウリングしちまう!」
「どういうこと?」
「ライフィセットは耳を塞いでいてください!!」