act 2

学校帰りに、皆でクレープを食べに行こうと言う、お妙の言葉で、ぞろぞろといつもの面子で道を歩いていた。
あれから、神楽はうららと言う女のことなど、すっかり忘れ、日常を楽しんでいた。しかし、それは一人の言葉から崩れ、神楽の足をピタリと止めた。
「そういえば、この間、うららに会ったぞ。」
口に出したのは土方だった。そしてこの言葉は、神楽の足を止めただけではなく、沖田の表情をギョッとさせた。そんな事に気付かない様に、その会話は続けられた。

「あいつ、もうすぐ夏休みだろ?その間、ここら辺に住んで居る、親戚の家に居るんだってよ。まぁ、元々隣町だし、どっちにしても近いんだが…。だから機会があったら皆で会おうって言ってやがったぜ。」
「あっ…私も会いましたよ。懐かしくてつい話込んじゃって。」
「うちも会ったっスよ。相変わらず可愛かったっス。」
「久しぶりに遊ぶのも良いわよね…。」

土方、お妙、ミツバ、また子は、話に夢中になっている。  
だから神楽の足が止まって動かないで、その場に立ち止まっている事に高杉が気付くまで、他の皆は、沖田を含め、誰一人、神楽がついて来ていない事に気付かなかった。高杉は静止したまま動かないで居る神楽の様子を沖田に気付かせると、目を見開いた沖田は、すぐに神楽が居る場所まで引き返した。そしてすぐにそれに気付いたお妙やまた子達も慌てて踵を返した…。
 
「ご、ごめんね、神楽ちゃん。こんな話、つまらなかったわよね?」
お妙の言葉に神楽は苦笑いをしながら口を開いた。
「あ…。あの子――か、可愛かったネ。」
「えっ?神楽ちゃん会ったの?」
神楽の言葉に驚いたのは、お妙だけではなかった。その場に居る、沖田を除いた全員がわっと声をあげた。ますます苦笑いを強くした神楽は、微妙な面持ちで口を開いた。
「――この前、ちょっと…。」
 この言葉を聞いた高杉や土方は、沖田の心情にひどく同情した。いわゆる【今カノ】と【元カノ】の鉢合わせ。想像しただけでも頭が痛くなった。よくよく沖田を見てみると、先程から神楽動揺、顔が苦みばしっている。知らず知らずの内に、自分達は地雷を踏んでいた事に、今更気づいた。場の雰囲気は、一気に冷えた。その空気に感づいた神楽は、わざわざ笑顔を作りだした。
「あっ…。でも、もう終わってることアル。うん、皆で遊ぶのもいいアル。ほら、沖田だって友達…なんだし――。」
神楽の声は、最後の方に近づく程、どんどんと小さくなっていった。
「で、でもねぇ。さすがに…。」
「き、気にしなくていいアル!」
お妙の言葉に、意地を張った様な神楽の声が響いた。
神楽の声で、更にその場がシンとなった。そんな場に、今一番聞いちゃいけない声がかかった。

「よく合うね〜!この面子って久しぶりじゃない?」
今度は神楽だけではない。その場全員の表情が凍りついた。   
特に近藤の表情は凄かった。額から汗をダラダラと流している。麗は、体の線がぴったりと出るTシャツ、それに短パンとで着こなしている。至ってシンプルなこの服を神楽が着こなしても、多分可愛そうな結果に終わるほどに、似合っていた。うららは、神楽を気にする事もなく、どっかに行かないと皆を誘った。しかしさすがに行けないような雰囲気が場の周りを立ちこめた。
神楽は、まるで自分が余計な物みたく思えて、何だかひどく惨めな気分になってしまった。昔の友達に久しぶりに会ったのだ。話もゆっくりしたいだろうし、遊びたいと思うのも分かる。なのに、ただ自分に遠慮して、OKと言う言葉が皆から出てこないのが、神楽を何とも言えない気持ちにさせた…。

「い、いくアル!」

声を出したのは勿論神楽だ。その言葉に皆が目を見開いた。さすがの沖田も神楽の腕を引いた。しかし頑固な神楽は譲らなかった。うららは、沖田にも行こうと急かした。だが沖田はきっぱりと断った。のにも関わらず又神楽が口を挟んだ。本当は行きたくなんかない。けれど、どうしても皆が自分の為に遠慮しているのが我慢出来なかったのだ。結局沖田も粘ったが、神楽に押され、いつも行くファミレスへと足を進めた…。

――何とも言えない雰囲気。皆が神楽に遠慮をしているのが分かる。神楽でさえ、結局皆にこんな思いをさせてまで、なぜこんな事になっているのかと、馬鹿みたく思えて来て居た。そんな場を軽く裂いたのは、恐れ知らずの張本人、うららだった。

「神楽ちゃんって…名前だっけ?」
急にうららに声をかけられ、神楽は心臓が飛び上がるほど驚いてしまった。そのバクバクと鳴っている心臓をそのままに喉を鳴らした。
「そ、そうアル…。」
「総悟と付き合ってどれくらい?」
直球ド真ん中。うららの言葉はその場を尽く撃ち抜いた。気まずい空気が辺りを包んでいく中、もうお妙は空笑いをしながら、その場を見守るしか出来なかった。
「あ…半年…アル。」
「そうなんだぁ。どっちから?」
「私…アル。」
また子は、勝ち誇った様な麗を前に、好きになったのは沖田の方だと口を挟みそうになった。
「あ〜、私もだよ。やっぱモテるんだね総悟は。」
「そう…アルナ。」
自然に話そうとするが、どうしても神楽は顔が引きつってしまう。そんな中、沖田はと言えば、涼しい顔をしながら頼んでおいたコーヒーに口をつけて居る。また子は口を台形にしながら沖田を睨んだ。そんな中、うららの会話の矛先は沖田へと変更された。

「総悟は、神楽ちゃんの何処が好き?」
質問が質問なだけに、一斉に皆の視線は沖田の方へと…。特にまた子は、ここら辺で一発がツンと言ってやれとばかりに沖田に熱い視線をやった。勿論神楽の視線も、沖田へと釘付けになっている。当の本人である沖田は、相も変わらずひ 
ょうひょうとした表情で口を開いた。
「今言われてもなァ――。浮かばねェ。」

一瞬にして神楽の顔が固まった。
うららは、何それ、とわらいだしたくすくすと笑った。
神楽の顔は赤く顔を染めた。歯の浮く様な台詞を期待していた訳じゃない。でも、もう少し言い方があるだろうと。自分がうららに嫉妬していたのは、もう十分沖田は気付いている。ならばそんな自分を安心させる為に、そうじゃなくても、ちょっとでも不安を軽くさせる様な台詞を吐く事が、出来なかったのか…。
居た堪れなくなった神楽は、気がつくと腰を上げて居た。
「あっ――。ちょっとトイレに…。」
苦みばしった表情で、かすかに僅かに笑顔を作りその場を後にすると、沖田の方へ一気に視線が集まった…。

鏡ごしに自分を見た神楽は、思わずため息が漏れた。比較なんてしなくていい。今の沖田の彼女は自分なんだから…頭で分かっていても気持ちがどうしても納得してくれなかった。  
本当は、一緒に居る事自体が嫌だった。何よりも、自分があれだけ頑張っても言えなかった沖田の名前を、難なく呼んでいるのが一番嫌だった…。でも言えない。沖田の性格からしても、気にするなと言われるのがオチだろうと分かっているからこそ…。

[神楽ちゃん…。」
入ってきたと同時に呼ばれた自分の名前だけれど、あまりにも驚いた所為で返事を返すことが出来なかった。それを気にする風でもなく、麗は神楽の隣、鏡の前にと立ち、ポケットから出したグロスを唇にのせた。艶々と輝く唇は、神楽でさえも魅了した。

「総悟、相変わらず格好いいよね。」
鏡越しに神楽の瞳を見た。何と言っていいのか分からない神楽はスっと視線をそらした。だが、これ見よがしに視線をそらすのは、幾らなんでもひどいだろうと、苦笑いでコクンと頷いた。
「自慢でしょ?」
「自慢…。」
神楽は、言葉に詰まった。確かにそうかもしれない…。沖田が調子にのりそうだと隠しておいた気持ちを、簡単に晒された気がした。どうもこの人と話していると調子が狂わされる。入ったはいいが、早くもこの場から逃げ出したくなっている神楽に、更にうららは言葉を続けた。

「うらやましいな…なんてね。」
何故か嫌な予感がした。ただ漠然とそう思ったんじゃない。麗の顔を見てしまったからだった…。そしてその勘は、悲しくも当たってしまった。

「――神楽ちゃん。総悟…返して貰っていい?」
 
口を開いた神楽だったが、神楽に向けて妖艶な笑みを向けるうららに、
足元がぐらぐらと崩れる様な感覚に襲われ、その言葉を飲み込むしかなく、その場に立ち尽くした―――。


……To Be Continued…

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