それまでずっと口を閉ざしていた近藤が、おもむろに口を開いた

「チャイナさん…実はその話しには…」
「いや、いいんでェ。近藤さん、俺の言葉がコイツを追い詰めたって事実は変わりゃァしねェ。」

そんな二人のやり取りを神楽は、見る。
その目は、形容しがたい光があった。
そんな神楽を見た近藤は、口を再度開いた

「確かにこいつはまだ要らないと言った。その事実は変わらないだろう。だg、俺はもう一度聞いたんだ。それでも、もし、もし本当に出来てしまったら?…と。お前はそれでも要らないと言えるか、と。」

神楽の光がいよいよ大きくなる。
揺れる視界の中で、最後の言葉を近藤は口にした
その声に、沖田の声がピタリと重なった。

『そんときゃ、出来た赤ん坊と一緒に、神楽の取り合いでもすらァ。二人まとめて俺が幸せにしてやる…』

「まっ。結果的に3人に増えちまったけどな」

少し照れた様にはにかみながら、沖田は鼻を掻く。
その沖田に、勢いづいた神楽の体が、まるでぶつかる様に抱きついた。
あまりに唐突だったため、沖田はしばし動くことが出来なかった。しかし間を置いて覚醒された意識とともに
今自分に抱きついているのは、紛れも無く神楽だと体と心が認識する。
ピクリと固まっていた指先を動かしてみると、動くことに気付く。そしてゆっくりと神楽を抱き締めた。

抱き締めた後、確かに神楽だと、この女の温もりだと改め感動し、その腕に力をはめた…。

「全部…。全部私のはやと…ちりネ。最後まで聞かず臆病に逃げた…私の所為ア…ル…ッ…」

自分の肩越しに震える彼女の涙は、恐らくおびただしい程に彼女の頬を濡らし、流れ、そして自分の肩に落ちている。
そう濡れた肩が語った。
震える顔や顎が、肩甲骨に当たる。それを何とか落ち着かそうと柔らかい桜色に無骨な指を通してみるが、思わぬ優しさに触れた彼女は余計その涙で肩を濡らした。

しゃくりあげている彼女を慈愛の目で見るのは、何も沖田だけではない。
何かの区切りをつけたように、土方はそのタバコの煙を気持ち良さそうに空へと上らせ、見送った。
近藤は、そんな土方を見て、視線を交し、まるで太陽の様な笑顔を作った。

心の奥の奥の奥。
照れ隠しの地図を開いて、恥ずかしさを通って、去勢を辿り、冗談をスルーし、血管の中を巡ると、其処にはちゃんと在ったのに…。一秒も休まずに頑張ってドクンドクンって動いてるハートの中に、ちゃんと真実があったのに、その地図を裂いて自分は逃げてしまった。

コレ以上傷つきたくないと逃げた。
諦めた…。私の弱さ…。それが、五年の年月を作り上げた。

全部私の一人芝居…。

勝手に勘違いして、勝手に傷ついた。勝手に感傷に浸って、勝手に決断をした。
勝手に宝物見つけて、勝手に宝物独り占めした…全部、全部、一人芝居…。

そして、傷つけた。
総悟を…苦しめ続けた…。
季節が巡って、春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来て、そして又それを何度も何度も一人で巡らせた。

大切な宝物に寂しい思いを沢山させた…。
父親が恋しいと泣く子供に、独りよがりで、頑張って自分ひとりで育てていくと言う、意味も無い去勢を張り続け、甘えたい時に、その温もりを与える事が出来なかった…。

何やってたアル…私―――――

シンジレナイデ…ナニガ、アイシテル?
シンジルコトカラニゲテ、バカミタイ!

こんな自分…。どうやったら許してもらえる?
何がお互いもう大人だから…?。何も私は進んでない。
こんな私、こんな自分、、、、、、、

総悟にどんな酷い事したの?
泣く前に、後悔する前に、まずしなきゃいけないことがあるヨネ…

神楽は、ゆっくりと沖田の胸板を押し、離れる。
とめどなく流れてくる涙を必死に拭い、しゃくりながら、それでも懸命に涙を止め、深呼吸をした

「ひ、酷い事してごめんなさい!何を思われても仕方ないアル。でも謝るくらいさせてヨ。本当にごめんなさい!」

真っ赤に充血させた目で正面から沖田を見た。
ゴクリと涙を呑んで、ゴクリと生唾を流し込んで、ちゃんと目を逸らしちゃいけないって。
そしたら、右手をぐいって引かれて、あっと言う間に、沖田の胸へと神楽は連れ戻された

「んなモンどうだってよくなっちまった。今、お前が俺の腕ン中に居る。ちゃんと宝物を持って帰って来てくれた。それだけで十分でさァ。それだけで、俺は何もいわねェ…何もいわねェよ…」
....

本当は、もしもう一度巡り逢う事ができるならば、色々と言いたい事は山ほどあったんでェ。
あぁ、それこそ殴りたいぐれェに…。

それがどうでィ…。
こいつの涙を見た瞬間、謝罪を聞いた途端、いや、会った瞬間からだ。
本当に全部どうでもよくなっちまった。

理由がお互いにあるのとか、もぅそんなモンどうだっていいぐれェ…俺ァ、こいつに惚れてるって事を思い知った。

ごめんなさい…ありがとう…。
のどが枯れて声は出なかったけど、その言葉は確かに沖田へと伝わった。
その絡められた腕の皮膚から、口に入ってくる酸素から、握り締められたその温かいその温度から…。

好き…愛してる…好き…愛してる…愛してる…愛してる

まるで歌うように、静かに沖田の体を甘く侵食させていった…。

……To Be Continued…







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