act 17

「この制服……晋介様の匂いがするッス」
また子がそういいながら自分のよりひとまわりも大きい高杉の制服の匂いを嗅いだ。
その光景を見ていた神楽やミツバ達は、また子と同じ様にそれぞれの制服の匂いを嗅ぐと、目をあわせ、少しの間のあと、ふふっと柔らかく笑った。

「でも、やっぱり寒いアル。風邪引いちゃいそうヨ」
「そうねェ。でも沖田さん達はもっと寒いと思うのよ。そう考えるとちょっと申し訳ないわよね〜」
すっかり沖田達と別行動になってしまった神楽達は、あれから寺の中を十分に堪能し、バスへと帰る途中だった。
来た時と同じく、今日はミツバと神楽、そしてお妙とまた子でバスには座るようになっている。
後ろの方の席の方が、自由に出来そうと言う神楽の声できまった席だったけれど、前に乗ろうが後ろに乗ろうが、結局担任が銀八なので、特に変わらない気が、正直した。

バスについたのは、神楽達が一番先だったらしく、バスの運転手に礼をしながら乗り込むと、さっそく席についた。
通路を挟んで二人ずつ座っているので、会話には特に困ることなく、さっそくまた子は、デジカメのチェックをしながらお妙に見せたり、身を乗り出しては神楽やミツバ達に見せていた。
まだ集合時間までは時間がある。
そこで、お妙は、ちょっと神楽に意地悪な質問をはじめた。
「ね。神楽ちゃん、沖田さんと顔を合わせずらいんでしょ」
くちゃくちゃと噛んでいたス昆布を神楽は、いきなりの質問にぶふっとふき出した。おかげで神楽の足元にはぺらぺらのス昆布がハイスピードで放出された。
「な、何をいきなりっ! もう! 姉御ォ!」
瞬く間に染まった神楽の頬を見ながら、お妙は満足そうに笑っている。
こうなってくると、また子とお妙の組み合わせは、かなり神楽にとって不都合だった。
「あれあれ〜? 神楽ちゃん、ほっぺ、赤いっスよ?」
「んなァ! また子まで〜! 最悪アル! ほんっと最悪アル!」
頬を染めた後は、怒り出した。けれどその顔には威力も何もない。
「まァ、あれだけしっかり皆に見られちゃったんだもの。噂の的よね?」
お妙の言葉と聞いた神楽は、確かにそうだとため息をついた。さっきの出来事は、もう自分のクラスにも、他のクラスの子達にも知られてしまっている。寺の中を歩いてる途中でも、何度となく振り返られコソコソと話声が聞こえたものだった。

「あんなの……事故だもの」
神楽の本音がポロリと出てしまう。聞いた二人組は思わず顔を見合わせにや〜と笑った。
「そっかそっか。所詮事故っスよね。神楽ちゃんは、ちゃんと沖田さんと、キス、したかったっスかァ〜。可愛いっスね〜?」
「本当だわ〜。全く、沖田さんにその台詞聞かせてあげたいわァ〜」

まずったと思うがもう遅い。恥ずかしさにフルフルと震える神楽をミツバはよしよしと宥め、「あんまりいじめちゃ神楽ちゃんが可愛そうよ」と二人に呆れ顔で言った。けれどこれも全く効果はなしだった。
いいオモチャが出来たと、二人は上機嫌。神楽は完全にヘソをまげてしまうと、ミツバの方に、向いてしまった。

楽しくてたまらないと、笑う二人だったが、生徒が乗ってくる時間も来てしまったので、ココらへんで話を中断させた。
ふぅ、と息をつきながら、神楽はそっと乗り込んでくる生徒を見ている。
沖田が乗り込んでくる時には、真っ先に目をそらす予定でいるが、その前に、何だか男子の視線が気になってしょうがない。まるで幽霊でも見てる様な目つきだった。神楽が首をかしげていると、隣のミツバが声をかけた。

「神楽ちゃん、そういえば眼鏡は? 見つかったんでしょ?」
あぁ、と言いながら胸ポケットから取り出し見せた。
「割れてはないけど、散々蹴られたりしたから、ちょっと歪んじゃったアル。向こうに帰ってから、行き着けの眼鏡屋さんで直してもらうネ。別に視力が悪い訳じゃないから、不便はないし」
取り出した眼鏡を再びしまい、また神楽はボーとバスの乗り口を見だした。

(まぁ、これって、大変な事になっちゃうんじゃないかしら……)
口に出さなかったミツバの考えは、早くも当たる事になってしまう。
透き通った神楽の空色は、神楽を別人の様に見せていた。乗り込んできた男子生徒は、神楽と目があうたび、驚き顔をそむける。何もしらない神楽は、そんな事を気にせずに、次の生徒、その次の生徒、と、退屈しのぎに凝視した。

そして淡々と見ているあまり、結局神楽は沖田が乗ってきても気付かないままになってしまった。
「あっ……」
ご丁寧に声まで神楽は発してしまった。けれど沖田はといえば、神楽とは違う所に意識が言っている。
つかつかと神楽の前までくると、ピタリと止まった。その面は不機嫌そのもの。
わたわたと慌てる神楽を他所に、沖田は口を開いた。
「オメー眼鏡は?」
「はっ? 眼鏡? あ、あぁそれは――――」
今さっきミツバに説明した所なのに、また説明するのは色々と面倒だと神楽は思ってしまった。
「別に……ただの気分転換アル。 ほら、だって無くても困らないデショ?」
「…………ふーん」
言ったすぐ、沖田は踵を返した。
(何怒ってるアル、あいつ……)
考える神楽だが結局分からずじまいだった。
そんな神楽を、隣にいるミツバは見て、沖田の内心も予想できた様に、深く息をついた。



……To Be Continued…

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