act 37

「――――じゃあ、星海坊主さんにも一応神楽ちゃん電話いれたんですか?」
新八はソファの上でジャンプを読んでいる銀八の方に視線をやる。その視線の下では休むことなく洗濯物がきちきちと、たたまれている。
手伝わないと言う事が分かっているため、その件について銀八に声をかける事はない。
銀時はゆっくりとジャンプから視線をあげる。
「あぁ、こっちで沖田君と一緒になったてな。」
「星海坊主さんは、分かってたんでしょうね、多分。」
「何だかんだ言っても、結局は娘が大事だからな。神楽がずっと沖田君を恋しがって泣いてた事も知ってたようだし。
しばらくしたら、とりあえず一発沖田君を殴りに来るんじゃね?」
「マジですか。死んでしまいますよ、沖田さん。」
「死ぬなァ多分…。けど、ま、あいつも一筋縄じゃいかない男だからな。案外気に入るんじゃねェの?」
新八は、少し考えるそぶりを見せ、確かにと頷く。

「神楽ちゃん、新しいマンションはどうでしょうね。」
「喜んでたよ、蒼も隼人もな。今まで辛い思いしてたんだ。幸せになっても誰も文句言わねぇさ。」
新八はたたみ終えた洗濯物を片付けていく。其処には神楽のモノは無い。
「寂しくないですか?銀さん。」
片付けているその足を止め、新八は銀時の背中を見た。既に銀時はジャンプを読んでいて、その言葉を聞こえたか聞こえない振りをしているのかは分からない。
しかしその返答は無かった。
新八は軽くため息を付く。素直じゃないんだから…。そう笑った。
「出て行っても、毎日同じように来るんだから、拗ねないで下さいよ。全く、本当に子供なんだから。
神楽ちゃんも幸せだよね、泣きながら送ってくれる父親が二人も居るんだから…。」
「別に、俺ァ泣いたりしてねェ。」
銀時はジャンプを読む視線をそのままに言う。
「ハイハイ。分かってますよ。全く…。」
父親だと言う所はあえて否定しない所に、新八は深い愛情を感じた。そしてそれは自分にも重なる家族愛。銀時の背中をみると少し寂しい気持ちになったが、やっぱり笑っていようと思った。

神楽が帰ってくる事で、この、自分達の周りに新しい風が入って来たと新八は感じている。
ずっと思い焦がれ、今にも切れそうで、でも切れなかった儚い赤い糸で結ばれていた二人はその糸を、すこしずつ辿って、もう一度、しっかりとその赤い糸で結ばれた。何も変化がなさそうに見えた、鬼の副長の恋人は、近頃表情がより豊かになり、寂しそうな顔を見せる事がなくなった。そんな彼女を見る男の目も、本人は気付いているか、いないかは分からないが、更に慈愛が満ちた瞳にへと変化していた。ストーカーストーカーと罵られていた男は、近頃自分の姉の買い物の荷物持ちに借り出されているらしい。それでも目には溢れんばかりの涙をため、尻尾を振っている。姉は姉で、50回に一度ほど、そのストーカーに笑みを見せるようになった。

見るからにしょげているこの背中を向ける男が寂しくないように、ちょっかいを出してくる女の影を近頃よく見る。
それはとても納豆臭い。しかし万事屋から出て行くのを丁度見かけると、いつもその顔は笑顔に満ち溢れ、幸せそうだった。

長い間、何も変わらなかったその日常が、ほんの一ヶ月ほどで、少しずつ変わって言った。
このまま行くと、神楽の結婚は勿論、鬼の副長の披露宴も近いと思う。この件については、あまり考えたくないが姉の中にも、もしかすれば変化は訪れるかも知れない。もしかすれば、もしかすると…。いや、やはり考えたくない…。それでもたった一人の姉の幸せを自分は願いたいと思う、それがたとえ人間ではなくても…。

目の前の男にも、気付いてはないが、その糸を繋いだ相手が現れたのかもしれないと思う。まぁ、正直あの人は赤い糸を待つことなく、自分から男のトコに出向き、体ごと糸でグルグル巻きにしそうだとも思えた。いや、赤い糸を持って行って、私を縛ってと言うか?
とにかく、少しずつ、変化していく様子。しかもそれはとてもいい方向へと…。

新八は思う、それでもやっぱり変わらない人たち、そして、その、なんやかんやで変わらない人たちが大好きだと。やっと家族が帰って来たと。
パズルの最後のピースを持って、やっと帰って来た。それも宝物を二つも抱えて。パズルはやっと完成した。

もう既に新しい物語を持って、それぞれが、それぞれの新しい家族や関係のパズルを作り始めている。
そのどのパズルにも自分はちゃんといて、そのどのパズルにも、きっと、なんやかんやで皆居るんだと…。

そんな人たちが自分は大好きだと…。

新八は窓から差し込む気持ちのいい太陽の光を見ながらつぶやいた。
「本当、お帰り、神楽ちゃん――――。」



……To Be Continued…

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