act 15

沖田の胸に深くささった神楽の一言は、時間が達つにつれ、けっして消えたわけではないけれど、ゆっくりとその痛みをやわらげていた。
その原因の一つは、やはりあの日から変わった神楽の棘のない態度のせいだった。
何かおかしい……。そうは思ってみるが、何がおかしいかといわれると、神楽が素直になった。くらいしか思いつかなかった。そしてそれは、沖田だけではなく、高杉もだった。明らかにおかしいとは思っているが、例えば神楽の中で解決してしまったのだろうか……と思ってはそのままにして、今日で十日がたった。

終礼が終わったら、神楽が、沖田にタオルを手渡した。
この光景も、ここ十日の中で、おなじみの光景にとなっていた。

「ちゃんと、練習しなきゃ駄目ヨ。サボっちゃダメアル」
沖田は神楽から、練習中に使うタオルと、神楽自身が作ってくる特性スポーツ飲料水を受け取りながら口を開いた。
「分かってらァ。オメーも毎日同じ事繰り返すんじゃねーよ」
神楽がすぐに頬を膨らました。
「むっ……。そ、そうだけどお前がちゃんと練習してるか気になって……。悪かったナ!」
いいながら沖田に今しがた手渡した飲料水&タオルを取り上げようとした。けれどそれを沖田が手を離さない事で阻止をした。
「せっかく人が応援してやってるのに……。ムカつくアル」
確かに神楽にとっては、おかしいほどに、素直な行動だった。あの日言っていたお守りは、ちゃんと3日後には、不格好ながらも持ってきてくれたし、それと平行して、銀八に教えてもらったハチミツと、レモンを入れたドリンクを沖田だけに特別に持たせているのだ。そして、口ではこういってる沖田も、実の所、嬉しくてたまらく、しょっちゅう部員にからかわれたりしていたが、神楽に持ってくるなとは絶対言わなかった。
にも関わらず、当人の神楽が返せと言っている。思わぬ方向に話が飛んで行ってしまったと、沖田は少し焦りはじめていた。
「べ、別にこれと、それは関係ねーだろう。なんで取り上げたりしなきゃなんねーんでェ」
「だってお前、何だか迷惑そうだもの。そんな態度取られてまでやる意味なんて、ないアル……」

沖田が、一度、目を閉じた。息をゆっくりと吐くと、静かに目を開けた。神楽はその沖田の視線に気付くと、まだ頬は膨らませているままだったが、沖田の視線に重ねた。
「別に迷惑だなんて一言もいっちゃいねェ。今までが今までだったからいまいち信用性にかけるって思うのも仕方ねーとは思いまさァ。ただ今回は俺も真剣にやってんでェ。だから信じてくれって言ってるだけだろィ」
ぷしゅ〜と神楽の頬の空気が抜けた。
「わ、分かったアル……。ほ、ほらっ。もういいからさっさと練習いけヨ!」
それは明らかに照れ隠しだと分かる態度で、だからこそ、神楽は沖田をさっさと部活に行ってしまえと急かした。
沖田は笑いを軽く吹くと、「ヘイヘイ」と神楽に背を向けた。

この神楽と沖田の急接近に、お妙達も喜びを隠せないらしい。神楽が調子が悪かった所為で、すっかりうやむやになった【告白】を、今こそするべきだと皆は口を揃えて言った。どう考えても、神楽の想いは沖田に伝わってるはずだし、沖田の神楽への接し方をみていても、その想いは一目瞭然だと。
周りの声では、既に付き合ってるんでしょ? と言う声も出てくる程だった。それほどまでに、今の神楽と沖田は近く、そしてお似合いだった。土方や、近藤も、そして高杉も、そんな神楽と沖田の事を、今は柔らかい目で見る様になっていた。

高杉と沖田のもやもやも、確かに、少しずつだけれども薄れていっていた。
特に、土方と近藤にいたっては、神楽のおかげで、あの沖田が欠かさず朝練も夕方の部活も出てくれる様になったと、上機嫌だった。

陽が落ち、沖田が帰る頃は、いつも暗かった。
そんな中、沖田が土方達と別れ校門の所に歩いていると、其処に、一人の女が立っているのを見つけた。
沖田は特に意識もせずにその娘の前を通りすぎた。
「あ、あのっ……。沖田先輩……」
名前を呼ばれたと同時、沖田はうなじを掻いた。
あぁ、またか……。思ったのは仕方のない事だった。
最近は、神楽と距離が縮まっているおかげもあって、その数はほんの少し減っていたが、その告白の回数は、もはや沖田にとって、正直苦痛以外の何ものでもなかった。
しかも後輩らしい。ちょっとキツイ事を言うと、すぐに泣き出す。すると嫌でもこちらが悪くなってしまう。
沖田は長いため息をつき、さっさと終わらせてしまおう、とその娘に向き合った。
「あの……。此処ではちょっと……」
(どうせフッてしまうんでィ、此処で十分じゃねーか)
言ったら早くも泣いてしまいそうな台詞を沖田は胸の内で毒づいた。けれど泣かれてしまって面倒なのも沖田であって……。
そんな事になって、それこそ神楽の耳にでも入ってしまえば、やっかいな事になりかねない……。
そう思った沖田は、その娘に素直に従う事にした。
前を歩くその娘は、いかにも女の子といった風で、髪は長く柔らかく、腰は折れそうな程に華奢で、暗がりで見なくても、きっと美人だ……などと沖田は冷静に観察をしている。
だからといって、心が動くような事はなかった。まぁ確かに、
神楽が転校してくる前の、昔の自分だったら、味見程度はしているかも……などと、不誠実な事を思ったりはしてしまったが。

学校の裏に来たところで、沖田が面倒くさそうに口を開いた。
「もうここら辺でいいんじゃないですかィ?」
するとその女子生徒は頷いた。
「はい……。あ、あの……。私、沖田先輩の事……好き――」
「おーい総悟。たまには家に寄らないか?」
まさに一世一代の告白だったこの瞬間、それに気付いてない近藤と、後ろを付いてきた土方がまさかの邪魔をしたのだった……。




……To Be Continued…

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