act 40

「ほら、十四郎さん。口についてますよ?」
くすくすと笑いながら、ミツバは土方の口元についているご飯を、細い指で取った。
「わ、悪りィな」
照れ隠しに、ミツバから土方は目をそらした。その頬は赤い。
土方がこんな無防備な表情をするのは、唯一ミツバの前だけだった。
ミツバにしてみても、いつも柔らかい表情ではあるが、表情から、愛しさをあふれ出すのは、土方の前だけだった。

「そういえばね、昨日、総ちゃん達ったら、大変だったらしいのよ」
ミツバは口をナフキンでそっと拭うと、口を開いた。
神楽と沖田が関わると、何かしらひと悶着あるのは重々土方も知っている為、土方は、又かと息をついた。
けれど、ミツバの口から、神楽が行方不明になったと出てくると、さすがに焦りの色を見せた。

「マジかよ……。そんで、アイツは大丈夫だったのか?」
ミツバはゆっくりと頷く。
「えぇ。何でも総ちゃんが言うには、柿の木につられたとか何とか……」
土方は盛大に顔をしかめた。
「アホだアホだと思ってはいたが、本当にアホだとは知らなかったぜ」
「もぅ、十四郎さんたら……。でも、口ではなんだかんだと言ってたけれど、きっと凄く心配したんだわ」
土方は無言で頭をいた。

ミツバの言っている事は、正しい。
あの沖田が損得抜きで優しくするのは、心からの笑みを向けるのは、神楽以外、居ない。
だからこそ、神楽が行方不明になった時の沖田の姿が容易に想像が出来た。
土方がそう考えながら窓を見てると、その横顔に、ミツバの声がかかった。

「もし、私が、居なくなってしまったら、十四郎さんは、慌ててくれる? 一生懸命、探して、くれるかしら?」
はた、と土方がミツバの方に視線をやると、以外に以外。ミツバは真剣な眼差しで土方を見ていた。
けれど、土方は、鼻でそれを笑い口を開いた。

「お前はそんな事しねーだろう?」

それでも……。ミツバは言おうとしたが、出なかった。
「そう、ですね」
本当は、今でも、時々神楽の様になりたいと思う事があった。
多分こんな時でも、神楽だったら、拗ねたふりをして沖田の口から答えを出させているだろう。
そっと土方の顔を見てみると、腹を満たすのに、一生懸命だという風だった。

しかし今日は、せっかくの休みであって、こんな事で気持ちを静めている場合ではない。
ミツバは笑みをつくり、土方に向けながら口をあけた。

「この後、何処か行きたい所……」
言葉を切るように、土方は、先ほどのミツバのメモの切れ端を胸ポケットから出し、トントンと押さえた。
その指の下には、赤ちゃん用品のショップリストが書いてあった。
けれど土方がこんな所に行くようなタイプではないのはミツバもしっている。

「あの……嫌じゃ……」
「どちらにせよ、いずれ必要になるだろう?」
ちょっと、いや、結構嬉しかった。
土方は絶対にいけないだろうと思ってた上で、それを想像しながら書いていたのだ。
ミツバはふふっと笑うと、ゆっくりと「はい」と答えた。






……To Be Continued…
拍手♪

作品TOPに戻る







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -