act 1

「神楽、ほっぺに付いてらァ。」
「マジでか。どこアル。」
「ほら、ココ。」
「むぅ…。何処アルカ?」

放課後のファーストフード店、近頃の定番。
神楽のほっぺにくっ付いたハンバーガーのソースを沖田は親指の腹を使い取り上げた。

付き合って、まだ間もない自分達の、こんな甘い時間…。   
沖田は、仕方ねェ奴と言いながら、そのソースを自分の口に運び、舌で舐めた。
たったそれだけの仕草だったが、沖田がやると、妙に色気があり、神楽は照れ隠しに、コーラをストローでゴクゴクと飲むと、まもなくゴフっとむせた。
「何やってんでェ。バカだろィ?」 
笑いながら優しく背中をさする沖田に、自分達のこの甘い関係は、一体何時からだろう、と神楽はふと考えた。

初めからこんなに優しかった訳ではない。
むしろ犬猿の仲、そう言った方が、よほどしっくりきた。

教室内での、二人による破壊、騒音。
二人が付き合うことになったと知るや、教室は嵐の如く歓声をあげた。
切っ掛けは沖田。ある日を境に、突然手のひらを返したように優しくなった。気持ちが悪くて、相当毒舌を吐きまくった。
それでも沖田は態度を変えることを無かった。
そのうち神楽まで意識しはじめると、これは貰ったとばかりに沖田は攻め込んできた。
そして、とうとう神楽は沖田の手に落ちてしまった。好きになったのは沖田が先だったが、告白をしたのは実は神楽だった。サドで、いじわるな、ドS星人は、とうとう神楽を捕まえた。付き合い当初、神楽自身、とてもじゃないが信じられなかった。だってあの沖田アル…。何度も呟いた。
しかし、二人きりの時、時折見せる優しさと、自分を見つめる眼差しが妙に神楽は心地よかった。

「この後、姉御達と合流するアルカ?」
「面倒くせェ。この際、無視すればいいだろィ。」
「お前、この前もトッシーを無視したダロ?約束は守れヨ。」
呆れ顔の神楽は、もう一度ストローに口をつけた。目の前の沖田はと言えば、限りなく面倒くさそうな面をしている。別に二人きりが嫌なのではない。むしろ楽しかったりもする。けれど、お妙が、ミツバが、また子がと合流すると、いわゆるグループデートとなって、こちらも楽しかったりする訳で…。そんな神楽に、近頃、小さな、けれど神楽にとっては、とってもとっても大切な覚悟なるものがあった…。

「そぅ…。」
「あぁ?何か言いましたかィ。」
「う、ううん。何もないアル。」
神楽は空笑いをしつつ、赤くなった顔を仰いだ。

ここの所、神楽はある言葉を一生懸命、言おうとしていた。
それは、沖田の名前だった。付き合ってもう半年になる自分達。いつまでも沖田と言わないで、他の女子との距離を開けたかった。
沖田はと言えば、早いうちから、神楽と呼ぶ様になったのだが、恥ずかしくて神楽は呼ぶことが出来なかった
何とかして呼びたい。そう思い言葉に何度か出したが、やっぱり言えなかった。そんな神楽の背に、聞いた事のない声がかかった。しかもその言葉は、今の神楽にショックを受けるには十分の威力だった…。

「総悟…。総悟だよね?」
振り返った神楽は、唖然とした。
「麗…。」
すもも色した髪はツインテールで結ばれており、肩よりちょっと長く、表情が動くたび、可愛く揺れていた。細いながらもおうとつがある体は、神楽が泣きたくなる程差があり、その強調される胸は、よりそのスタイルを美しく魅せている。  
何よりもその瞳に目を奪われた。気の強そうな意思の目…。

しかし沖田は、声をかけて来たその女ではなく、どう見ても神楽を気にして居る。ちらちらと神楽を横目で見ては、バツが悪そうに頭を掻いている。
 
何となく、神楽は女の勘が働いた。

「沖田…。」
思わず名前を呼んでいた。明らかにゲッと言う表情をした
沖田だったが、なる様になれ、との感じで口を開いた。
「あ〜と、だな。こいつ彼女で、神楽って言うんでさァ。」 
神楽と麗は互いに礼をした。が、すぐに沈黙が訪れた…。気まずい雰囲気が辺りを包んだ。神楽の、沖田への視線が恐い…。ポーカーフェイスが得意どころか、そのものな沖田だったが、唯一この神楽には弱かった。ちくちくと刺してくる視線から、無意識に目をそらした。

早くこの中から逃げ出したい。珍しく沖田がそんな事を思ってしまうのは、後から来る、神楽の機嫌の悪さも想定しての事だった。

「んじゃ。俺ら、帰りやすぜ。」
 ひょい、と神楽のカバンを持った。沖田の態度に唖然としている神楽の手を引き…。

「――お前ら、付き合ってたダロ?」
 何の突拍子もなく、歩きながら神楽は言った。言われると分かってはいたが、本当に唐突だったので沖田は少なからず驚いた。それでも気まずそうに、項(うなじ)を触りながら沖田は答えた。

「あ〜…。一年程な。でも別れてからは一度も会ってねーよ。」

一年。そんなに長く…?正直、神楽はショックだった。自分達はまだ半年。やっと半年になった所だ。さっきの、うららと沖田が呼んでいた女の子は、更に倍の時間を沖田と共有してきたのだ。神楽は愕然と立ち尽くした。
「何?おめーやきもち?嫉妬してんですかィ?」
いつもの沖田特有の表情で、神楽を覗き見た。その表情はひどくイタズラで楽しそう、しかし嬉しそうにも見えた。
「そ、そんなもんするわけ無いダロ!自意識過剰なんダヨ!」
神楽は突っぱねたが、沖田には本心がどうやら伝わってしまったらしい。楽しそうにサド顔を見せるとぎゅっと神楽を抱きしめた。
「可愛い奴…。」

言いたい事はいっぱいあった。何がきっかけでつき合ってたのか、とか、いつ付き合ってたのか、とか、どんな風に二人過ごしたのか、とか…。けれど沖田が抱きしめてくれてるこの瞬間が、たまらなく愛しくもあるのも本当で、自分に溜まったモヤモヤが、束の間だけれど、消えて行くのを神楽は感じた。離された体の温もりの代わりに、掌の温もりを得た神楽は、再び笑顔を取り戻した。

しかし、その一週間後を機会に、何度となく、麗と会う羽目になるとは知らなかった…。


……To Be Continued…

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