act 3

お妙は、沖田へと冷ややかな視線を与え続けた。それを見た近藤は、まぁまぁと、とりあえずお妙を静め、確かに沖田の態度は如何なものかとため息をつき切り出した。
「確かに俺もどうかと思うぞ。一言チャイナさんを安心させる様な台詞を言ってあげたら良かったと思うんだが…。あれじゃチャイナさんが可哀想だろう?ただでさえ彼女はこの場に居ずらい立場にいるのに…。お前が守ってやらんで誰が助けるんだ。そうは思わないか?総悟。」
近藤の言葉に何か考えらされた様だが、やはり先程の言葉を覆す気はなさそうだった。
「あいつの良い所も悪りィ所も、可愛げ無い所もある所も、俺だけが知ってりゃいい。晒す様な言葉じゃありやせん。」

近藤は、更に大きなため息をついた。
「オメーはそうでも、あいつは言って欲しかったんじゃねーのか?あいつの顔、麗の話が出てきてからずっと引きつったまんまだぜ。」
土方に、ナイスな言葉だと皆は頷いたが、沖田にしてみれば、他の誰でもなく、高杉と土方だけには、神楽の事を語って欲しくねーと舌を鳴らした。

「総ちゃん。大事にしなきゃ駄目よ。神楽ちゃんは女の子なんだから。」
ミツバの言葉に、そうっスよ!とまた子が激しく同意した。何故か自分に批判が集中する事が沖田からすれば面白くないらしく、ふてぶてしい表情を見せた。だが、お妙が神楽どころか、麗まで何時の間にか消えている事にやっと気がつくと、大慌てでトイレへとまた子と二人駆けた。が、その時には涼しい顔で出てくる麗と、明らかに動揺がみられる神楽を見て、二人は早々に店から出る支度をしたのだった。

確かに、お妙達にとって、麗も大切な友達だった訳だが、神楽の存在が大きくなって居たのも事実だった。また子は神楽に気をつかい、さっさと沖田と神楽を二人きりにさせようとした。が、麗は、そんな事を全く気にもとめず、またもや爆弾発言を言った。

「ね。夏休みの思い出で、海に行かない?友達の知り合いが経営しててね、無料(タダ)で泊まらせて貰えるんだって!皆で行こうよ!」

悲しいが、お妙とまた子は一番になって瞳を輝かせた。夏休みの思い出、旅行、泊まり、それになんと言ってもタダ!

しかし、次の瞬間、いかんいかんと二人は首を振った。そんな二人を麗は通り過ぎ、ピタリと神楽の前で足を止めた。
「ね、神楽ちゃん。どうかな?…嫌?」
ゴクンと神楽の喉が鳴った。皆の視線が自分の方へと集まったのが分かった。別にまた子達は、神楽が YESと言うのを待っているのではなかった。ただ純粋に心配していただけだった。神楽自身が思ってた様に、何故か神楽がうららに押されてる節があり過ぎる。元々こんな風に弱い側ではないはずなのだ。言いたい事は比較的はっきりと…。そんな神楽だったから、沖田が惹かれたのに…。それだけ沖田に彼女と言える存在が居た事にショックを受け過ぎているんだろうと…。言いたそうに、でもうまく言えなくて言葉を詰まらせている神楽の代わりに、お妙が口を開こうとしたその時だった。

「駄目だ。」
さらりと沖田が言ってのけた。
「何で?いいじゃない。久しぶりなんだし。」
「駄目だっつってんだろィ。」
沖田もはっきりと言っているが、麗もそれに食いついて来る。じゃぁ…と、麗は再び神楽へと視線を移した。

「私は総悟になんか聞いてないもん。ね、神楽ちゃん。いいでしょ?」
神楽に笑みを見せた。結局、神楽は言葉を発する事はなかったが、小さく頷く事で了承を決めてしまった。
「決まり!じゃ、日にち決まったら電話するから、総悟教えてよ。番号変ってるんでしょ?」

この言葉に、さすがの神楽も口をあんぐりとさせた。仮じゃなくても、自分は沖田の彼女だ。その自分の前で…。だからこそ、先程のうららの吐いた台詞が本気だと、気付かずには居られなかった。言葉こそないが、明らかに神楽の心情は表面に出ていた。お妙は、そんな神楽を見ると、すぐに口を挟んだ。

「私に教えて。別に沖田さんじゃなくてもいいじゃない。」
お妙のナイス機転に皆がホッとしたのも束の間、すぐに切り替えした麗の言葉にモヤモヤとしたものが皆の気持ちの中をぐるぐると巡った。
「でもほら、前もさ、大体何だかんだ言って、結局総悟が場を仕切ってたじゃない?」
すると今度はミツバが口を挟んだ。
「でも、ほら…。今は神楽ちゃんもいる訳だし…。」
 あーいえば、こう切り替えして来る麗に、ミツバもお妙も頭を悩ました。更に麗は又もや神楽へと話を持っていった。

「別にいいよね?神楽ちゃん。」
「ぇ…あ…う――。」
「別に俺じゃなくてもイイだろィ。姉ちゃんの携帯教えといて…。」
流されるままに、神楽が返事を出してしまいそうな瞬間だった。沖田が華麗に口を挟んだのは…。そして言いながら沖田はミツバに話しを振った。
「あ…うん。分かった。あのね、080ー…。」
あまりにも流れる様な沖田のやり取りに、誰も口を出す事が出来なかった。勿論、麗…もだ。

その後でも、皆の前で沖田は再三神楽に、本当に行くのか、と聞いたが、神楽の答えは変わらなかった…。
        
        

「オメー、本当に良いのかよ。」

あれから、皆と別れ、神楽と沖田はいつもの様に二人きりになった。いつも沖田は、どんなに神楽と喧嘩しても、帰る時だけは必ず送った。だからお妙達の中でもそれは当たり前の事だったのだが、正直そんな二人の中に、更にうららが入っていかないかと心配していた。しかし意外にも、旅行の約束をつけれた事に満足したのか、あっけなく帰っていってしまった。そんな帰り道の中、沖田は口を開いた。
突然の沖田の言葉に質問に神楽の足は止まった。

再三、再三沖田は聞いたのだ。本当にいいのかと…。けれど考えても見て欲しい。あんな状況の中、今更行けない、行きたくないなんて言える訳がないじゃないと。ただ、結局は神楽が全てYESと言ってしまった事が原因なので、自業自得と言ってしまえば、それまでなのだが…。
しかし今は、神楽が唯一我侭が言える相手、沖田だけの前だった。だから神楽は、見る見るうちに感情が露になっていった。

「だって…。もう行くって行っちゃったアル。」
やっぱりな…。沖田は止まった神楽の隣で呆れた。
「だったら何でそう言わなかったんだ。ちゃんと言えばよかったじゃねーか。」
「あ、あんな皆の前で、そんな事言えないアル!」

「別に皆何も言やしねーよ。オメーが行きたいって言うなら何処にだって連れてってやったんでェ。それをあんな口車に乗せられやがって。大体旅行なんて、別に麗なんか居なくても他の皆と計画して行けば良かったじゃねーか。」
神楽は、たった今、ハッと気付いた様に口を大きくあけたまま固まってしまった。

「何で…!」

口走った言葉に、自分でもおかしいと気づいたのか、神楽はそのまま口を噤んでしまった。けれど気持ちの中では、今もまだ、モヤモヤとしたモノが次から次へと溢れてきている。  
沖田の所為じゃない、なんて分かってる。けれど言わずには居られなかった…。

そんな神楽の様子を見た沖田は、長い息をついた。
「止めるか?今ならまだ間に合いやすぜ?」
神楽がパッと顔を上げた。自分でも、どんな表情をしたのか頭にありありと浮かんだ。けれどすぐに頭を振った。

「駄目ヨ。もう言っちゃたもの。」
「別に誰も何も言わねーさ。」
「言う。絶対言うアル。」
「お前なァ…。考え過ぎだって――。」
「考え過ぎ何かじゃないアル!だってっ――。だって…。」

【総悟を返して貰っていい…?】

神楽は下唇をきゅっと噛んだまま俯いた。
沖田が心変わりしない保障なんて何処にある?考えちゃいけないって分かっては居るけれど、頭の中に浮かんでくる。麗の言った台詞が頭から離れない。

―――敵わないアル―――

「ったく…。どうしたモンかねェ?このじゃじゃ馬姫さんは…。」
言いながら沖田は神楽の手を引いた。そのまま神楽を自分の中にと閉じ込めた。
「一体ェ何をそんなに不安になってやがる。オメーが不安がる様な態度を俺ァ一度だってとっちゃいねーだろう。」

沖田の胸に、頭をコツンと…。理屈じゃないアル…。思いながら神楽は沖田の背に手をまわした。

「そんな事、分かってるアル…。」
「いいか?俺とあいつはもうとっくの昔に終わってやがんだ。
オメーが心配するこっちゃねー。」
「――だから、そんな事分かってるアル…。」
「分かっちゃいねーだろィ。」
「だって…。」

あいつ、お前の事、まだ好きなんだヨ?口から出そうになった言葉を、必死に神楽は飲み込んだ。
沖田の匂いがする服に、一番近くに寄れるのは自分であってほしい。この場所を、誰にも渡したくない…。考えると自然に制服を持った手に力が入った。

「…大丈夫。私行くアル。」
今日何度目かのため息をついた沖田だったが、こうなったら聞かない神楽の性格も十分知っている。
「そうかよ。じゃ、行くか。」
沖田の言葉に軽く頷くと、あの娘には負けたくないと神楽の中で強く気持ちが湧き上がった…。



……To Be Continued…

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