act 38
こんなはずじゃなかった。
沖田は最後まで、そうブツブツと文句を言いながら電車へと乗った。

風呂場の騒ぎの後、通されたのは、四人分の懐石料理。
勿論これも、全てサービスだった。神楽が迷った事。他の客が紛れ込んだ事。
以後こう言う事がないように、そうマネージャーじきじきに頭を下げに部屋へと来た。

しかし、元々は神楽は自分で迷った事が原因だったため、
沖田の方も、しっかりと頭をさげた。勿論神楽もだった。
懐石料理はAクラス。神楽やまた子にとって、どれも目を見張るものばかりだった。
何をとっても、どれを食べても、口から出てくるのは、「おいしい!」と言う言葉ばかり。

沖田の方も、終りよければ全てよし、そう言いながら、料理に手をつけた。

そして時刻にして、現在午後九時二十分。
窓の向こうは、高速で景色が変わっている。その景色に浮かんでは消える、色んなライトだけがキラキラと映っている。
さすがにこの時間ともなると、乗客も少なく、ちらほら人の影が見えるだけだった。

「でも、今日は楽しかったっス。お妙さんに感謝しなくちゃいけないっスね」
「本当ネ。確かに、色々とあったけど……色々とね。でも、楽しかったし、美味しかったアル」
「でも、また明日から、晋介も忙しいんだろうな」
また子はちらりと高杉の方を見た。
窓の向こう側を見ていた高杉は、ちらりとまた子に視線を移したが、何も言わずにまた景色の方へと戻した。
「沖田さんも、明日の朝は早いッスか?」
「あァ、朝一から会わなねぇといけねークライアントが居まさァ」


沖田の言葉に、一気に現実に引き戻された様な気がした。
気が付けば、電車の中。楽しい時間は、本当にあっと言う間にすぎてしまうのを、神楽とまた子は、嫌でも感じてしまう。
誰ともないため息が、聞こえた。
毎日遊べる訳がない。こんな日は、たまにだからこそ引き立つのだ。
そう思ってみるが、やっぱり寂しかった。
子供が出来たと言ってから、ずいぶんと優しくなったし、甘えさせてくれる様にもなった。
でも、本当は、毎日だって、一緒にいたい。
朝起きたら、隣に居てほしい。夜寝る時は、どんなに遅くなってもちゃんと待ってるから、隣で寝てほしい。
思うことは、色々あった。何も言ってくれない男の心情が分からず、まだ不安を抱えてるは、神楽だけではなかった。

毎日逢える、じゃなくて、毎日居るのが、当たり前になればいい。
そう神楽達は思わずには居られない。
沖田達にも、考えている事は色々あるのだろう。だから今は何も言わず信じて待つしかない。
ちゃんと分かってるから、何も言わない。

次から次へと、あれやこれやと欲張りすぎると、何もかも失いそうで恐いから、ただ待ってるだけだった。
本当は、そんなのキャラじゃないのに……。

電車が駅へと着くころには、本格的に、冷え込んでいたので、思わず神楽達はぶるっと震えた。
このままバイバイするか、でも、出来る事なら、今日は朝まで居たい。
神楽達は願わずにはいられない。
今日くらい、わがまま言ってもいいでしょう?
そんな風に神楽は沖田にピタリとくっ付いた。
おそらく、少し前を歩くまた子の影も、同じようにくっ付いている……。

「ね、沖田。もっと、話したいなぁ、なんて……思ったりしてるんだけど――」
神楽ではこの位が精一杯だった。心臓の音は早く、高く。未だにこんなにも沖田にドキドキと胸をならすなんて、もう末期状態だと神楽は思う。
オマケにもう夜中に近く、沖田の表情なんて、まったく見えない。

鳴らした喉の音が、耳の奥にジンっと響いた。
「俺がこのまま帰す訳ねーだろィ?」
帰ってきたのは、いつもの沖田の声。
「高杉の野郎と、あの変なクソ女の所為で、俺の計か――いや、お前との時間もとれないままだったしな。ま、美味いモン食えたってーのは良かったが、まだ深夜にもなってねーしな。はなっからオメーを送るつもりなんざありやせんぜ? 今日帰るのは俺のベットだけでさァ」

ストレートな沖田の言葉に呆気に取られるも、すぐに素直な気持ちが心を占めた。
「お前の部屋に行くアルっ! だれもベットに行くなんて言ってないアル」
「何いってんでェ。スキンシップだって大切な事だと思うぜ?」

酔わされる様な殺し文句なんかじゃない癖に、このまま沖田の口車にノせられてもいい。
そう思える自分が居る。
神楽はふふっと零れてきた笑みを密かに隠しながら、沖田の腕にぎゅっと自分の腕を絡ました。

「今日だけは、特別アル……。何か私も――誰にも邪魔されずに、イチャイチャしたい気分だもの。訳の分からない女より、ずっと私の方が良い女だって事、認めさせてやるヨ!」
「お手並み拝見といこうじゃねーか」

あんなクソ女でも、役に立つじゃねーか。沖田は思いながら神楽を引き寄せ強引に唇を重ねた。
一瞬にして威勢をなくした神楽の耳元で何かを話すと、神楽は更に体の力を失わせた。
すがる様な格好になった神楽の体を支えながら、その沖田の足は、今日一番幸せな足音を鳴らした。



……To Be Continued…
拍手♪

作品TOPに戻る







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -