創作新選組 夏の定番行事 壱


 夏。
 夏といえば、お盆に先祖や亡くなった者達が帰ってくる季節。


 人々は涼しさを求め、――今夜もまた、どこからか悲鳴があがる……。



















「暑いですねぇ……」

「暑いねぇ……」


 沖田と藤堂が、ぐったりしながらそう呟いた。
 その傍らで、斎藤がじっと厚さに堪えているが、やはり暑そうだ。

 が。


「そうですか? 結構涼しい方だと思いますけど」


 この部屋の主である春月は、涼しげな顔で首を傾げた。

 京都居住歴は現代にいた頃も含めて六年目。しかも地球温暖化によって江戸時代よりも暑い気温で生活していた春月には、28度設定のクーラーの中で生活している程度のものだった。


「藤田さん、一体どんな体してるんですか? この暑さがこたえないなんて……」

「どんな体も何も、時代は違いますけど、私は皆さんよりも長い間京都に住んでるんですよ? 体が慣れただけです」


 苦笑した春月に、三対の羨ましそうな目が向いた。


「皆さんもそのうちに慣れますよ、きっと」


 春月はにこにこと笑ってそう言った。


「慣れる前にこの暑さ何とかしてほしいなぁ……。一もそう思わない?」

「確かにな」


 はぁ、と沖田と藤堂はため息をついた。
 そんな彼らに苦笑して、春月は立ち上がった。


「冷たい水、もってきますね」


 京都は水の宝庫。井戸水は夏も冬も同じ温度なので、夏場にはとても冷たくておいしい。飲めば少しは涼めるだろう。


 そんな彼女の背を見送り、沖田は藤堂と斎藤に詰め寄った。

 そんな沖田に、迷惑そうな顔で藤堂が言った。


「総司、ただでさえ暑いんだから、あんまり近づかないでよ」

「ちょっと面白いこと思い付いたんですけど、いいですか?」

「どうせろくなことではないだろう」


 面白そうな顔でにこにこするこの表情の時は、なにかとんでもないことを考えついた時だ。


「ほら、多摩でも夏になるとやってたじゃないですか。『男たるもの、どんなものにも怯えない気丈な精神を〜』って」

「そういえばやったね……。でも、なんの面白みもなかったじゃんか、あれ」


 なんでわざわざそんなことするのさ、と藤堂はため息をついた。
 それに対し、斎藤は沖田の思惑に気がついて、一応確かめようと口を開く。


「…………総司」

「はい、なんですか?」

「目当ては、藤田を参加させて楽しむことか?」

「ええ。女の子って、そういうの怖がったりするじゃないですか」

「……お春ちゃんは、どうかなぁ……」


 刀を振るわ男を勢いだけで投げるわで、かなり失礼だが普通の女の子とは思えないのだが……。


「でも、分かりませんよね?」


 きらきらといたずらを思い付いた子供のような目で、沖田は笑っていた。


「……どうする、一?」

「それは局長や副長にも一応言っておくべきだと思うが」

「あ、じゃあそれは私がやっておきますね」


 この瞬間、おそらくこの案は通るだろうな、と思ってしまった藤堂と斎藤だった。





























 そしてその晩。
 沖田の提案は、近藤の大賛成のため通ったのだが。


「……肝試し?」

「ええ。藤田さんももちろん行きま……」


 行きますよね、と確かめようとした途端、春月はずざざざっと後ずさって柱に隠れた。


「……藤田さん?」


 楽しそうに笑いながら、沖田は春月の手を引っ張った。


「何してるんですか? 隊の皆さんも行きますから、早く行きましょう」

「み、皆さんで勝手にやっててください! 私は絶対行きませんから!」


 必死で柱にしがみつく春月を柱からべりべりと剥がし、沖田が半ば強制連行する。


「嫌ったら嫌です! なんで夏になるとこういうこと考える人が毎度毎度いるんですかーっ?!」


 それはもちろん怖がる人の反応が面白いからだ。
 まさか始める前からこうとは思わず、沖田は楽しそうに笑った。


 それを遠目に見ている面々は、そんな春月を不憫に思った。


「あんなに嫌がってるのにやらせるんだ……。お春ちゃん可哀相」

「まあ、あれだけ露骨に嫌がられたら参加させたい気持ちも分からないでもねぇけどな」


 藤堂の呟きに、永倉が賛成なのか反対なのかよく分からない意見を返す。


「……しかし、おどかす役と回る役はどう決めるつもりなんだ?」

「総司が言うには、くじだそうだ。ちなみに、そのくじは永倉さんが持っているはずだが」


 なお、春月の同伴は試衛館幹部の誰かとの指示が入っている(それ以外の面々に任せると何をしでかすか分からないため)ので、春月の相手はごく一部に限られる。


「あいつの同伴になるのを夢見てる平の奴らには聞かせられねぇ話だな……」


 そんな彼らの目の前には、ようやく腹をくくった春月と、その彼女と目線を合わせて少しだけ申し訳なさそうな沖田の姿がある。


「申し訳なく思うならやめておけばいいものを……」

「総司にはそんな選択肢ないよ、絶対」


 再び春月を哀れに思い、斎藤と藤堂はやはりため息をつく。


「さーて、そろそろ準備か?」


 くじのための紙の束を手に、永倉が腰に手を当てた。


「おどかし役と回る役の同伴者とをさっさと決めるぞ! 集まれよー!」


 永倉の声に、隊士たちがわらわらと集まりはじめた。


















 ――くじの結果(幹部のみ)
《おどかし役》
・沖田、藤堂
・永倉、原田


《まわる役》
・山崎、尾形
・土方、山南
・斎藤、春月

《やり方・厳守事項》
・お墓の奥に紙と筆があるので、そこに自筆で名前を書くこと

・刀を使用してはならない

・名前を書かずに逃げ戻ってきた場合、同伴者共々幹部との本気稽古

・三回以上叫んだ場合、本人に限り十日の間、朝昼晩の食事当番




<続く>

以下あとがき


続きを読む

2011.07.13(水) 10:47
お題小説

comment(0)

戻る

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -