※23静雄×17臨也
※ちょっと下品かも?
※別人注意報



いつものようにシズちゃんと追いかけっこをして、屋上に駆け込んだ時だった。シズちゃんは俺がさっきまで居た校庭を未だ探し回っていて、これならしばらく安全だろうと息を吐いて気を抜いた。
今日は天気がいいなあ、なんて思いながら、雲一つない空に目をやって、そのまま太陽を見て…一瞬くらっときたと思ったら、暗い路地裏に居て。そして、目の前には。
「…あ?」
「…シズちゃん?」
校庭で叫びながら走り回っているはずのシズちゃんが、バーテン服を着て、サングラスをかけて立っていた。




「…、…」
「…ああ、…なるほどな」
状況が飲み込めず、珍しく固まっている俺をよそに、バーテン服のシズちゃんは何かに納得したように一人で頷いていた。なに一人で納得してんの、シズちゃんの癖に。むかつく。
いつもみたいに口を開こうとした所で、ふと気づく。なんだか、このシズちゃん、おかしい。
場所が変わってていきなりシズちゃんが目の前に居たことでスルーしちゃったけど、バーテン服にサングラスってところからおかしい。背も、俺の知っているシズちゃんより高い。というより、背もそうだけど全体的に大人っぽい気がする。なんていうか…こう、色気が…。

「おい」
一人で悶々と考え込む俺に、シズちゃんは声をかけてきた。落ち着いた声だ。珍しい。シズちゃんが俺に声をかけるときには、基本的にブチ切れ状態の叫び声か、怒りを抑えて低くなった声だけだ。こんな声、俺聞いたことないんだけど。
「…なに」
「手前、いくつだ」
「なに言ってるの。シズちゃん同い年じゃん」
「いいから」
「……17、だけど?」
なんかこの流れ、本格的に非現実的な方向に行っている気がするなと思いながら答えると、シズちゃんはそうかと頷いてまた口を開く。
「俺は今23だ」
「…はい?」
にじゅうさん。二十三?この流れでいうと年齢の話だよな。てことは、シズちゃんは今23歳ということだ。俺とシズちゃんは同い年で、俺は今17歳。だからシズちゃんも17歳なはずで、今シズちゃんが23歳だと言うのなら、三段論法が成立しなくなる訳なんだけど…。
これが、そう、ファンタジー小説の中の会話だとしよう。もしそうなら、タイムスリップとかそういう結論があっさりと導き出されるけど。そして今俺の頭の中でも似たような単語が飛び交っているわけだが、ファンタジーが好きな訳じゃない俺としてはその単語を片っ端からたたき落としていきたい気持ちでいっぱいだ。いやでもデュラハンが存在しているならこういうのもアリなのか?
「…意味が、分からないんだけど」
「ああ…だろうな」
なんだよその分かってましたよみたいな顔!むかつく。なんか、このシズちゃん余裕なんだけど。というかそもそも、俺を見てキレないシズちゃんというのがおかしい。さっきだってシズちゃんは校庭で、屋上まで聞こえる大声で『いざやぁぁぁぁぁぁ!!どこ行きやがったあああああ!!』と、殺意たっぷりに叫んでいたのに。
「手前も俺も、もう来神学園は卒業してる。今はたぶん、手前が知ってるとこから、大体6年後だ」
「…未来、とか、そういうこと、かな?」
「まあ、そういうことだ」
嘘でしょと言いたい気持ちでいっぱいだったけど、でも目の前にいるシズちゃんは確かになんだかおっきくて、落ち着いていて、なんかえろい。最後の一番重要。何なのこのえろい人。あの純情DTシズちゃんが、なんでこんな風になるわけ?
「安心しろ、帰れねぇってことはねぇよ」
俺の表情から何かを読みとったのか、シズちゃんは煙草に火をつけながらそう言った。なんていうか、煙草似合うな。ライターの火をつける動作も、煙草に火をつける動きも淀みない。慣れている人間の動きだ。煙草を吸い初めて何年になるのだろう、このシズちゃんは。あれで意外と真面目だから、吸い始めたのは20歳になってからかな、
「ああ、よかった。…て、いうかさあ、シズちゃん」
「あ?」
「…何で君、そんな落ち着いてるの?目の前に俺が居るのに」
問いかけると、シズちゃんは煙草の煙をふぅー、と長く吐いて、数秒考えていた。
「…慣れ、…か?」
「慣れ?自分で言うのもなんだけど、俺、慣れとかそういう次元じゃないくらいシズちゃんに嫌われてるじゃん」
「…そうだな」
思わず口をついてでた言葉だったが、シズちゃんが普通に肯定してきたので驚いた。なんというか、…新鮮?違和感?シズちゃんと俺が普通に会話してるなんて。シズちゃんは初対面から俺が気に入らないみたいだったし、俺もすぐに利用するのは無理だと気づいて消しにかかったから、今までちゃんとした会話なんてしたこともなかった。いや、会話がなかった訳じゃないけど、こんな風に二人きりで、お互いが落ち着いた状態での会話はなかった。どっちかが嫌味を織り交ぜたり、あるいは素っ気ない返答しか返ってこなかったり。一応会話は会話だけど、まともな会話とはほど遠いと思う。ドタチンや新羅が間に居れば、俺とシズちゃんの会話じゃなくて、俺とドタチンとか新羅とシズちゃんの会話になるから、多少は成立するんだけどね。

「…まぁ、アレだな。手前が知ってる俺と今の俺は違ぇし、手前と今の手前も違ぇし…関係も、6年もすりゃ変わるってことだ」
「え、」
シズちゃんの言葉に、一瞬どこかが止まった。なにそれ。どういうこと?頭の中で、俺のことをただの一人の人間として認識しているシズちゃんというのが浮かんで、すごく嫌な気分になった。俺はシズちゃんに死ぬほど嫌われているけれど、23になった俺はシズちゃんと普通に友達やっちゃったりしているのだろうか?そんなの嫌だ、と思った。理由なんてわからない、知りたくもない。吐き気にも似た嫌悪感が体にまわる。それをどうにか表面に出さないように押さえ込みながら、俺は嫌そうな顔を作ってシズちゃんに問いかけた。
「…シズちゃん、俺のこと嫌いじゃなくなったの?」
「あぁ?んな訳ねぇだろうが、大嫌いだ」
「ああ、だよねぇ。よかった」
ほっと安堵のため息をつく。目の前のシズちゃんには、この安堵の意味がバレないように。そしていつものように口を開いた。シズちゃんと俺の関係は、変わったと言っても大して変わっていないようだったし、いつもと同じようにシズちゃんをからかえば、きっといつものペースに戻れると思ったから。このシズちゃんには、どうもペースを乱されっぱなしだ。いくら6年後とは言え、相手はシズちゃんだっていうのに。屈辱。
「てことは、23にもなってまだ俺のことを追いかけてるのかな?そんなんだから、いつまでも童貞のままだったんだよね。あ、もしかして今もそうだったりする?あり得ない話じゃないよねえ、シズちゃんだし。そもそも彼女とか居るの?居ても手出せなかったりしてね。シズちゃんヘタレだもんね!」
あはは、と笑ってやると、シズちゃんは相変わらず無言のまま俺を見ていた。なにこれほんと怖いんだけど。キレないシズちゃんなんてシズちゃんじゃない。なんというか、得体の知れないものへの恐怖感がある。不気味だ。
だがそれは表面に出さず、「ねえどうなのシズちゃん、」答えを催促してみる。するとシズちゃんは、不意に笑った。にこ、なんて効果音は間違ってもつかない。微笑みなんてものでもない。ただ凶悪に、にぃ、と笑んだ。ぞくぞくぞく、と俺の背中を這い上がっていったものは、寒気…いや悪寒?ともかくそういう悪いものだ。
「知りてぇか?」
「…いや、あんまり」
聞いちゃ駄目だと頭が警鐘を鳴らす。逃げろ逃げろ、聞くな。そう思うけれど、シズちゃんは本当にすぐ目の前にいて、背中は壁。ああ、さりげなく逃走経路確保しておくんだった。それを怠ってしまった俺に逃げ道は用意されていない。けれど目線だけは逃げ道を探してきょろきょろとそこらをさまよってしまう。
「残念ながら、童貞じゃねぇよ」
「あ、あー、そうなんだ。よかったね、シズちゃん。23にもなって童貞とかじゃなくて」
「ああ、おかげさまでな」
「え?いや、俺関係ないけど、?」
そう言って、そらしていた目をシズちゃんに向けると、シズちゃんと目があった。シズちゃんは元々楽しそうに笑っていた口元を、更に歪ませて笑った。あああ、嫌な予感。頭の中の警鐘が、更に激しく鳴り響く。
「あるんだよ、…なぁ、脱処女予定の臨也くん?」
「…え、…しょじょ?」
処女とは本来女に使う言葉ではなかっただろうか。いや本来って言うか女に使う言葉だよね。性交を未経験で処女膜が破られていない女を指す言葉で…、…俺が脱処女予定?つまり俺が性交を経験するってこと?でも俺はシズちゃんと違って童貞はとっくの昔に捨てている。いや、童貞じゃなくて処女という言葉を使ったんだからそれはつまり俺が女とかそういう系統の意味で?シズちゃんの童貞を捨てることと関係があって、…あれ?
かちん、とすべての単語が頭の中でつながる。それと同時に、さぁっと血の気が引いた。
「何ソレ馬鹿じゃないの!?俺がシズちゃんに抱かれたってこと?!しかも俺で筆おろししたってことでしょ何それ馬鹿じゃないの何してんだよシズちゃんあと俺!!」
「ぎゃあぎゃあわめくな、うるせえ」
とどのつまりはそういうことだ。俺はどうやらシズちゃんに股を開いたらしい。しかも処女…つまり初めてがシズちゃん。童貞のシズちゃん。うわあ、ほんと何それ…初めてと初めてとか最悪じゃんか。
「…無理矢理じゃないだろうな」
「………どうだろうな」
「うわあああああああ嫌な予感しかしない!!帰ったらシズちゃん殺そうすぐ殺そう!!」
ぐしゃぐしゃと頭をかき回すと、シズちゃんの手のひらが頭をなでてきた。思わずびくりと体がはねる。思いの外優しい手つきだった。暖かい。
「…なに、シズちゃん」
「まあ、諦めろ」
その口から飛び出してきた言葉は全然優しくも暖かくもなかった。くそ、俺の未来を真っ暗にさせた張本人の癖に。
「シズちゃんが諦めてくれれば俺は諦める必要ないんだけど、いろんなものを」
「それは無理だ」
「しね、へんたい。ばか、ほんとしね」
いつものように長々と嫌味を喋るだけの気力がなくて、幼稚な言葉で罵る。
シズちゃんはそんな俺をじっと見て、呟くように言った。
「…なんつーか、」
「…なに」
そこで途切れた言葉に、嫌な予感がしつつも続きが気になって、促してみる。
「かわいいな」






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長くなって1ページに入り切らなくなったので切りました。
どこで切ればいいのか悩んだ…。

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