act 16


沖田とその向こう側に居る女子の影を近藤が確認すると、あからさまにマズッたと言う面持ちをした。
すぐに踵を返したが、正直気になる気持ちもある。
女子の姿は、暗く、イマイチよくわからないが、人の告白現場と言うものは、中々蜜の味で……。だが土方が近藤を促す事で、近藤は名残惜しそうにその場から足を遠ざけていく。
すると前から、何故か高杉の姿が現れた。
聞けば、沖田に話があって、この時間ならばちょうど帰る頃だろうと、わざわざ家から足を運び、たまたま沖田と女子の行方を見ていた銀八にココの場所を聞いたという。
近藤はクククと笑いながら沖田のその背を指さした。
それだけで高杉は納得したようで、けれど覗きは自分の趣味じゃないとその場を離れる様足を踏み出した。

しかし、其処はまだ、その背中に、まだ声が届く距離だった。
そしてその会話が耳に入った。そしてすぐにその歩いている足を止める事になり、そして引き返す事となった……。


「私、沖田先輩の事……ずっとずっと好きでしたっ!」
好きでした? さすがの沖田も、まさか告白を過去形でされるとは思ってもみなく、もう一度聞き入った。
「私、本当にほんとに、沖田先輩が好きだったんです。電車の中で一目惚れして、一コ上の先輩だって気付いて……。でも沖田さんの視線の先には、いつも一人の女の子が居たんです」

あぁ……。その場、沖田含め四人は、事の流れが想像できた。
しかし中々鋭い女だと、土方と高杉は思った。けれどすぐに考えを改め、それほどに沖田が分かりやすくなったのだろうと苦笑した。
「その先輩って、神楽先輩……ですよね」
沖田は少し間をあけて、「あァ」と答えた。
これによって、とっくに分かってはいたけれども、沖田の言葉で神楽の事をどう思っているかを、確認できた事になった。沖田の事だから近藤達の気配にも気付いているはず。そんな中での言葉だからこそ、真実味もあった。
とにもかくにも、これで沖田の気持ちはハッキリと相手にも伝わった事になる。
考えてみれば、断る際の言葉に、自分に好きな娘が居るというニュアンスを使ったのは、これが初めてだった。
今沖田が考えている事は分からないけれど、どちらかと言うと、反対の娘の方が気になった。

泣くなり、悲しむなり、何なりと態度をあらわせばいいと思ったが、暗がりの中に浮かぶ少女の表情は、初めからその答えが分かってましたとばかりの表情だった。
「私、沖田さんが、神楽先輩の事を好きだろうなって思って、ある時からこっそり二人の様子を伺ってたんです」
そんな事をされて嬉しいはずもなく、沖田は不機嫌に口を開けた。
「それで?」
「どっか神楽先輩の悪い所を見つけてやろうって、初めはそんなつもりで見てました。……でも、神楽先輩の事を知ればしるほど、沖田先輩が神楽先輩に惹かれているのが分かった気がしました。だって、ワザとぶつかったりした時も、全然怒らなくて、それどころか、私の方を心配してくれて……。それに、私の顔も覚えてくれたんです。毎日顔合わすと、おはようって……。私嬉しくて……気が付いたら、神楽先輩の事、嫌いどころか、大好きになっちゃってて……」

何時の間にか、沖田達の表情は、柔らかくなっていた。
神楽の良さを分かってくれる事が、素直に嬉しかった。
しかしその直後から、その少女は、わなわなと震えだした。

「だから、私、電車でも、神楽先輩に話しかけてたんです。会話は全然大した事なくて、挨拶くらいだったけど、それだけでいつも十分嬉しくて……。だから……最初から、本当はおかしいなって思ってたんです、だって……。だってあんな事……でもそんなの信じられなくて――。あの時に私が気付いていれば、こんな事にはならなかったのに――。そしたら……あんな神楽先輩っ……だってあんなのまるで……人格が……。元の神楽先輩何処言っちゃったの? 私が早く言えば良かったっっ。――もう遅いかもしれないっ。あんな目に合わされて、あんな汚れたサイト……この世からなくなっちゃえばいい。神楽先輩のあんな姿なんて……。神楽先輩なんでそんな所で泣いてるの? 泣かないで……。 違う! 先輩は何も悪くない! 汚くなんてないっ! そんな声出さないで……泣かないでっ……泣かないで先輩……。もぅ……もう神楽先輩帰って来ないかもっ……私の所為……私のせい……!」

とっくに【告白】なんて雰囲気からは遠ざかっていた。
少女の顔は暗がりでも分かるくらいに青く、それでいて、取り乱していた。
沖田が、思わず肩を掴むと、たった今夢から覚めた様に、額から冷や汗を流し、目を大きく見開いていた。
呼吸は乱れ、何も疲れてなどいないはずなのに、肩で息をしている……。

「しっかりしろっ!」
「す、すいません……」
言った直後、少女の顔は見る見るとくしゃりとなった。
「沖田先パっ……助けて……神楽先輩が……神楽先輩がァっ……」
既に頬には涙の筋がいくつも通っていて、乾く間もなく次から次へと流れている。
唖然とした沖田は言葉が出なかった。様子がおかしいと気付いた高杉達も、沖田の横でただただ突っ立ったままになっている。
「どうなってやがる……」
苦しい表情で高杉が口を開いた。
「分からねー」
沖田は言うと、その少女の顔をこちらへと向けた。
「ちゃんと説明しろ。助けてやる。絶対ェ助ける。だからちゃんと話せ」
鼻を何度も啜りながら、少女は口をおもむろに開いた……。


「神楽先輩……ずっと……ずっと……痴漢にあい続けてるんですっ……。サイトっ……サイトにィ……。神楽先輩が……神楽先輩がァ、居なくなっちゃったんです……壊れちゃったんですぅぅっ――――」



真っ白になった頭の中で、あの保険室を出てからの神楽の様子が、一気にフラッシュバックして、沖田の頭の中へと重なっていった……。


……To Be Continued…
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