act 14

屋上の手すりを背もたれに、沖田が思いにふけっていると、屋上のドアから、ひょこっと神楽が顔を出した。
神楽の視界の中に沖田が入ると、柔らかく笑い、少し照れながら、でもやっぱり嬉しそうに側に寄ってきた。
手の中には、持参の弁当、そして、たった今購買から買ってきたパン二種類にデザート代わりのス昆布。

頭の中であれやこれやと考えていた沖田だったが、神楽の笑顔を見ると、
ひとまずぜんぶをしまう事にした。

「話って……。何でェ」
いきなり核心に触れてしまった。
沖田は思ったがもう遅い。けれど正直聞きたくてしかたないのだ。
神楽が二人きりになってまで話たいと言う事。理由はアレ以外に考えつかない。
喉を鳴らした沖田だったが、神楽の反応は予想したものとは大分違った。
口をきゅっとしたかと思うと、頬を淡く染めた。もじもじと手を動かし、ちらちらと沖田を見る。

「あの……ね。もうすぐ、お前、剣道の大会ダロ?」
「ハッ?」
思わず聞き返してしまった。じれったそうに神楽はもう一度口を開いた。
「だから! もうすぐ大会のシーズンだろ? だ、だから……その……。お、お守りを作ってやろうと思ったアル!」
「ハァ〜?!」
すっとんきょうな声をあげてしまった。
普段の沖田なら、此処で、照れるなり、照れ隠しの暴言を吐くなりする所だが、今日は違う。そんな場合ではないはずなのだ。自分にとっても、神楽にとっても……。そんな甘ったるい雰囲気を醸し出す暇はないはず……。
「だ、駄目アルか?」
「駄目ってオメー……」
言葉の途中で言葉が詰まった。
神楽は沖田の返事がいいものではなかったので、下を向き、ちょっと拗ねているようで、手をいじいじと遊ばせている。
「べ、別に、いらなかったらいいアルっ」
言ったは最後、神楽は無言になり、弁当を広げ、それと平行してパンの袋を開け、口にほうばりながら、沖田から視線をそらした。
(何がどうなってやがる……)
質問したいのは、答えが欲しいのはこっちの方だった。
ここ数日の神楽の行動、態度、あの泣き顔。言葉。答えを待っていたのは自分だった。
けれど、此処にいる神楽は、その答えを話そうとする事はおろか、全く別の内容を沖田にけしかけたのだ。
沖田はもうどうなっているのかと、頭をガシガシと掻いた。けれど、神楽の態度は変わらない。
明らかに拗ねた態度で、ぶすっとタコウインナーにフォークをぶっさした。そのままおにぎりを……。
口いっぱいになっているが、そんな事しるもんかと言ってるのが、ありありと伝わってくる……。
結局沖田はその答えを出すことは出来なかった。けれど神楽の機嫌をそのままにしていくわけにはいかず……。

「作れんのかよ……」
必死になって噛んでいた神楽の口がピタリと止んだ。ペースをゆっくりと、口を動かしながら、沖田の方を見上げた。
「だから、オメーが作れんのかって聞いてんでェ。俺の記憶が正しけりゃ、オメーの裁縫能力っつーもんは、壊滅的レベルじゃなかったか?」
最後の口の中の物を、喉に無理やりお茶で流し込むと、神楽はおもむろに口を開いた。
「み、ミツバ姉に……教わろーかなって……思ってたアル」
普段の神楽ならば、絶対の絶対にこんな事は言ってくるはずがない。
そう言う意味でも、神楽はおかしかった。
様子を伺うように沖田が神楽を見つめていると、神楽は緊張した面持ちで沖田を見た。
「け、剣道やってるお前って、ふ、普段より、ちょ、ちょっとだけだけど格好いいから……。大きな大会はこれで最後だし、勝った所をみたいって言うか……。べ、別に負けてもいいけどナ! そしたら神楽様が笑ってやるアル! ……だけど、やっぱり勝った方が……だからお守りを……」
ごにょごにょと最後の方は聞きづらかった。けれどどちらにせよ、沖田の耳には途中からは入ってこなかった。
さっきまで緊迫した雰囲気だったというのに、ゲンキンにも沖田は神楽のしぐさや言葉に、自分の顔さへも染めてしまったのだ。
いつものツンデレ100%の神楽からは到底考えられない様な、神楽デレ仕様。
これは破壊的に可愛かった。

鼻血が出そうだと本気で思った沖田は、上を向き、鼻を押さえた。
「ど、どうしたアルか?」
沖田の様子に神楽が食べかけの弁当を置いてぐっと近くに寄った。上を向いている沖田に神楽の顔が覗き込んだ。
「だ、大丈夫アルカ? どっか痛いアルカ?」
何でもいいから離れてくれと、沖田は切実に願った。ぐぐぐっと神楽の体を離すと、一旦神楽から顔を離し、深呼吸で整えた。これはヤバイ……。沖田は別の意味で思ってしまった。

「大会前に、体の調子壊しちゃ駄目アル!」
ほっぺをぷくぅっと膨らました神楽は、沖田の目にもう尋常じゃないほど可愛らしく映っている様で……。
屋上までの沖田の緊張は、神楽自身の手によって、ハサミで粉々に切られ、神楽の息によって、吹かれて飛ばされてしまった。今ではすっかり初々しい恋人モードへと変わりつつある。

神楽はデザートにと入れておいたバナナを自分の弁当箱の中から、グサッとフォークで刺したかと思えば、沖田の前にと差し出した。
「ほら、ちゃんと食べて、栄養つけるアル。朝練も放課後の練習もサボっちゃ駄目アル! 分かったアルか?」
沖田の瞳には、もうどうやったって小悪魔な神楽しか映っていない。
「わ、分かった」
「優勝してくれるアルか?」
ずずいっと神楽が沖田の顔の近くに寄った。身を引き喉を鳴らしながら沖田は頷く。
けれど頷いただけではどうやら駄目らしい。神楽は差し出したバナナを食べろと沖田の口元へ持ってくる。
これは属に言う、恋人同士のアーン、だった。

もっと自分はポーカーフェイスの上手い男だったはずだと思ってはみるが、今の神楽の破壊的デレには、どうやったって勝つことは出来なかった。沖田が頷いたのを確認すると、神楽はふわりと笑った。
不覚どころか、さっきから自分の理性は壊れ続けているが、更に沖田の心臓は高く音を鳴らした。
神楽は鼻歌を歌いながら弁当をしまうと、すくっと立ちあがった。

「じゃ、沖田。私はお守りを頑張って作るから、お前は練習頑張れヨ!」
「お、おぅ……」
思わず口にだした後、結局神楽は何を話しに来たのだと我に返り、気が付くと口を開けていた。

「お、お前、保険室で……。つーか大丈夫なのかよ……。無理してんじゃ――――」
「何言ってるアルか? 保険室って何? 私行ってないアルヨ?」
くすくすと可愛らしく笑いながら再び沖田に背を向けた神楽。
沖田はボー然とその場に立ち尽くした……。




……To Be Continued…

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