act 37

「神楽ちゃん、私正直……こんなの嫌ッス……」
湯船の上でちゃぷちゃぷと遊ぶ神楽は、一度ちらっとまた子の方を見ると、あからさまに嫌〜な表情を浮かべていた。
けれど、その事に関して口を開く事がないままに、神楽はその暗がりの中に浮かぶ、オレンジ色の照明に照らされた紅葉達を見て、目を細めた。
「綺麗アルナ〜。ねェ……高杉〜」

その言葉を受けた高杉といえば、先ほどからもう諦めた様な表情でその熱い湯の中に使っている。
「ね〜神楽ちゃん。もういい加減機嫌なおしてあげてもよくないっスかぁ? だって、沖田さんの所為じゃないって、スタッフの人も、こちら側の管理ミスだって言ってたじゃないっスか。せっかく二人ずつ、サービスで露天風呂使っていいって言ってくれたのに、何も四人で入らなくても……つーか私は二人きりで入りたかったのにィ……」
一向に沖田と目を合わせない神楽の肩をまた子は掴んで、ぐらぐらと揺さぶった。
神楽は拗ねた調子でまた子の顔を見た。
「だぁってね〜。スタッフの人の話じゃ、その女、えらく体が火照ってたって、しかも体に何も纏ってないままだったってぇ〜〜。それってどう言う事アルかぁ? ねェ、高杉ィ? 浮気したって事アルかぁ〜? 私が道に迷って恐い思いをしてる時に、このバカ野郎は女とチチクリあってたって事アル。女と男が露天風呂で、素っ裸なんて、もうそれだけでする事なんて一つしかないアル」
そういい終わった途端、神楽はココに来てはじめて沖田と視線を合わした。睨んだと言った方が、しっくりくる様だとも思えたが……。


今度は沖田の方が視線をずらした。
まぁ、確かに、いくら、神楽の大馬鹿野郎が、食欲任せに柿につられたからと言えど?
どんな理由があれ、神楽の言う事は、【おおまか】当たっている。
チチクリあってなどは居ないが、ちょっと女の体を刺激したのも実際あてはまるし、体を火照らせたのも認める。
ただ一つ言いたいのは、一度もその女に欲情などしなかった事。
とはいえ、今の神楽に何を言っても、皮肉しか帰ってきそうにないので、沖田は黙っている事にしたいた様だったが。
けれど結局その所為で、神楽の機嫌はますます悪くなっていたのは言うまでもない。黙ってるのは肯定と言う事だろうと、神楽の考えの中でかたまってしまっている。

「だったら話は簡単じゃねーか。別れちまえよこんな奴」
突如でた高杉の言葉に、一同の視線は其処に集中した。高杉は皮肉めいた笑みを浮かべている。
「その方が一番早ぇ〜だろ? 浮気したってお前が決めてかかってんだからよォ。なぁ、チャイナぁ?」
さっきまで皮肉を出していたその唇が、きゅっとなった。湯船の中に浮かぶ自分の顔を、俯いたままじっと神楽は見ている。
「テメーの男は、簡単に他の女と浮気する。しかもテメーが危ない時にでもだ。自分で言ってたじゃねーか、今」
続く高杉の皮肉に、神楽は手をぎゅっと握り、下唇を噛んだ。
「――だって……。言ってたも――」
「言ってたから、オメーは男じゃなくて、他人を信用するっつーんだろ? だったらこの先もあーだこーだってその度他人を信用すんだったら、オメーとこいつの先はないと思うぜ? 最初からこいつは言ってただろう。変な女が来たってな。ま、後はオメーがどうすっかだけれど」

話の成り行きを、ただただ沖田は聞いていた。
途中、首をつっこもうとしたけれど、何気に高杉の台詞が自分のココロを打った。
けれど、いよいよ神楽の肩が震えてきたので、ため息を一度吐き、もう一度謝ろうと湯から体をあげようとさせた。
刹那、其処にある桶をもち、神楽が立ち上がったと思うと、いきなり湯をすくい、もの凄い勢いで沖田にかけた。
「ゴホォ……オメっ――何しやがんでェ!!」
「絶対の絶対に違うアルかっっ?!」
「ゴホっ……は、ハァ?」
「だから! 絶対の絶対の絶対に浮気なんて、してないアルかって聞いてるアル! も、もし浮気してないんだったら、別に別れるなんてっ……い、言わないでいてあげるアルっ! どうなんだヨ!」

鼻息荒く言う神楽を、仕掛けた張本人の高杉も、神楽の隣でハラハラとしていたまた子も、当人である沖田も、口をあけ唖然とした面持ちで見上げた。
と、一番最初に声をあげ笑いだしたのは、高杉だった。
おそらく、自分がちょっとおかしい行動を取っている自覚が、神楽にもあるのだろうと思う。
神楽はわなわなと唇を震わせながら耳まで真っ赤になっている。
その次、沖田までクツクツと笑いだした。
神楽は、鼻から息を荒くだすと、もう一度、もう一度と、今度は高杉までにも湯を掛けまくった。
鼻を押さえ、笑い顔から一変、咳き込んで止めろと言い放つ。
けれど神楽はやめない。ココで、ノリがいい、また子までも参戦してきた。
桶いっぱいに熱い湯を張り、いっきに沖田と高杉にと叩きつける。
立ち上がろうにも、その行動さへ出来ない沖田達だったが、やっと神楽とまた子の気が済んだのか、降り注ぐ湯の雨は終りを告げた。

はぁはぁと肩を上下する神楽達だったが、沖田と高杉の、顔を拭い、髪をかき上げる姿には、思わずドキリとさせられた。
しかしそれもすぐに止んだ。
次の瞬間には『ヒッ!』と声を揃え、明らかに青筋が浮いている沖田達から逃げようと二人して、後ろずさった。
けれどココの湯が、トロリとした湯だった事を忘れていた。まとわりつくそのトロリ感が、足を絡めたと思った瞬間、二人して湯船の中に、後ろ格好で尻からダイブした。別にプールではないのですぐに体勢は起こせた。

が、問題は湯の中で散々もがき暴れた事だった。
湯の中から顔を一生懸命拭い漏れた『プハァッ』と言う声。前を見れば男の唖然とした表情。
「も、もうお仕置きはこの位にしましょう。ね? ほら天罰も下った事だし」
「そ、そうアル。やっぱりイタズラをしたらしっぺ返しが恐いアルナ〜〜」
必死に男を宥めようとと言葉を出してみるが、男の表情の先、まるで自分達の顔を見ていない。
頭にクエッションマークを浮かべながら、何気なしに、下を向いた。

『ぎやぁぁぁぁぁぁ!!!!』
末端まで響き渡った声は、もう一度スタッフが飛んできそうだとさへ思わせた。
湯の上に浮かぶ巻きタオルを取ると、神楽と二人して、体にもう一度巻きつけようとする。が、十分に湯を含んだタオルは、二人の思い通りには巻きついてくれず、何度も何度もやり直した。すると、何度も何度も神楽とまた子の乳が反動で揺れた。もう何だと、とりあえず、見ている方の片割れはいつも自分の体を、隅々まで堪能しているのであって、もう片割れも言えば身内みたいなもので、他人よりはマシだと、二人はタオルを巻きつける方に専念しているようだった。

けれど、そんな思いじゃおさまらないのが男であって、他人だろうが、身内だろうが、とにかく自分以外の男に露にする体なんぞ、一つもねーとばかりに拳を振り上げた。

――やっと、また子と神楽がふぅと息をついた頃には、沖田と高杉の唇の端が互いに切れている。
状況が状況なので、その理由も分かる。けれど、結局は妬いた事でしょ? さっきまでのシリアス感を何処かに吹っ飛ばして、そう言わんばかりに二人は舌をペロリと出し、クスクスと笑った……。



……To Be Continued…
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