act 39

AM9:15。沖田ミツバは比較的ラフな格好で、約束の公園のベンチで座っていた。
天気は快晴。体の調子もいい。
後は、待ち合わせの人物である土方が、機嫌よく来てくれる事を祈るばかりだった。

神楽とまた子から、今日は一日楽しんできてねと言われたが、
肝心の土方は、あまり乗り気じゃない様だった。
そんな土方に気を使ったミツバは、別に休みなんか取らなくてもいいと本人に言ったのだが、沖田弟がそれを許さなかった

気分転換になる。姉のミツバにはそう柔らかく笑いかけ、土方には、姉であるミツバを泣かせたら殺してやるよ、と悪魔もびっくりな形相で土方に詰め寄った。

土方が、仕事が第一なのは、ミツバもちゃんと分かっている。
だからと言って、自分が大切にされてないわけじゃない事も、ちゃんと分かっていた。
だから、そんな土方を、困らすような事はしたくなかった……。

待ち合わせは9:30分。
ミツバはちらりと時計を見る。時間に遅れるようなルーズな人間ではない事は誰よりも知っている。
「来るかしら……十四朗さん」
約束を破る男だと、疑っているわけではなかったが、何もかも抜きにして、ただ心配だった。

その時、ミツバの顔がふわりと柔らかくなった。
軽く手をあげ、振ると、ミツバの視界に移った男も、同じように手をあげた。

自分の前にと来た男をふわりと見上げ、ミツバは口を開いた。
「本当は……来てくれないんじゃないかって、ちょっと心配したの」
「何でだよ」
呆れるようなこの男の顔を見ると、ミツバはふふっと笑みをこぼした。

「何処に行くんだ? 行きたい所があるんじゃないのか?」
言いながら、土方は大きなあくびをした。
もう9時だと言うのに、こんなにも眠たそうにしているのは、きっと、今日の分の仕事を、昨日夜遅くまでしていたからに違いなかった。
そんな土方の様子を見たミツバは、鞄の中からメモした物を出すのに躊躇したが、結局、それを出した。
「何だ?」
土方はそのたたみ折られたメモ用紙を広げると、驚いた。
ずらっと並べられた走り書きは、ミツバが土方と、ずっと行きたかったであろう飲食店や、店のリストだった。
出したのは、自分にも関わらず、早くもミツバは後悔している様だった。
土方の機嫌を伺うようにちらりと視線を交わす。

「あっ……別にいいの。一緒に居られれば……今日は何処でも……」
ミツバは、土方が持っているそのメモ用紙に、早くも手を伸ばした。まるで余計な物を見せてしまったかの様に。
しかし土方はそれを、ぐっと持つ事で、手放す事を拒んだ。

いつも控えめなミツバがこうしてこのメモ帳を、今日この場に持ってきて、土方に見せたと言う事で、
ミツバがどれほど今日を楽しみにしているのかが、土方に改めて伝わった。
どんな時でも、自分を優先し、そして甘えを殆どいわないミツバの、珍しくも可愛い我侭……。

「まずは腹だな。ここから二駅程行った所に、オメーが行きたいイタ飯屋があるんだろう?」
メモ用紙の走り書きのひとつを、土方はトントンと人差し指で指した。
土方の言葉を聞いたミツバは、ふわっと笑い顔を見せた。
神楽達の様に、大声ではしゃいだり、騒いだりはしないが、これがミツバの本当に喜んでいる顔だと言うくらいは、安易に土方に伝わった。
「いいんですか?」
「そこで腹が膨れなきゃ、定食屋にでもはいりゃいいだろう?」
「ま、十四朗さんたら」
今日は、いつもよりもミツバの表情が柔らかい。
実は明け方の3:30まで会社に残って仕事をし、睡眠がとれてない土方だったが、其処までしてでも今日きた甲斐があるもんだと、素直に思った。
まだまだ、本当は、眠い、このままベットに入れば、きっと三秒も経たずに熟睡する事が出来る。
そんな中、土方が久し振りに聞く、ミツバの小さいが可愛らしいくすくすと笑う声。
もっと聞いていたい。

口数少ない土方がそう胸の内で思うと、包み込む様なミツバの笑顔が土方に瞳に映った。
そっと手を握りしめると、やっぱり土方は多くを語らなかったけれど、ほんの少しだけミツバに笑みを見せ、すぐに照れ隠しをするように、手を引き、足を出した。




……To Be Continued…
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