act 28

泣いている?
その事を確認すると、ぐにゃりと視界が歪んでいくのが分かった。一瞬ぶつかった沖田の瞳、驚いていたようだが、そのままその表情も歪んだため、立ち上がったくらいしか分からなかった

恥ずかしく、下を俯き頬を拭う。そして顔をあげると其処には沖田の姿があった
まだ拭える神楽の頬を沖田は優しく拭いながら口を開く
「どうした?何か恐い夢でも見たか?」
神楽はゆっくり首を振る。ココロの奥底にある涙が、まだ出せと押し寄せてくる
沖田の胸に頭をコツンと、そのまま静かに声を出さずに自分の中で溜まったモノがまだあったと泣く。

沖田はその頭を撫でる。
ミツバと視線を交すが、ミツバは沖田に微笑むだけだった。

期待も不安も全部全部混ぜて、溶けて、一緒に流れていく
喉を鳴らし、最後の涙を奥で飲み込みとめる。鼻がスンと鳴る
隊服をくしゃりと持つ。離さない、ぜったい離さないと…。
目を拭うと、やっとの事で沖田の顔が綺麗に見えた。沖田は神楽の頬に残った筋の後を親指の腹で触れる


神楽はその手に自分の手を重ねながら口を開く
「蒼と隼人は…?」
「ん?あぁ、あそこに居やすぜ。」

そう言った視線の先には、今度は銀時の膝の上に乗っている二人の姿が見えた
すると、こちらの様子を伺った新八の視線と合う、気付いた新八が銀時の肩を叩き、コチラの方に指を指している。直後視線が合わさった銀時が声を上げた

「起きたかァ?」
そう笑う銀時に、改めて神楽は微笑み笑う

神楽はゆっくりとたち上がる、それに続きミツバも立ち上がり、すでに泥酔している土方の元に、
神楽は銀時の元にと足を向けた

....

「マミー!」
「母ちゃん!」

先ほど沖田が座っていた席に付くと、すぐさま二人が抱きついて来た
「よく眠れたかよ?眠り姫。」
銀時は神楽を見上げた。神楽はコクンと頷き少し席を空けてもらい、沖田と二人席に座る。
ちらりとミツバの方を見てみれば、ミツバも土方の隣で座り、談笑していたのを見つける

「ビックリしたアル。またタダ酒飲みに来たアルカ?」
そう笑うと、銀時はイタズラに笑った。目が赤くなっている事に、この男は気付いているはずだが、何も言わない。
神楽はこう言うふとした優しさが昔から大好きだった
隼人は沖田の膝に、蒼は神楽の膝にすわり、目の前のエビフライに狙いを定めていた
その数残り一本、先に手を出したのは隼人、しかしその後から箸をだした蒼にエビフライを奪われてしまう。

「蒼!それ僕の!」
「いや、俺の箸がコイツを取ったんだから俺のモンでィ。」
そう言うと、口を大きくあける。見る見る間に瞳を潤ませるのは隼人だ。
そこで横から沖田が口を開く
「じゃあ、隼人は俺のエビフライを食べればいいだろィ?」
そこで蒼の手はピタリと止まり、嬉しそうな隼人を見る
隼人は沖田の取り皿の上のエビフライに箸をさす。
「俺もそっちがいい…」
「何言ってんだよ!蒼はそっちの食べればいいじゃん!」
「嫌!隼人にこっちをやらァ。」
沖田と神楽の膝でギャーギャーと騒ぎ立てる。またかと沖田、銀時は項垂れた

実は先ほどからこんな調子だったのだ。まずどちらが沖田の膝に座るかで騒ぎ出した
僕が、俺がと騒ぐ二人を、結局両膝に乗せる。が、これでは自分が何一つ食べることが出来ない。それでも沖田は嬉しかった。
しかし今度は沖田の前で、ジュースを沖田に注いでもらうのはドッチが先か?などと、いちいち気に留めないような小さな事で騒ぎ、
喧嘩する二人に沖田はため息を付き笑ったのだ

この二人をよく神楽は育てたと、隣に居た銀時と新八と三人で思わず考えた
20歳前の女の子が、普通に子供を育てるのでも大変なのに、どれくらいの涙を呑んでこの子達を育ててきたのかと…。
性格が正反対だが、一心に神楽が愛情を注いだことは分かる

「あぁ、もう分かったアル!じゃあ、蒼のこのエビフライはマミーのアル!そのマミーのエビフライを蒼にあげるアルヨ。隼人はパピーのね、ほら、マミーとパピーの一個ずつネ、それとも蒼はマミーのは嫌アルカ?」
そう悲しそうな貌を神楽はおおげさにする。すると、すぐさま蒼ははっとし、首をブンブンとふり、今自分が持っているエビフライに食いついた。それを見た隼人も自分のエビフライに美味しそうに食いつく。
そんな様子を神楽は、慈愛の笑みで見ていた

こうも簡単に子供の機嫌をとってしまう母親の機転には、考えらされた。
上機嫌に神楽は自分の料理を皿に盛る。それを蒼があーんと口の持っていってあげる。
すると隼人も負け時と神楽にあーんと持って行く。それを両方ぱくりと食べる。
口いっぱいに、ほう張りながらそれでも神楽は本当に嬉しそうに食べる。
そんな様子を見ていた沖田は思わず声が出た

「俺にはくれねェのか?」
そう言うと、目をキラキラさせた蒼と隼人が神楽にした様に沖田にも食べさせた。
普段の沖田からは、考えられないような顔で二人に微笑む。
すると次は、銀時が、その次は新八が…。それを見ていた近藤と土方が、素敵ねと言いながらミツバが、俺にもと山崎が、その輪はすこしずつ、すこしずつ広がって、宴会場の一角の出来事は、部屋全体を巻き込んで、あーん大会となる。

蒼と隼人は本当に嬉しそうに皆に交互に食べ物を口に運ぶ、それをおいしそうに皆は食べる
神楽は沖田にあーんとする。沖田は旨そうに食べる。それを見たミツバも土方にとする。若干恥ずかしそうだったが、酔った勢いもあり、土方は口を開ける

そんな様子を見て神楽は銀時と土方をからかう――――。

やっと手に入れた。
長いこと、長いこと、望んで、望んで、焦がれていた人、光景
夢みたいで、夢じゃなくて、嘘みたいで、でも現実で、

大切で、かけがえなくて、失くしたくない、大きな、大きな
馬鹿で、でも優しくて、楽しくて、最高な、
私の家族――――!


……To Be Continued…

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