act 14


「オイ、総悟……いいのかよ……」
土方の言葉に、沖田は、何がだととぼけたふりをして見せたが、その視線は、しっかりと其処へ注がれていた。
それに土方は容易に気付くと、項垂れるようにため息をついた。
明らかに気になって仕方がない様子が駄々漏れな沖田と、亭主に愛想をつかした様に、そんな沖田を見向きもしない神楽……。

とうに甘味屋も出て、寺の中を歩いて回っているが、神楽は相変わらず銀八にくっついているし、それに目を吊り上げながらくっついているあやめ。そんな三人を後ろの方から睨む沖田、そしてそれをヒヤヒヤしながらも見守る顔ぶれ……。
土方ほどではないが、銀八も同じようにため息をついた。
原因は言うまでもなく、背中にちくちくとぶっささる視線の所為。
銀八の腕に手を絡ませ、神楽は、もう反対の腕にからませるあやめと、視線の対決を繰り広げている。
べーっと舌をだして見せては、銀八は自分の物かの様に腕にすりよる。それに対抗するかの様にあやめは銀八に甘えた声を出しては離れろと言われ……。

そんな調子が続いたが、これじゃ寺の見学も何もできないと銀八がとうとう口を開いた。

「オイ、神楽。俺の所に夫婦喧嘩を持ってくるな」
「なっ、銀ちゃん、誰が夫婦ネ!あれはあいつがいつまでもグチグチ根に持ってるから……。大体私もちょっとは悪いなと思って、つーか、私が何で謝る必要があるのヨ。断じて私は悪くないアル」

夫婦喧嘩と言っただけで、別に名指しなどしていないが、やはり神楽の頭にあるのは一人の男の顔しかないらしく、勝手に沖田と結びつけてはまた、ぷりぷりと怒りだした。
「あのなァ、神楽ちゃん。大体どーみてもありゃァ、ただの妬きもちだろうが。ここはお前が折れてやれ。そして離れろ」
「や、妬き……」
もじもじと神楽は頬を染めた。
「そ、それにしたってあいつの態度は酷いアル。大体、私とあいつ……そんな仲なんかじゃ……ないアル……」
語尾になるほど小さくなっていく神楽の言葉は、当然沖田にも土方達にも聞こえない。
聞こえているのは、銀八と、その隣でやれやれと首をふる、あやめだけだった。

「銀ちゃんは、私が居たら、迷惑アルカ?」
「いや、そうじゃなくてだなァ……。殺人的ビームを出してくる視線がおっかねェっつーか、命が惜しいと言うか……」
なんと言ったらいいのやらと、銀八は頭を掻いている。
「でもま、なんにせよ、逃げンのはオメーらしくねーわな」
つー事で……。
いい終える時には、猛ダッシュで神楽の側から銀八は居なくなっていた。
待っての一言も言えなかった神楽は、唖然と其処に立ち尽くす。神楽の後ろには当然土方やお妙達も居たのだが、此処は……と、見てないふりをして通り過ぎた。

そして、最後に神楽の横を、沖田が通りすぎようとした時、ぐわっと神楽の手が伸びてきたかと思うと、まるでホラー映画並みに沖田の腕をミシミシと音を鳴らしながら掴んだ。そして離さない。更に俯いたまま表情も分からない。
沖田は最初ギョッとさせていたが、ふぅと息をついた。

「なんでェ。あっちこっちと忙しい女でィ。銀八に逃げられたら次は俺かよ」
正直こんな台詞を言うつもりではなかったが、口に出してみれば、なんとも皮肉たっぷりな台詞に仕上がってしまった。そしてその言葉を聞いた神楽は相変わらず俯いたままである。

「だって……お前がもともとは……。だって……銀ちゃんが……」
ぼそぼそと何かを言っているが、沖田はよく聞き取れにくい。
けれど自分に対する不満が入ってると言う事は分かっているようだった。
しかし、この件に関しては、確かに自分の妬きもちが原因であると言う事は分かっている。結果、沖田は素直になる事はなかったが、何もなかったかの様に、神楽の手を繋ぎなおした。
この沖田の行動に、神楽はわっと口をあけた。右に、左にと目まぐるしく眼球を動かし、最後、チラリと沖田の方を向くと、神楽に表情を見せないようにと、そっぽをむく沖田が居た。
口をきゅっと噤んだと思うと、沖田の手を神楽はやんわりと握り返した。

やっとと確認したミツバは、柔らかく、神楽に寺の鑑賞を進めた。
はじめぎこちなかった二人だが、10分もすれば、自然と雰囲気も柔らかくなっていった。
寺の雰囲気は独特で、今更だが、心が洗われる様な気がした。
床を踏むとキィ、キィ、と音がなる。些細な事だったが、隣に沖田が居るだけで感動が倍になる様な気がした。

そんな感じで楽しんでいると、狭い寺の通路は生徒でいっぱいになっているため、何かの拍子で神楽の背中が押された。神楽が倒れる事はなかったが、トレードマークのビン底眼鏡がカラカラと床に転がった。後ろの方からごめんとの声が聞こえたが、神楽は笑って先の道を勧めた。
転がった眼鏡は、生徒に蹴られ、先に先にと行ってしまう。これをみかねた沖田も眼鏡の行方を追った。
二人中腰で眼鏡の行方を追い、丁度追いついたのは同時だった。

「よくそんなダセー眼鏡つけてんな」
と、言いつつも、実の所はこの眼鏡を外すなと神楽に言ってるのもこの男であって……。
「余計なお世話アル。それにしても良かったァ。私コレがないと何も見えないアル」
「嘘つけ、コノヤロー。別に眼鏡なくても、しっかりと見えてんじゃねーかよ」
沖田の言葉に、神楽はイタズラな笑みを含み口を開いた。
「前々からこの台詞を言ってみたかったアル」

暢気に話しているが、とっくにまた子やお妙などは先にいってしまっているし、先ほども言ったとおり、こんな狭い道で、男と女がしゃがみこんで話しているというのは、正直非常に邪魔である。けれど、他の生徒が何も言わずその場を通りすぎて行くのは、しゃがみこんでいるのが、あの、沖田総悟だと分かっているからだった。

ちらちらと見ては、何も見てない様で通りすぎる。
神楽はと言えば、そんな周りに何も気付いてないかの様に会話をしていた。
けれどそこはやっぱり邪魔になる場所であって……。

「つーか、通りの邪魔になってますぜ?」
「分かってるアル」
言いながら神楽が立とうした所、体制を崩した。しかしそれを沖田が見事キャッチした。
「あ、ありがとうアル……」
顔をあげた神楽の前、鼻先5センチ前に沖田の顔。
「あっ……」
ゴメン……。儚い神楽の声が沖田の自制心をくすぐった。
しかしこんな所でこんな状態になっている場合じゃない。生徒達の目は間違いなく好奇心いっぱいで自分達に向けられている。
早く離れなきゃ駄目アルっ――。
ぐいっと沖田の胸を押し返した神楽の体に、又しても生徒がドンとぶつかってしまった。思わず前のめりになった神楽の体……。

騒然となる生徒の声、神楽と沖田の見開かれた瞳。
通路の真ん中、しかもしゃがみこんだ二人の唇は衝動的かの様に、強く、強く、くっ付いた……。



……To Be Continued…

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